「風雲戦国之列国(邦題:キングダム~戦国の七雄)」の続編がU-NEXTに来ていたので、視聴。「列国」は春秋戦国時代の七つの国の興亡を描いていてお勉強の要素が強かったけれど、こちらは人物にスポットを当てているので見やすく面白い。
但しタイトルにあるように、単なる英雄ではなく取り上げられているのは「梟雄」。強暴で野心を持つ人物、と辞書にはある。奸計を巡らし、残酷な行いをしたと思われている人物を新たな視点で見つめようという趣旨のようだ。
…でも春秋戦国時代に疎い自分はそもそもこの人たちがどういう評価をされているのか知らなかったりする。
なので、取り上げられている梟雄7人の歴史的評価がどんなものなのか、調べてみた。
(…と言っても、資料は日本版・中国版のWikiと百度百科辺りです)
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姫丹(~BC226)
「始皇帝暗殺」を扱った作品には必ず登場するのでこの人は知っている。燕国の太子で、長いこと秦の人質だったが逃げ帰り、暗殺者・荊軻を送り込んだ人だ。映画やドラマでは物静かそうでそれなりに考えている人に見えたし、このドラマでもそんな感じだけど、宋代・司馬光の歴史書「資治通鑑」の人物評は「軽慮浅謀」。うーん。
暗殺者・荊軻の物語は「史記・刺客列伝」に取り上げられて以来いろいろにアレンジされ、既に漢代には一般にも普及したらしい。個人的にびっくりしたのは荊軻が暗殺に失敗した理由の方だった。「生け捕り」にしたかった、って話は他のドラマでも見たことがある気がするけれど、自分の国のため、という話は初めて聞いた。本当?
太子丹役は宋洋(「潜夢追凶 邦題:幻夢追凶~ドリーム・インセプション」)。
白起(BC332?~BC257)
秦の始皇帝の曽祖父、昭襄王の時代の常勝将軍。優れた軍術家だったこの人が「梟雄」と言われる理由はドラマで取り上げられている通り「長平の戦い」の残酷さにある。
「長平の戦い」という言葉は知らなくても「秦軍により趙人の捕虜40万人が殺された」事件は、この時代のドラマを観ていれば必ず耳にする。秦軍の残虐さを示す象徴であり、幼い頃の始皇帝・嬴政が趙でいじめ抜かれたのもそのせいだ。
ただ後世の人は必ずしも捕虜虐殺が白起一人の決断だとは思っていなかったようで、むしろ軍術家として評価が高い。唐の二代皇帝・李世民は「昭王の為に趙を攻めたのだから、あれは君主の罪だ」と述べている。
…まあ、あの戦の後謀反の疑いを掛けられて自害に追い込まれてしまうことから、昭王や側近が全ての罪を擦り付けた感は否めない。
白起役は苏可。「大明風華(邦題:大明皇妃)」での悲劇の忠臣・于謙役や「天下長河(邦題:康熙帝〜大河を統べる王〜)」での頑なな役人が印象的だった人だ。
芈八子(宣太后)(~BC265)
秦:昭襄王の母親、始皇帝の高祖母。
ドラマ「羋月(邦題:ユーミエ 王朝を照らす月)」の主人公のモデルの人だ。…残念ながら観てないのでどのように描かれていたのかよく知らない。「風雲戦国之梟雄」では非常に頭の回転の速い、竹を割ったような性格の女性に描かれている。
ただこのドラマで描かれていた部分(自子を即位させるまで)だけでは「梟雄」ぶりは感じられない。宣太后の梟雄ぶりが際立つのはこの後だ。少数民族だが力を持っていた義渠の王を誘惑し秦に呼び出して殺害したが、これは息子の昭襄王との共謀だったという。その後秦は義渠を攻撃、滅ぼした。
昭襄王が即位した時に誘惑を始めて二人の子供をもうけ、35年後に殺害した、ということは最初は都合のいいように操って、必要がなくなったら殺害…ってことなんだろう。
そう考えると、なかなか凄い女性だ。
宣太后を演じていたのは、最近「辺水往事」に出演していた齐溪。主人公と仲良くなるカラオケ店の女性経営者の役だが、印象が全然違っていて気が付かなかった…。
田単(生死年不明)
この人のことは知らなかった…燕が斉を滅ぼしかけた時、即墨(現在の山東省青島市)と莒の二つの都市だけが残って抵抗を続けた。その即墨を守り抜いた人だ。
様々な策略を講じて街を守った話はドラマの通りで、後世の評価も上々。荀子、司馬遷、果ては呂布にまで軍事・用兵の天才として言及されている。
ドラマでは燕軍を打ち破った時点までが描かれるが、その後斎で宰相にまで上り詰める。更に「史記」や「戦国策」といった歴史書では趙の相になり都平君に封じられた、と書かれているらしい。何で趙国に移ったのかは資料がなくて分からないみたいだ。あんなに頑張ったのに国を追われたのか、自分をもっと高く買ってくれるところに移ったのか。
やっぱりこういう権謀術数に長けた人(しかも軍を動かせる)というのは、謀反を疑われるんだろうな。
田単を演じているのは聂远。そういえば「皓镧传(邦題:コウラン伝 始皇帝の母)」では呂不韋役。個人的には「風起隴西」の怪しい上司役が好きだった。いい役者さんだよね。
魏無忌(信陵君)(~BC244)
…この人のことも知らなかった。「戦国四公子」の一人だそうだ。斉国の孟嘗君田文、趙国の平原君趙勝、魏国の信陵君魏無忌、楚国の春申君黃歇の4人で、どうやら自腹で良い人材を集め育てた人、という括りのようだ。
門番を食客に招いたエピや、「長平の戦い」で趙の首都・邯鄲が秦軍に包囲された際の虎符を盗ませたエピはドラマの通り。後世の評価もその行いや性格を誉め讃えるものばかりだ。
結果が趙(ひいては秦以外の6国)を救うことになったからいいようなものの、やっていることは食客という名前の間諜を使って情報網を作り、虎符を盗んで勝手に軍を動かし…というものだから「梟雄」と言われても仕方ないのかも。
演じているのは张博。私は初見だけれど、ドラマ版の2010年「三国志」で孫権を演じていたそうだ。
李牧(~BC229)
この人は有名人だ。漫画「キングダム」でもラスボスっぽく描かれている、戦国四大名将の一人。(他は秦の白起と王翦、趙の廉頗)…勿論後世の評価も「名将・智将」ということで一致している。秦国にとっては「梟雄」他の国々とっては「救世主」って感じかも。
百度百科で見つけた面白い記事は「武安君」という称号を貰ったこの時代の人物は三人とも非業の死を遂げているというもの。李牧も「武安君」だったけれど、前述の白起将軍も「武安君」。もう一人蘇秦という人も「武安君」。蘇秦は二人より少し前の時代の人で、BC326年に秦に対抗するための6国の同盟を進め、6か国共同の宰相を務めた人物だが、最終的に暗殺された。
動乱の時代、智将というのは生き辛いのかもしれない。
李牧を演じるのは吴樾。いろいろなドラマで顔を見かける俳優さんで配信中の「蔵海花」にも出演している。
昌平君(BC271~BC223)
映画「キングダム」では玉木宏が演じている昌平君。「キングダム」では呂不韋陣営の智将、という扱いだが、こんなに数奇な運命を辿った人だとは知らなかった。
…ここから先はひょっとすると「キングダム」のネタバレになるのかも…。(どこまで話が進むのか知らないけど)ご注意ください。
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まず昌平君が太子時代人質となって秦にいた楚の考烈王と昭襄王の娘の子供だってことに驚き。そんなにいいうちの子だったのか。始皇帝とも親戚だ。
呂不韋に仕えていたわけだけど、呂不韋失脚後も朝廷に残り右丞相を努めることなった(後に罷免)。
天下統一まであと二つ、楚と斉になった時楚の人民の安慰の為に、身分としては公子である昌平君が楚に派遣されるが、昌平君はそこで楚王として即位し、秦に反旗を翻す。
…昌平君については資料が少なく、嫪毐の叛乱を鎮圧した以外にどのような功績があったのかよく分からない。なので、歴史家の彼に対する言及、というのも見当たらない。
親戚であり、10年も右丞相を努め苦楽を共にしたであろう二人がなんで袂を分かつことになったのか。ドラマでは「自分は〇国人」であるというアイデンティティの問題になっていたけれど、少々疑問が残る。
春秋戦国時代ってもっと軽々と国境を飛び越えている印象だ。自身の才で身を立てようとする者は、こっちの国がダメならあっちの国、という感じで国から国へと渡り歩き、自分を評価してくれる場所を捜した。そんな気風の時代に「〇国人」という区分けは意味を持たない。急に出身国に対するロイヤリティを思い出す、なんてことはないような気がするんだけど、暮らしたことのない国でも「亡びる」となると違うんだろうか?
演じているのは黄维德、「琅琊榜」の誉王だ。大分お年を召された印象だけど、お元気そうで何より。
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題名:风云战国之枭雄 風雲戦国之梟雄 キングダム乱世の英傑 2022年全7話
導演:金铁木 編劇:金铁木・戴修扬・江安君・段智溢・刘鸣
出演:宋洋 苏可 齐溪 聂远 张博 吴樾 黄维德