愛奇芸「恋恋劇場」枠、且つ事前に発表された耽美なポスターのお陰で美麗な恋愛ものかと思ったら「妖と人がチームを組んで事件を解決する」探案風味で始まった「大夢帰離」。
個人的にはとても楽しく観ているけれど、評判が二分されるのは作品の出来だけではなく監督さんが郭敬明Guo Jingmingだってことにもあるようだ。どんな人なのか、ちょっと調べてみた。
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「大夢帰離」のスタッフロールに郭敬明の名前はない
ちょっとややこしい話になるが「大夢帰離」の導演の名義は「张戈敏」で郭敬明ではない。でも百度百科で「张戈敏」を引くと郭敬明のページに飛ばされる。「张戈敏」の名前は、やはり郭敬明が導演したと言われている「雲之羽」の製作人欄にもあるが、「雲之羽」の導演の名義は「顾晓声」。…何だ、これ?
どうやら「张戈敏」も「顾晓声」も郭敬明の別名義らしい。
あくまでもらしい、だけで確証がないのが、また面倒。最近では「大夢帰離」番組配信直前に郭敬明の微博から番組関連の記事が一斉に削除されてちょっとした話題になっていた。
何でこんなにややこしいことになっているのか、というと郭敬明本人の評判自体が賛否両論だから、ということのようだ。
作家としての郭敬明
郭敬明はそもそも作家として有名だ。どうやら熱狂的なファンと同じくらい熱狂的なアンチを抱える人らしい。
2001年「假如明天没有太陽」で「全国新概念作文大賽」一等を獲得。処女長編は氷族の皇子と弟の確執を描いたファンタジー小説「幻城」。代表作は他に「臨界·爵跡」シリーズ、経済発展時代の上海を背景に展開する群像劇「小時代」等。作品はベストセラーになり、商業的に最も成功した作家の一人として「ニューヨークタイムズ」紙で紹介されたこともある。
小説の内容がどんなものなのかははっきり分からないけれど、中文版Wikiによれば評価は二分されるようだ。
監督としての郭敬明
郭敬明は自身の小説を映像化することにも熱心なようだ。監督・脚本家としての経歴は意外に長い。2007年に自身の小説「夢里花落知多少」の脚本を担当したのが始まりで、2013年には「小時代」シリーズの映画化で自ら監督を担当。
2016年の「幻城」も自身の原作を基に脚本を担当…これ、少し前から中国ドラマを観ている人には多分馴染みのある作品だと思う。冯绍峰、马天宇という美形を揃え「氷族兄弟の確執を中心にした壮大な物語」なんだけど、何せ冗長。奇妙に西洋っぽい甲冑や目に痛いほど真っ白なファンタジー世界で、最後まで行き着く前に挫折する人多数。私もその一人だ。
映画「爵跡(2020)」「爵跡2:冷血狂宴(2020)」「晴雅集(2020)」はいずれも脚本・監督。ドラマは「雲之羽」が初めてで「大夢帰離」が2作目になる…多分。
「爵跡」「爵跡2:冷血狂宴」は観ていないのでよく分からないけれど「晴雅集(邦題:陰陽師:とこしえの夢)」は面白かった。
「晴雅集」上映は5日で打ち切り
「晴雅集」は珍しく本人原作ではなく、夢枕獏「陰陽師」をきちんと映像化権を得て作品化したもの。もっとも舞台は平安京ではなく架空の中華風の都に移され、お話も「八尾比丘尼」をベースにしているものの、ほぼオリジナル。
晴明(趙又廷)と博雅(邓伦)の関係性も大祭に招かれた退魔師同士に置き換えられている。ただ、晴明の烏帽子に白装束という造型はほぼ原作(というより岡野玲子の漫画版)通りだし、事件の鍵を握る公主のメイクが和風だったり、中華世界に「和」が混ざりこんだような世界観に仕上がっている。
これは(観た限りの)郭敬明作品を通して言えることだが、映像は大変美しい。色彩には特に気を遣う人のようで、この映画でも色見本がついた番宣写真が沢山公開された。暗めの中間色メインのセット(建物の造型も凝っている)、衣装も色は抑え目だが全面に刺繍が施されていたりして豪華。重そうでもあるのだけど、長い袖がふわりと舞うようなアクションシーンはとても美しい。
また、変更された部分のあちこちに原作の雰囲気というかテイストが残っていて(例えば晴明と博雅が絵の中で酒を酌み交わす場面や二人の会話など)やっぱり「陰陽師」の映像化だなあ、とも思える。ストーリーも通俗ではあるけれど、都に留まることを運命づけられた死ねない人間と命も情もないはずの人形の純愛が美しく描かれる。
この映画、上映前はかなり期待されていたのだが、上映5日ほどで突然上映終了になってしまった(但しその後、ネットフリックスで中国以外の全世界公開された)。
事件の顛末
突然の上映打ち切りの明確な理由は分からないが、丁度この頃郭敬明と番組制作者の于正の盗作疑惑問題がネットを騒がせていた。郭敬明の盗作疑惑は既に判決が出ているものだったけれど、本人が謝罪を拒否していたことで十数年後、今度はテレビ関係者のボイコット騒動に発展したということらしい(事件経過は中文版Wikiより)。郭敬明の他の作品についても盗作疑惑が幾つかあったことが騒動をより大きくする原因になったようだ。
結局郭敬明が微博に謝罪文を掲載することで事態の収束が図られた。
「晴雅集」についても「〇〇部分がパクリ」等の投稿が相次いだ(これらは噂に過ぎない。本当に盗作部分があるならネットフリックスは配信しないと思う)。同時に製作されていたと思われる続編の「瀧夜曲」はお蔵入りになったままだ。
復帰作は「雲之羽」?
この映画以来音沙汰がなかった郭敬明の久々の作品が「雲之羽」だとう噂されていたけれど、蓋を開けたら本人の名前がなかった。…のではっきり復帰作なのかどうか分からないが、如何にも「らしい」作品だ。
暗めに抑えられた画面の色合いや、衣装の質感。濃いめのメイクで美しく整えられた人物造型。どちらを向いても美男美女、といった配役や美しい殺陣。うーん、本人だと思う。
何となく日本のアニメや漫画を連想させるストーリーも、それっぽい(私はこのドラマを観て山田風太郎の忍法帖シリーズ、というより漫画版の「バジリスク」を思い出した)。
この「既視感」がいろいろな反発を呼ぶんだろうなあ、と想像もできる。でも次から次に繰り出される罠とどんでん返しは観る者を飽きさせないと思うし、個人的には雰囲気含めて大好きな作品だ。
「大夢帰離」は珍しくコメディタッチ
「大夢帰離」は珍しく軽妙なタッチで始まった。妖と人間が協力する、というのも日本の漫画ではよくある設定だけれど、中国ドラマではあんまり見たことがない気がする。
ただ「既視感」はやっぱり付きまとう。今回は何だか戦隊ものみたいだ…。
物語が、というわけではなくキャラ設定というか、そういうの。赤が主人公の妖・朱厭、ピンクがヒロインの文瀟、ライバルキャラの青が卓翼宸、黄色が少年医師の白玖で緑が小山神・英磊、ブラック(というかその他の色)が弓の達人・裴思婧。
ああ、赤と青は入れ替えた方がいいかなあ…。
それぞれ秘密や事情を抱えていて、赤と青の間には因縁が付きまとう。それらを軸に物語が展開するけれど、各エピソードも何となく観たことあるようなないような…(この辺りで今度は古いゲーム「東京魔人学園外法帖」を連想してしまった。人間・妖双方の視点が描かれる辺り、雰囲気が似通っている気が)。
お話が中盤になるにつれ、深刻になっていく割に同じところをぐるぐる回っている気がするのも評価を下げている原因かもしれないし「恋恋劇場」なのに恋愛要素が薄め、というのも視聴者の期待をいささか裏切っているかもしれない。恋愛要素については正直「雲之羽」の方が充実していたと思う。
ただ、とにかく登場人物が皆美しい。髪の毛の一本一本までおろそかにしない画作りや、缉妖司の大きな扉や真ん中に池を設けたセットがすごく好みだったりするので、ぼおっと見ているだけでも楽しい。
メンバーの一人倒れて問題が起き、それが案外簡単に解決すると次の一人が…という「ぐるぐる」状態がいつまで続くのか、この先意外な展開というのは待っているのか?
…でも朱厭がめっちゃきれいだからまあいいや。エンドのダンスも楽しいし、戦闘時の「無・心・生・大・夢」でテンション上げて最後まで突っ走ってもらいたい。
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題名:大夢帰離 大梦归离 Fangs of Fortune
編劇:张戈敏 導演:张戈敏 落落 魏楠 全34集
出演:侯明昊Hóu Mínghào 陈都灵 田嘉瑞Jerry Tian Jiarui 程潇 Cheng Xiao
林子烨 徐振轩