真珠採りの奴婢から女商人に成り上がる「細腕繁盛記」で、端午と燕子京の愛憎極まるラブロマンスで、燕子京の復讐譚で…と、いろいろ盛り沢山な「珠簾玉幕」。唐代の長安から西域までを巡る「旅もの」でもあるけれど、唐代の地理には詳しくないので、何処だかよく分からない…ので少し調べてみた。
ここから先はドラマ中盤までのネタバレが含まれます。ご注意ください。
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舞台は合浦~広州~西域~揚州へ
<合浦>
「珠簾玉幕」の始まり、主人公・端午(赵露思 飾)と西域の商人、燕子京(刘宇宁 飾)が出会うのは合浦の真珠採取場だ。「合浦」とは現在の広西チワン族自治区北海市にある合浦県のことらしい。地名だけ聞いてもよく分からないけれど、ベトナムとの国境に近い南の港湾都市だ。広東省・香港・マカオと隣接する地で。2000年以上の歴史があるという。
合浦は「海のシルクロード」の起点の一つで、合浦漢代文化博物館には中国において漢の時代のシルクロード文化財を最も多く収蔵しているとのこと。燕子京が大きな船で商いに来るのも頷ける。
<広州>
採取場を逃げ出した端午が燕子京の船に助けられ、向かうのは広州。広州は合浦から東、香港の北にあり、海伝いに船で行ける。
広州は唐代でも大貿易港として栄えた地だ。「海のシルクロード」はここから始まる。東西交易の拠点で、外国人居留地もあったという。端午が商売のイロハを学ぶ場所としては最適だ。
広州で展開されるのは燕子京VS崔家の真珠取引を巡る攻防だ。ドラマの中でも描かれるように合浦は朝廷への献上品としての真珠の産地として有名で、献上記録も残されている。でも最も大きな真珠(上真珠)はやっぱり西域産のものだったそうだ(中文版Wiki)。
それにしても広州から西域に至るまで、かつての燕家はすごく手広く商売してたってことになる。
<武陵>
崔家の真珠売買の裏取引を潰した燕子京は崔家の息の根を止めるべく、武陵に向かう。
…武陵の場所がよく分からない。「湖南省北部・湖北省南部・貴州省東部・重慶市東南部・広西チワン族自治区北東部にまたがる地域(日本版Wiki)」って何処よ…。コーエーのゲーム「三国志」の説明では武陵は「現在の湖南省常徳市」とある。その辺り?
この地は崔八公が収める地で、採掘資源が豊富という設定。湖南省は金属・非金属の自然資源が豊富な処だから、やっぱりこの辺りなんだろう。常徳市はだいぶ内陸で武漢市や長沙市の近くにある。燕子京一行も船を降りて陸路を進んでいるようだ。
ここでは越家の養女・越云岫との出会いがあったり、端午と燕子京の仲が深まる事件があったり、燕子京が毒に侵されていることが分かったりする。崔八公の悪事が暴かれ崔家の没落が決定的になったところで一行は西域を目指すことに。
<西域>
最近中国ドラマの舞台として流行りな気がする「西域」。敦煌以西、玉門関と陽関の先の砂漠地帯だ。砂漠が唐の律令の届かない無法地帯で匪賊がいるのもお約束だけど、彼らが都の誰と繋がっているのか、燕家皆殺しの真相は今のところ謎のまま。そして商隊を襲った悲劇も誰が黒幕なのか不明のままだ。
ここから端午と燕子京は別れ別れになり、それぞれ揚州へ向かう。
<揚州>
西域が唐の西の端なら、揚州は東の端、南京のちょっと東辺り。広陵、江都とも呼ばれた。長安とは大運河で結ばれており、唐代では長安や洛陽よりも栄えたと言われる交易の要衝。楊州も「海のシルクロード」の一部とされる。
あちこちに支店やらスパイやらを置いていそうな燕子京はともかく、端午がどうやって西域からここまでたどり着いたのか、謎。優に三年くらいかかりそう。武陵からこの地へ戻ってきた崔十九娘はボロボロになっていたのになあ。
ともあれこの地では鄭家と燕子京、ここに地盤を築こうとする端午との争いが勃発中。ちょっと話せば解けそうな誤解を引きずっている燕子京と端午も心配だし、燕子京の体調も悪化の一途を辿っていて目が離せない。
燕家のかつての商いのルートを考えてみる
燕家は西域に本拠地を持ち、且つ広州に真珠の採取場を持っていた、ということになっている。場所が余りにも離れているので、一見無謀な設定に思える。
燕家海・陸のシルクロードを抑えていることになるけれど、海と陸のシルクロードの交差点は唐の国内にはない。海と陸のシルクロードを繋ごうとすれば、インドかミャンマーを陸路で南下し、インド洋に出るしかないのだけれど、ヒマラヤの山々を迂回しなければならないのでものすごく遠回りだ。広州に真珠採取地を持っているなら、わざわざ西域に本拠地を設けなくてもいいのでは?
地図を眺めながら、燕家がどういうルートで交易をおこなっていたのか考えてみた結果、西域から長安まで陸路、その後は船を使ったのだと推論。
西域でペルシャ方面からの原料を買い入れ加工、そのまま陸路で長安に向かい売買、その後は隋代に整備された「大運河」を使って洛陽・揚州・杭州などを回り、その後海沿いに広州まで足を延ばして真珠を運び入れ、帰りは同じ道を遡って長安で真珠を献上したのではないだろうか?
西域に本拠地を持っていれば、そこで安く原材料を仕入れられ、余った材料は運送料を上乗せして他家に売りつけることもできる。船であれば広州からも陸路よりは安全かつ大量に物資を運べる。
結論としては、燕家が崔家や鄭家より有利だったのは、海上運送業も兼任していたためだと思われる(だから恨みを買ったんだな…)。船が交通手段のメインであれば、匪賊に割と簡単にやられてしまった理由も分かる気がする。船上は狭いので、大人数の護衛を雇い入れておくよりは少数精鋭を乗り込ませた方が有利だ。ただ一番危険なのは本拠地である西域なので、もうちょっと防御態勢を固めておけばよかったのに、と思う。
肝心のドラマの中身は…
端午と燕子京の恋愛は、仲が深まったと思った途端悲劇が起きて別れわかれになるし、そこまで甘い雰囲気というわけでもない。恋のライバルである张晋然(唐晓天 飾)は身分も高いし基本素直な良い人なので、三角関係も実にあっさり。
燕子京が商売を用いて仇の商売人たちを潰してゆく過程は面白いけれど、端午の「細腕繁盛記」の方は上手い具合に事が運び過ぎる気もする。
むしろ一番興味深いのは端午以外の女性の生き様、という部分かもしれない。幸せな結婚以外生きる道はないと思い込んでいた憑五娘は自ら家業に関わるようになるし、養父に騙され搾取されていた越雲岫はその細工の手腕を発揮し端午の右腕となる。時代の頸木に関わらず、女性たちが元気に活躍する様は観ていて楽しい。
逆に、ヴィランとして登場する崔十九は、商売で成功し父に認められ自由になりたいと願っているにも関わらず、取る策が常に下策。どうにもならないからって、女を使って道を切り開こうとする姿は…悲しいからやめようよ。
ちょっとだけ苦言を呈したい、宝飾品の描き方
このドラマのオープニングが好きで、毎回OPとEDを飛ばさずに見ている。ヒスイやサンゴ、瑪瑙等(のCG)で描かれる海や山はことのほか美しい。一番好きなのはラピスラズリと金の星空と砂漠…あのカット、もう少し長く観たい。
これだけ力を入れて原石を描いているのに、ドラマに登場する宝飾品がちょっと雑…な気が。本物は勿論集められないだろうけど、宝箱の中の宝飾品とか、如何にも安物っぽい。それと揚州のお姉さんたちの髪飾り。唐代の宝飾が派手だったことは分かるけど、あんまり趣味が…もうすこし舞台や衣装の色含めて、統一感が欲しかった。
微博には綺麗な装飾品のスチルもあるので、ちゃんと用意してはいるんだろうけど、ドラマの中では余り美しく見えない。せっかく綺麗な宝石や宝飾品がテーマの物語なんだし、ここぞという時には溜息が出るような美しい細工が見たいなあ。
残された謎、まとめ
このドラマ、半分以上来たのに残された謎が一杯。忘れないようにメモっておく。
-血珠に秘められた「宝の地図」。匪賊はこれ目当てで燕子京を狙ってるんだよね?
-燕子京の両親の冤罪事件と滅亡・一家離散の真相。
-燕子京の生き別れた妹は本当に亡くなった?
-商隊壊滅の裏で糸を引いていたのは誰?
砂漠の怪しい義兄(尉迟无意だっけ?)の存在。
-朝廷のあれこれ。郢王(张晋然の義兄)とか、徐南英とか。
特に揚州では武則天の頃に徐姓の人間が反乱を起こしたりしているので、気になる。
全40話なのに、残された謎は案外多い。原作小説からは大分改変されているみたいだし、原作小説はそもそも「前伝」で未完だし…全部解決するのかなあ。
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題名:珠帘玉幕 珠簾玉幕 THE STORY OF PEARL GIRL
原作:谈天音「昆山玉之前传」
導演:谢泽(総導演)「風起洛陽」陈熙泰(B组导演)「蘭陵王」
編劇:府天(総編劇) 张荣 王晨 马莎莎 40集
出演:赵露思Zhao Lusi 刘宇宁Liu Yuning 唐晓天 Daddi Tang
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