lienhua’s Dragon Inn 龍門客棧

中国ドラマと香港映画について書いています 記事についてはINDEXをご参照ください

「大夢帰離」に登場する妖の元ネタは「山海経」(~最終集)

最後まで変わらず好きな人は好き、苦手なことは…というテイストな「大夢帰離」。山場に次ぐ山場なのはいいけど、正直ちょっとくどい…気もするけど、「小詩句」のMVを繰り返し観ちゃったりするくらいハマったのも事実。

 

このドラマに登場する妖は全て「山海経」に登場する妖だ、というのは以前の記事で書いたけど、観ているうちはさっぱり忘れてた。…朱厭はどんな風に書いてあるんだろ?

資料は、百度百科と平凡社山海経」、「捜狐」の記事辺りです。

ここから先は終盤までのネタバレがあります。ご注意ください。

---------------------------------

「大夢帰離」微博より こんなイベントもあったようだ

山海経(せんがいきょう)って?

山海経は紀元前3世紀から4世紀頃に書かれたとされる「地理書」。正確な地理が記されているわけではなく、中国人の「地理観念」が記されている書、ということになるらしい。「〇〇から三百里西へ行くと〇〇山があって、赤銅が取れて、〇〇という妖がいて…」というような文言が延々と続き、現実と伝説が入り混じっている内容だ。

 

幻仙ドラマにしばしば登場する妖や怪物、例えば饕餮(とうてつ)や窮奇(きゅうき)、九尾狐なんかも山海経由来だ。ただ、ドラマに登場する妖全部が「山海経」由来というのは珍しいかもしれない。ドラマで妖が住む地とされる「大荒」も山海経由来だ。

 

ドラマに登場した妖の元ネタ

<朱厭> 趙遠舟(侯明昊 飾)

ドラマの中でも「猿」「猴」と言われていたけど、その通り猿の妖。西方にある「小次之山」というところに棲み「天下大乱」を招くと言われている。首は汚れない白い毛皮に覆われているが手脚は赤い。

 

…監督さんがこのまんまの造型にしなくて本当に良かった(笑)。でも天下大乱を招く妖なら大荒随一の大妖というのも頷ける。

侯明昊はこの大妖を実に美しく貫禄十分に演じていた。他の人よりひと回り大きく見える衣装も素敵。衣装にちりばめられた赤いラインストーンは「朱厭」の原型の名残なのかも。

 

「捜狐」の記事によると、他の神話では朱厭は初代女神の乗り物であり、後に二人は愛し合うようになるんだとか。姿は猿(他の伝説では狐狸の姿とも)でも浪漫チックな伝承のある妖だ。

 

趙遠舟こと朱厭は複雑な役柄で、如何にも大妖然としているけれど内面は葛藤や後悔や文瀟への思慕の念(と自分は釣り合わないという思い)がぐるぐるしている人物だ。侯明昊自身もインタビューで「挑戦だった」と語っている。侯明昊の印象って「可愛いよね」くらいしかなかったのだけれど(失礼…)「異人之下」辺りから変わった気がする。趙遠舟のわずかな仕草や視線で感情が伝わってきて、観ているこちらも切なくなる。ラストの雨に泣かずにはいられない。

 

<冰夷> 卓翼宸のご先祖(田嘉瑞 飾)

馮夷とも言われる水神。忠極之淵に棲み、人面で双龍に乗っている。「史記」では河伯の別名だとも言われている。山海経には冰夷の容姿は書かれていないけど、河伯はハンサムな男性らしい。

 

冰夷と応龍の場面は綺麗だった。このドラマ、綺麗な場面だらけだったけど。卓翼宸は後半ずっと辛い目に遭いまくりで不憫…なので、エンドロールの「小詩句」のダンスで田嘉瑞がノリノリで(でも不器用に)踊っているのを見ると何だかほっとしたり。

 

<応龍>(侯明昊 飾)

ついでに応龍についても。

黄龍とも呼ばれ、雨を降らせる雨神。黄帝(所説あるようだけど古代中国の皇帝)の配下。三国時代に編纂された辞書「広雅」によれば姿は「翼のある龍」。

冰夷と応龍がお友達、という設定は多分ドラマオリジナルだけど、冰夷が龍に乗って現れるところからの連想かもしれない。いずれにしろ、応龍も美しくて眼福。

 

<白澤>文瀟(陳都靈 飾)

「白澤令」「白澤神女」はドラマにおける重要なキーワードだけど、この元となっているらしい神獣。山海経の何処に書いてあるのかがよく分からないけれど、有名な神獣のようだ。

外見は白い獅子で、人の言葉を話し万物、特に神鬼について詳しい。徳のある王の前に現れ、邪気を払う。黄帝と出会った際に1520種の妖怪について教えたのがこの神獣。

ドラマの中で文瀟が常に筆を持ち、妖について書き留めているのはこの「白澤」の伝承が元かもしれないし「山海経」を書いたのが彼女(山海経は作者不詳)という設定なのかもしれない。

 

陳都靈演じる文瀟は武芸ができない設定だけど、首を締めあげられたり叩きつけられるシーンが多くて大変だったと思う。黒文瀟が大変に妖しく色っぽかったのは意外。こういう役もいけるのかあ。黒文瀟シーンの撮影は気温5度だったそう。役者さんって大変だ。

 

<槐鬼離侖>離侖(闫桉 飾)

朱厭と同じ山海経「西山経」に名前だけ登場。槐江之山の北に棲んでいる古木で、鷹や隼の住処だそうだ。山海経は地域ごとに章分けされているので朱厭とはご近所さん、ってことだ。

 

離侖は最初は極悪なヴィランとして登場するも、話が進むにつれ何となく同情してしまうキャラクターだ。その最期には泣かされちゃったし。

このドラマの妖は人との二項対立ではなく、その生来の特質から人に害を与えてしまったり、人が好きなのに人から疎まれることで悪意を持ったりと複雑な関係で、その関係性自体がドラマの魅力にもなっていると思う。

 

<傲因>(辛凯丽 飾)

ドラマでは離侖の部下だった傲因は人型の妖。ぼろを纏い、虎の爪を持ち、人の脳を食する、らしい。ドラマの造型は比較的山海経の記述に忠実だ。

 

<山神>英磊(徐振轩 飾)

山海経には山の上に棲んでいるいろいろな神様の名前が載っている。「山神」はそれらの総称だ。日本で山の神様というと大抵女神様(だから女人禁制)って気がするが、山海経の神様はいろんな姿をしているようだ。

 

小山神・英磊は癒し枠。緝妖司メンバーの一員なんだかそうでないんだか微妙な立ち位置にも関わらず、肝心なところではちゃんと活躍していたし、深刻になりがちな物語の中で陽気で明るい彼のキャラクターは貴重だった。退場は本気で悲しかった…。

-----------------------------

「大夢帰離」微博より ラブシーンらしいラブシーンは少ないが切ない恋情は伝わってくる

ここから先はゲスト登場の妖たち。

<訛獣>(张淼怡 飾)

ドラマ冒頭に登場するウサギちゃん。人面だがウサギに似ていて、言葉を話し、常に人を騙す。西のことを東と言い、悪いことを話せば善いことに変わる。その肉を食すると話すことが全て嘘になる。

…天邪鬼みたいな感じかな。それにしても妖を食べちゃうのね。

 

<冉遺魚>

「西山経」に記されている妖魚。龍の頭と魚の身体を持ち、食べると悪夢を見なくなるという。

…妖魚も食べちゃうのか。ドラマでは人間の女性との悲しい恋物語になっていた。

 

<乗黄>(丞磊 飾)

白民国におり、狐に似た姿で背中に角がある神馬。毛並みは白く、これに騎乗した者は2000歳寿命が延びる。「山海経」の他にも詩経等の書物に記述がある。

ドラマの設定では大荒の始まりから十万年も生きている古妖。角が特徴なのは一緒。

 

<青耕>(艾米 飾)

堇理之山に住む鳥。カササギに似て緑色で尾と嘴は白い。疫病を防ぐ。

ドラマ同様、疫病と関係が深い妖。演ずる艾米はまだ16歳だそうだ。可愛いよね。

 

<蜚>(左叶 飾)

その姿は牛のようで首の部分は白い。水辺を行けば水が枯渇し、草原を行けば草が枯れる。これが現れると天下に疫病が蔓延する。

 

ドラマのエピソードで一番好きだったのが蜚と青耕の物語。人々の賑やかな営みが好きなのに、行けば疫病をまき散らしてしまう蜚は本当に哀れで悲しく、人々から神とあがめられながら一端疫病が流行ると打ち捨てられてしまう青耕も哀れだった。恋人たちの物語が殆ど幸せに終わらないのもこのドラマの特徴で、そこも好き嫌いが分かれそうだけど。

 

<燭陰>(谭煜桥 飾)

燭陰は燭龍とも。「風起隴西」で敵スパイの暗号名として登場した燭龍が妖(というか神様)の名前だったとは知らなかった。

人面蛇身で赤い。目を開ければ昼に、目を閉じれば夜になり、食べず眠らず息をせず、息をすれば風雨となる。

ドラマでも山海経の記述通り、眼で昼と夜を操っていた。

 

<龍魚>(林小宅 飾)

山海経には「狸のような姿」って書いてあるのみ。狸のような魚ってどんな???

…ドラマの中では「公主」だったので、美しい女性だった。でも男に騙されちゃう世間知らず。鱗が万病に効くというのは「龍」も「龍魚」も変わらない?

--------------------------------

山海経自体は読み物として面白いわけではないけれど、鉱物や草木の効能の記述に続いて普通に妖の記述がある辺り、日々の現実と不可思議なものたちは地続きだったんだと気付かされる。大荒も東海の果てにあることになっていて、その気になれば行けそうだ。

ドラマのキャラクター造型は美しく改変されているものの、基本は伝承に沿っている。妖の数も少なくはなかったのに被った造型がないのは流石。

 

その他の登場人物についても書いておこう

人間なので上で触れられなかったメインの登場人物についても一言。

 

・裴思婧と裴思恆

この姉弟のエピソードも好きなエピソードの一つだった。特に弟がお人形になってからの二人の会話がしみじみさせられる。

裴思婧役の程潇は韓中の合同ユニット「宇宙少女」の出身だそうだが、身体が柔らかくて動きの切れがいい。難しいアクションを颯爽とこなす姿は実にかっこいい。眼力も強くて素敵。

 

・白玖(林子烨 飾)

終盤のヒロイン、ともいえる白玖。林子烨には「雲之羽」の時も泣かされたけれど、今回も泣かされた。まだ若干13歳なのだそうで、これからが楽しみな俳優さんだ。「一念関山」にも出ているとプロフィールにあったけど記憶になかった。最終盤で登場した男の子だと言われて思い出した…。

----------------------------

中盤ダレるし、終盤溜めが長すぎるし、皆泣き過ぎだし、もう少し整理すればもっとよくなったのに、とも思うけれどこの世界観は欠点を越えて魅力的。

ちょっとロス気味で最初から見直そうかと思ったり、途中で放り出している「少年白馬酔春風」(登場人物が誰の親だかわかんなくなっちゃって…)を再開しようかと思ったり。

 

面白かったです、はい。

----------------------------------

題名:大夢帰離 大梦归离 Fangs of Fortune

編劇:张戈敏  導演:张戈敏 落落 魏楠 全34集

出演:侯明昊Hóu Mínghào 陈都灵 田嘉瑞Jerry Tian Jiarui 程潇  Cheng Xiao 

林子烨 徐振轩

lienhua.hatenadiary.co 

 

lienhua.hatenadiary.co