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「珠簾玉幕」燕子京の経歴と燕家の悲劇を考える(~最終集)

大団円を迎えた「珠簾玉幕」。端午という女商人の一代記としてはきちんと結末を迎えたと思う。十九娘をはじめ、自立してゆく女性たちの姿も美しかった。

一方で燕子京の復讐譚は断片的、或いは推測の台詞のみで語られるため、全体が把握しづらい…というか、誰が悪いかはわかったものの、はっきりしない部分もあって頭が少々混乱気味。理解できた範囲で整理し直してみようと思う。

ここから先はエンドまでのネタバレが含まれます。ご注意ください。

※12/8追記 勘違いしている部分がありましたので、修正・加筆しました。

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燕子京の前半生は最後まで謎に包まれたまま…

そもそも何が起きたのか?

劇中では「燕氏国礼案」と呼ばれる16年前の燕家の悲劇。まとまった説明は12集で张晋然がしてくれる。

「燕氏は楊州の新興宝石商で西域と取引があり、珍しい品々を扱って数年のうちに揚州で名を知られるようになった。唐と康国の有効にも力を尽くし、康から唐への朝貢品を運ぶ仕事も請け負った。ところが朝貢品献上の式典中に献上品が偽物であることが発覚。皇帝は激怒し、燕氏に罰を下した。だがその時には燕氏はもう誰も生き残っていなかった(以上大雑把な訳)」

 

一方燕子京の回想(7集)では

「燕家の商隊(両親含む)は驪龍盗(西域の匪賊)によって子京以外全員殺された」

事が語られる。その際に燕子京の父が語っているのは

「国の仕事として貢納品の飛天像の運搬を請け負った。これは楊州のみならず全国の宝石商の中で燕家が一番とみなされているということだ」(意訳)

また、12集で端午が张晋然から渡された母の形見の品には飛天像のデザイン画と思しき絵が垣間見える。飛天が持つ2つの血珠(血の色をした真珠)には「古麗斯丹宝蔵」が収められていることは劇中何度も触れられる。

 

これらの情報を総合すると

-燕家に朝廷から康国→唐への献上品運搬の命が下る。

-燕家は康国に赴き唐朝廷への献上品として康国から血珠2つを受け取った。

 同時に血珠の台座としての飛天像の製作を依頼された。

端午の父が飛天像を製作

長安へ献上品を運搬途中、燕家商隊は驪龍盗に襲われ全滅。

 燕子京の両親も殺害される。

 燕子京は驪龍盗に囚われ、妹は行方不明。

長安で献上品公開。偽物であることが発覚。燕家処罰の命が下る。

 楊州・合浦を含む燕家は皆殺しに。

端午の母八娘は燕家の西域の本拠地から合浦へ逃亡。

 合浦で合浦を含む燕家全滅の報を知る。

端午の父は血珠の在り処を聞き出そうとする驪龍盗に捕らわれ、拷問され死亡。

 

という流れのようだ。「処罰が下った時には燕家は誰も生き残っていなかった」张晋然は言っているけれど、合浦や揚州の燕家一族を殺害した話は出てこないので、恐らくは商隊全滅のことを指しているのだと思われる。

「献上品の蓋を開けたら全部偽物で、届けたはずの商隊は既に全滅していた」という話は十分ホラーで、この事件に「疑念が残る」というのもうなずける。(長安まで偽献上品を運んだのは誰か?とか当然同行していたであろう康国の使者はどうなった?とか疑問は残るけれど)

 

康国って何処?

康国のことも一応、押さえておきたい。

ドラマに登場する「康国」とは現代のウズベキスタンサマルカンドのこと。砂漠を越えた西に位置する。青色のタイルで描かれる複雑な文様の建物は有名で、写真を見れば「ああ、あそこ」となるはず。康国は唐代成立初期に唐に帰順している(多分「長歌行」終盤辺りの話だ)。

 

飛天像が持つ血珠の中に隠されているのは「古麗斯丹宝蔵」つまりウズベキスタン・グリスタンに隠された宝の地図、ということのようだ。多分2つの血珠を合わせないと場所が分からない。驪龍盗の頭目・靂魁がずっと狙っているのがこれ。

 

この事件に絡んだのは誰と誰?

これは徐南英の部下、徐林が持っていた手紙(37集)にはっきり書かれている。…割とあっさり通り過ぎるので余り印象に残らない。内容は大体こんな感じだ。

「靂魁(驪龍盗の頭目)の足元で燕家が康国とも結び西域で交易して比類ない成果を上げている。もし燕家がこのまま成功すれば自分(郢王)と潭王は唐皇帝の寵愛を失い、靂魁も地の利を失い、崔家と鄭家も立つ地を失う。潭王が崔氏を送り込み、自分は鄭氏に後処理を頼んだので靂魁も最善を尽くせるだろう」

 

内容から考えて郢王から靂魁に宛ててのものだと思う。手紙によればこの件に関わったのは

①商家:崔家と鄭家

②驪龍盗

③朝廷:郢王と潭王

ということになる。

徐南英は恐らく潭王の配下だった時分にこの手紙を入手、崔家=潭王の真珠裏取引ルートが潰れた際にこの手紙の存在を匂わせ、郢王に乗り換えたのだろう。

 

39集辺りで张晋然と燕子京が話している通り、首謀者たちは「利によって結びついた」ので、元々仲がいいわけではない。燕子京が復讐を始めた時点で郢王と潭王は対立、郢王は潭王を潰そうとして张晋然を送り込んで真珠横流しの件を調査させていた。崔家と鄭家も揚州では商売敵、鄭家は宝飾組合を牛耳る崔家を追い落とすチャンスを狙っていた。郢王と驪龍盗はこの時点でも互いを利用する間柄だったようだ。

 

燕家事件における各々の役割

では役割分担はどうなっていたのだろう?そもそも陰謀は何処から始まっていたのか?

①朝廷内の陰謀:郢王と潭王

恐らく燕家に貢納品運搬を依頼した時点から陰謀は始まっている。これらは郢王と潭王によって仕組まれたのだろう。

②商隊襲撃:驪龍盗と崔氏

実行犯は驪龍盗だろうが「崔氏を派遣した」とあるので崔氏も加わっていたのだろう。商人が武器を持つことはないだろうから盗品の運搬に関わったのかもしれない。故に商隊が持っていた飛天像や首飾りを所持していたものと思われる。この時派遣された「崔氏」は現当主(十九の父親)ではなく、崔八公だった可能性も高い。「越氏と崔八公を繋げた仲介役は驪龍盗だ」と越氏が白状している(13集)。

崔氏が献上品の一部を残しておいたのは潭王への牽制だろう。実際潭王に援助を頼もうとして、崔氏は崔十九に飛天像の台座(蓮台)を持たせている。鄭五郎に取り上げられちゃったけど。

③偽物製作:崔八公と驪龍盗と越氏

商隊を殺害して手に入れた献上品は、越氏によって偽物が製作され、すり替えられて長安に運ばれた。これは勿論商隊以外の燕氏殺害を正当化する為の工作。発案者は郢王か潭王辺りだろうが、実行したのは上記三者。越氏はその後も崔八公と繋がりを持ち、偽物の売買をしていた模様。崔八公と驪龍盗も繋がっていたようだ。

燕子京たちが訪れた時点で越氏は玉加工から手を引き養女を売り飛ばそうとしていたわけだけれど、これってやっぱり崔家の珠場が潰されたことで、危機感を覚えたってことなんだろうか。

④「後処理」:鄭氏

後処理が何を指すかはっきりしないが、恐らく燕家からの強奪品の処理のことだと思われる。鄭家は燕子京が復讐を始めた時点でも驪龍盗からの盗品を扱っている。元々闇売買のルートを持っていた可能性もある。

 

これらの結果各人が手にしたものは

崔家:合浦の採珠権及び真珠横流しで得る儲け

潭王:崔家からの上納金?

鄭家:驪龍盗から送られてくる強奪品の闇売買の恒久的権利とそれによる利潤

郢王:鄭家からの上納金+α(後述)

驪龍盗(ボスは靂魁=尉迟无意):血珠に秘められた宝の地図の入手・西域における商売の優先権?(※但し血珠1つは行方不明)

 

郢王と驪龍盗の関係

郢王と驪龍盗の首領・靂魁の結びつきは崔・鄭両家や潭王とのそれよりも強かったようだ。靂魁は鄭家に対しては郢王の代理人のような口ぶりだ。

二人がいつから気脈を通じていたのかは不明だが、郢王の台詞の中に靂魁こと尉迟无意は「20年前から二重生活をしている」とある。燕家商隊の事件は16年前なので、それよりも長い。郢王は燕家の事件よりも前から、西域で驪龍盗が強奪した品々から利益を得ていた可能性がある。

 

郢王が長年不正に関わった目的については39集で燕子京と张晋然が意見を交わしている。燕子京は「ルビーの王冠」事件の際、鄭家にはルビーの在庫がほぼなかったことから、靂魁が強奪品のうち上物については、鄭家を通さず郢王に直接納品していた可能性を示唆、その上で二人が導き出した推論は二つ。ドラマの中では実にあっさりした台詞(熟語二つ)なんで、ちょっと説明を加えてみた。

①郢王が自分の朝廷での重要性を際立たせるため

鄭家からの上納金は自身の懐を潤すのに一役買ったと思われる。靂魁と直接取引していれば、珍品・名品を入手しやすく、賄賂などに使うこともできただろう。

一方靂魁を通して商隊の襲撃数自体をコントロールできる。これも大きな強み。

②政権の強奪・叛乱

親王が不正を働く定番。裏金を貯め、私兵を雇う。靂魁率いる驪龍盗は戦闘集団でもあるから私兵として抱えるのは一挙両得と言える。

 

靂魁と気脈を通じておくことは郢王にとって他にも西域・康国の情報の取りやすさ等様々な方面で恩恵があったのだと思われる。燕家の台頭は、郢王と尉迟无意両者にとって自身の財源を失うことになりかねない事態だった。

とすると、そもそも燕家の事件を最初に企んだのは郢王と尉迟无意で、合浦の真珠産業を狙っていた潭王と崔家を抱き込んだ、ということなのかもしれない。

 

尉迟无意=靂魁と燕子京の過去

燕子京の過去について分かっていることをまとめると

-16年前 燕家商隊が全滅。子京は驪龍盗に捉えられる。

-8年間、驪龍盗から虐待される。この時毒も盛られる?

-8年前、驪龍盗から脱走。復讐の為に商売をはじめ、成功する。

-現在、崔家や鄭家を潰すだけの財を持って帰唐。

楊州にも部下を置いたり、長安の状況に詳しかったり、各地に情報網も完備。

 

…凄い。すごいけど、商売を始めてから現在までの8年間がまるっきり謎。この経歴だと燕子京って案外若いんだ、ってことが分かる。商隊全滅の時に7歳だったとすると、今は23歳…あれ?

この8年間、恐らく西域中心に商いをしていたであろうことを考えると(唐で派手に商売していたらすぐに噂になるだろう)、尉迟无意の果たした役割は大きいのではないか。

尉迟无意が初登場するのは17集。本拠地である琅環塢の塢主としてだ。ここで分かるのは

-尉迟无意は燕子京の父親の友人。端午の母親とは玉の加工技術を共に学んだ同窓。

-尉迟无意は燕子京が復讐と驪龍盗の撲滅を考えていることを知っている

 

つまり、尉迟无意は燕子京が驪龍盗から脱走した後にも逢っていることになる。

燕子京は脱走後何処かでビジネスを学び、何処かで財を成して唐に戻ってきたはずだ。捕らえられた時はほんの子供だった燕子京が頼る先はそう多くはなかっただろう。とすれば、彼に商売の手ほどきをしたのは尉迟无意だったのではないだろうか。実際尉迟无意=靂魁だということが分かった時点で燕子京は「養ってもらった恩、導いてもらった恩がある」と言っているし。

 

尉迟无意が燕子京を迎え入れたのは、8年経っても血珠の在り処が分からず、復讐に燃える燕子京を利用して血珠を捜させることにした、ということなのだろう(この辺りは37集での燕子京との会話でも明らかになる)。その為に燕子京に商いの手ほどきもしたし、商売の元手も融通したに違いない。

恐らく燕子京の一団の周りにはずっと前から尉迟无意のスパイがいて、情報が送られていた。血珠が発見されれば、燕子京に用はない。だからこそ琅環塢での商隊全滅に繋がったのかも。

 

燕子京の復讐は完結したか?

勿論最後には燕氏の汚名は雪がれたわけだけど、事件の首謀者たちの最終結果。燕子京は本懐を遂げた、と言える結果だ。

 

崔氏:破産。支店を含め燕子京の手に。献上真珠の横流しの件が発覚。当主は自死

崔八公:鉱山の件と驪龍盗との結託の罪で逮捕。

越氏:贋作売買が発覚。逮捕?

鄭氏:跡継ぎの四郎・五郎は死亡。実質的に破産状態で組合の金に手を付けていた。

当主も死亡。

尉迟无意:驪龍盗としての悪事が露見。逮捕。長安に送られる。

潭王:詳細は不明だが、隠し財産の件を徐南英が朝廷に奏上。

徐南英:収賄で逮捕。その後死亡。

郢王:燕氏事件の関与、驪龍盗との結託が露見。逮捕。

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このドラマは端午という女性の一代記であり、燕子京の復讐譚はその背景に過ぎないし、本人の前半生は最後まで謎に包まれたままだ。その点が燕子京というキャラクターの魅力でもあるけれど、もう少しいろいろ知りたかった、というのが本音。

 

長文、読んでいただいてありがとうございました。

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題名:珠帘玉幕 珠簾玉幕 THE STORY OF PEARL GIRL

原作:谈天音「昆山玉之前传」

導演:谢泽(総導演)「風起洛陽」陈熙泰(B组导演)「蘭陵王

編劇:府天(総編劇) 张荣 王晨 马莎莎 40集

出演:赵露思Zhao Lusi 刘宇宁Liu Yuning 唐晓天 Daddi Tang