最初の数話を観て止めてそのまま…を2回ほど繰り返して、このほどようやく「東宮」完走しました。…長いんだもん。でも面白かったです。そして多くの方のおっしゃる通り「太子、酷い」。ここから先はストーリーのネタバレが含まれます。ご注意ください。

監督は「説英雄誰是英雄」の李木戈
何故今更「東宮」を見る気になったかというと、監督が「説英雄誰是英雄」の李木戈だったから。李木戈監督のドラマは「司藤」「冰雪謠」も完走済で、どれも気に入った。あー「我的人間煙火」は頭の2話くらいで挫折したけど。
李木戈監督は年齢不詳だけど、監督歴は二十年近いベテランだ。北京大学のコンピュータ情報管理専攻卒という少々変わった経歴を持つ。ドラマの「三国志」の監督・高希希の元で修業し「三国志」をはじめ幾つものドラマで執行導演を務めた。
作品4つでその特色を語るのもアレだけど、李木戈監督作品は世界観がとても凝っていて美しいけれど、特に人間関係がいつもちょっとだけ変だと思う。
「司藤」はヒロイン司藤役の景甜の旗袍姿がとにかく美しかった作品。この世のものじゃないくらい綺麗…と思ったら本当にエイリアン、しかも植物系。男主の秦放(张彬彬 飾)を奴隷扱いする女王様…なんだけど、二人の関係は物語が進むにつれ複雑に変わっていき、結局男性の究極の自己犠牲の物語に。
「説英雄誰是英雄」はとても好きな武侠もので、やっぱり義兄弟三人の造型が美しい。白愁飛(刘宇宁 飾)は原作では「服を着るのが嫌いでいつも裸でいる大男」なんだけど、服着せてもらえてよかった(笑)。金風細雨楼の造型(よく見る建物だけど綺麗に飾ってあった)やモブの人たちの編み笠にマスク、といういでたちもカッコいい。武侠ものとしても話は少々コンパクトながら普通に面白い…でも結局一番カッコいい役である大哥はヒロインより義兄弟を選んでしまい、ヒロインの立場がないような。
「冰雪謠」も主役のヴァンパイア(高伟光 飾)がすこぶる美しい。ヒロインとの関係は親子愛とも男女の愛情ともとれる一方で、男主に執着するヴィラン二人は少々妖しい関係に思える。このドラマも最後はやたら壮大になってついて行けない気も(笑)。
「司藤」と「冰雪謠」では出演もしているけど別に出たがりというわけではなく
「設定の説明役が必要」→「でも出演料がかさむ」
→「じゃあ監督、やってください(Byスタッフ)」という流れだったようだ。
砂漠がとても美しい「東宮」
「東宮」では物語の大半を占める宮廷や都の描写は、ごく普通で特に印象に残るものではない。主人公・曲小楓(彭小苒 飾)が閉じ込められることになる「東宮」も特に狭い感じはしなかった。皇宮の閉塞感ということなら「清平楽(邦題:孤城閉)」の皇宮に軍配が上がる。あのドラマは暗く冷たい皇宮の中と緑と陽光溢れる街頭の差が見事だった。
「東宮」の中で一番美しく描かれるのは砂漠だ。広く青い空、遥かに広がる砂丘。佇む主人公の鮮やかな赤い衣服。彭小苒はそもそも美人さんだけど、あの中東風(というよりアラビアンナイト風?)の衣装がとてもよく似合う。砂漠は曲小楓にとっては懐かしい帰るべき故郷であり、男主・李承鄞(陈星旭 飾)や従兄の顧劍(魏千翔 飾)にとっては身分も復讐も忘れられる桃源郷だ。
ちょっと複雑な設定
親や一族の仇と恋に落ちる話は珍しくないけれど「東宮」は少々ややこしい。李承鄞は実の母と一族の仇を討つ為に手柄を上げ権力を握れる「太子」の座を得なければならない。手っ取り早く手柄を上げる為には曲小楓の母方の祖父が治める丹蚩を滅ぼすのが一番だ。李承鄞の従兄の顧剣は同じ目的の為に長年曲小楓の師父として情報収集にあたっている。
曲小楓自身は西州という国の公主で、この国は李承鄞の豊国と丹蚩の中間にあり対立する両国の緩衝地帯となっている。年頃となった公主を豊国の太子へ嫁がせることで、国の安寧を図るつもりだ。
結局、李承鄞は身分を偽って曲小楓を篭絡して祖父の居場所を突き止め、攻め滅ぼしてしまう。師父の顧剣もこれに協力し、更に彼女に豊国太子との結婚を承諾させる。
男たちの彼女を愛しているけれど、自身の復讐の為には犠牲にせざるを得ない(だから理解して大人しく待っててね)という理屈、これはあくまで男性側の理屈で案の定、愛情と恨みの念の狭間で苦しんだ曲小楓は川に身を投げてしまう。
忘川で全てを忘れてしまう設定は斬新というか何というか
ドラマの冒頭から曲小楓は「忘川」を捜している。「忘川」の水は仙侠ものにしばしば登場するアイテムで、飲めば全ての記憶を失くしてしまうという。
川に身を投げた曲小楓と助けようとした李承鄞は共に記憶を失くしてしまう。…ここからのパートが恋愛ドラマとして面白いかどうかはちょっと難しい処。兄を蹴落として太子の座を得、更に敵を追い詰めていく謀略パートは十分面白いけれど「恋愛やり直し」パートは正直すっきりしない。
というのも、記憶を失くしたからと言って主人公たちの性格が変わるわけではないからだ。
曲小楓は無邪気で純粋だが馬鹿ではないので、李承鄞に改めて恋する一方で皆が隠している真実に徐々に気づいてしまう。李承鄞も曲小楓のことを再び好きになるが、そもそも彼の「好き」は余りに身勝手。「彼女を皇后や周辺勢力から守るため」と言いつつ、冷たいを通り越して傷つけるような言動を繰り返す。
師父の顧剣も顧剣で、彼女の望み通り西州に返そうとするものの、もし本当に彼女が西州に帰ったらその後どうなるのかを考えていない(というより考えようとしていない)。先のない自分の運命を知り、彼女を道連れにしようとするようにしか見えない。
曲小楓は徐々に記憶を取り戻すが、それは「西州に帰りたい」という気持ちをひたすら募らせることにしかならない。
…記憶を失っても状況は変わらないので男主や男主2にはどうにも感情移入しづらい。悲劇の予感というより、こんな男たちしか周りにいない女主に同情してしまう。記憶が戻ってこれ以上非道い状況になるのかどうか、が見どころ…というのは恋愛ドラマとしてはどうなんだろう?
ここから先はエンドのネタバレが含まれます。

最後にカタルシスは得られるんだけど…
記憶を完全に取り戻し、西州に帰った曲小楓が下す最後の決断について、百度百科等には「彼女は彼に対し復讐を遂げた」と書かれているのだけれど、そういう風には見えなかった。むしろ最後の最後で彼女は相手への未練を断ち切り誇り、気高い砂漠の「公主」という矜持を取り戻したように思える。
李承鄞は太子としての地位を得、更に父帝に変わって国の施政者になった。その結果として国は乱れ、砂漠と都との均衡は崩れた。戦争勃発を収め、都と砂漠の「平和」「民の安寧」を取り戻したのは彼でなく、彼がとことん傷つけた曲小楓だ。
彼女は西州の公主として成さなければならないことを、自身の一命を以て成し遂げた。そこに李承鄞への当てつけや、恨みの感情はなかったように思う。「義」を掲げて行動した挙句騒乱を招くことにしかならなかった男たちに対し、最期に真の義挙を成し遂げたのは彼女の方だった。
年を経ても彼女の死を受け入れられないまま皇位を譲ることになった李承鄞は、結局自分が何を失ったのか、分からないままなのかもしれない。後継となる息子がいないということは天の配剤だったのか、自分自身を許せなかったからなのか。
或いは曲小楓を裏切り祖父を殺した瞬間に全ての幸せが永遠に失われたことを、今でも認められないだけなのかも。
…最後の最後で、ようやく少し男主に同情することができた。
恋愛ドラマを観終えた、というより公主の短くて悲劇的な、でも英雄に相応しい生き様を観たと言った方がぴったりくるドラマだった。
----------------------------------------
題名:東宮 东宫 Good Bye, My Princess
原作:匪我思存《东宫》 导演:李木戈 55集 2019
編劇:钱珏 王乙涵 徐晓霖 胡蓉 刘笑 柯宜彤
出演:陈星旭Oliver Chen Xingxu 彭小苒 Peng Xiao Ran 魏千翔 Shawn Wei