最初は進行がゆっくりで“ダルいかも”とか思っていた「無憂渡」。作品のリズムに慣れてくると、丁寧な心理描写にしみじみさせられることが多くなった。各事件の顛末も物悲しくて情緒的。男主・女主共にはまり役で、いい感じです。
以下前半のストーリーのネタバレが含まれます。ご注意ください。
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妖が見えてしまうお嬢様と捉妖師の物語
古装ものだけれど舞台は架空の時代、妖が度々人を襲う世界。
女主・半夏(宋祖儿 飾)は子どもの頃妖に襲われた時から左目で妖の姿が捉えられるようなった。兄の婚礼で都にやってきた半夏は花嫁が妖であることを知ってしまう。同じ頃都で起こる殺人事件を追っていた捉妖師・宣夜(任嘉伦 飾)と知り合った半夏は、彼に頼んで兄を虜にしている妖を捕らえようとする…。
お話自体はよくある特殊能力を持つ一般女子と捉妖師の物語。幾つもの事件を解決するうちに二人の仲も徐々に深まる、というのも特に新味はない。ただ、主人公二人や周辺の人物を含めて丁寧で細かな描写が多く、感情移入しやすく作られている。
一つ一つのエピソードも妖や妖を生み出した人の心情がよく分かり、哀しくやるせない気分にさせられた。特に黒子さんが出演していたエピソード、且つて地の果ての砦で最後の一人となった宿の主の孤独を想うと、何だかひどく可哀想になったり…。黒子さんはこういう役を演じさせると上手だなあ。
男女主人公のキャラクターに泣かされる
主人公二人のキャラクターもとてもいい。
半夏は妖が見えることを両親や兄からは否定されて育ったので、自己肯定感が低く引っ込み思案だ。妖が見えても身を守る術を持たないので、とても妖を恐れている。その上、母親は二十年前に行方不明、父親も最近行方不明になってしまっている。
宣夜は妖に乗り移られた家族に襲われ、全員を返り討ちにせざるを得なかった。その家に独り今も住み続けている。
半夏の心細さも宣夜の孤独も心に響く。宣夜は妖と闘う時はとても強いのだが、普段はどちらかというと物静かで穏やかだ。変にはしゃいだり強面だったりしないのもいい。「周生如故」の時も思ったけれど、任嘉伦はこういう静かな役はとても上手だなあと思う。目線の微かな変化とか、お芝居が本当に細やか。穏やかだけれど感情を表に出さない宣夜が、誰もいない縁側で静かに酒を飲む姿は痛ましい。
宋祖儿も如何にも頼りなげだけれど、勇気を振り絞って妖に立ち向かう半夏を好演。嫌味なところが何もなく(大事なことだ)、宣夜に向ける真っ直ぐな好意も好感が持てる。
このドラマの撮影は2022年で、こんなに配信が遅れたのは宋祖儿の税金問題があったからだろうけれど、疑いが晴れて何より。これで刘宇宁と共演の「折腰」も配信されるだろうと思うとますます嬉しい。
監督は「三生三世」シリーズの林玉芬
監督は林玉芬と梁胜权。林玉芬は「三生三世十里桃花(邦題:永遠の桃花~三生三世)」、梁胜权は続編の「宸汐缘(邦題:運命の桃花~宸汐缘)」の監督(林玉芬が総監督)だ。テイストが似ているわけではないけれど、二つの作品とも情感の細やかな描写が印象的だった。「三生三世十里桃花」は多くの人と同じく中国ドラマにはまった原因の一つで、随分泣かされたし夜華ロスにもなった。妻を亡くした夜華が一人夜の庭で空を見上げるシーンは忘れがたい。「宸汐缘」も何だかんだ言いつつ最後まで観たなあ。
このドラマは、妖の展開する異世界に入る展開が割と多いのだけれど、あの頃よりCG系はずっと良くなっているので異世界の描写にも違和感はない。鏡の世界は不気味だったり、画の中は空だけが書割っぽく描かれていて面白い。
テーマは「人と妖の情」?
表向きは半夏の「両親の行方を探る」&「半夏と宣夜の恋の行方」だけれど、裏テーマというかもう一つが「人と妖は(男女だけでなく親子や家族といった)情を通じ合えるか」なんだと思う。エピソード毎に繰り返されるのは「人と妖が共に生きようとしてもできない」という悲劇だ。
宣夜の影を見て半夏が不審な顔をする、というカットが幾つか繰り返されているので、宣夜にも明かせない秘密がまだあるのかも。
いずれにしろ主人公二人には幸せになってもらいたいなあ。
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題名:无忧渡 無憂渡 The Demon Hunter's Romance
編劇:赵娜 導演:林玉芬 梁胜权 36集
出演:任嘉伦Allen Ren Jia Lun 宋祖儿Lareina Song Zu'er