半分を過ぎる前くらいまでは正直微妙な感想だった「赴山海」。後半は面白かったです。浮き気味だった現代パートも上手くストーリーに融合出来て、気にならなくなった。
ここから先は終盤までのネタバレが含まれます。ご注意ください。
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後半のお話
相変わらず登場人物は姿を表しては消えていくので追うのが大変。序盤の軽さは姿を消し、武侠らしい山あり谷ありの展開に。最終盤は武侠ものらしい胸熱な展開が堪能できる。
蕭秋水=肖明明(成毅 飾)の努力も空しく、両親と一門は原作通り殺害されてしまう。再興を志す長男、次男との仲も最悪の状態に。各派の使い手、先達との交流で原作通り「無極仙丹」「少武心経」を手に入れた蕭秋水だが「忘情天書」の行方は遥として知れない。権力幇幇主・李沉舟から「R」という者の暗躍を伝えられた蕭秋水は、現代世界から自分同様ワープしてきた人物の存在を疑い始めるが…。
原作のストーリーが分からないので何とも言えないけれど、最終的には原作と同じようなところに落ち着いた…んじゃないかな。そもそも蕭秋水は智勇兼ね備えた人物のようで奸計も仕掛ける。肖明明が腹を括ってからは蕭秋水と同化した感じで、性格的にも違和感がなくなった。
一方で当面の敵である李沉舟と蕭秋水が瓜二つ…という設定は特に意味を持たなかったようだ(「沈香如屑」の二役は父親と息子、という関係だった)。単なるファンサービス?
それでも李沉舟の出自の改編は上手くいっていて、酷薄で手っ取り早く戦を手打ちにしたい皇帝(佟梦实 飾)と国を憂える叔父とのシーンは緊迫感が溢れている。朝廷から身を引いているくせに軍権を手放そう叔父を警戒し、会う度に毒を盛っている姑息な皇帝を佟梦实は実に生き生き演じていて強く印象に残るし、成毅にも大侠らしい迫力があって素敵。
「神州結義」のメンバーを始め若手は活躍の場面が少なかったけれど、ベテランの方々は活躍する場面も多く、渋カッコいい。燕狂徒役の張智霖は如何にも孤高の大侠で素敵だし、曹翠芬(「明蘭」のお祖母さんだ)の毅然とした呉夫人、長兄・次兄の张峻宁と张晓晨は後半に見せ場がある。こうしたベテラン勢の頑張りで、中盤以降は緊張感のある展開になった。…問題はその前に視聴者が離れちゃったかもしれない、ということだけど。前評判の高さゆえに一気に評価が落ちてしまった印象だけど、作品としての出来は悪くなかったと思う。
ラストは個人的にはちょっと意外だった。特に現代パート。でも印象に残る終わり方だったと思う。
「武侠」ジャンルは難しい
それでもやっぱり原作通りの方が良かったんじゃ…という気もまだちょっとしている。ただ成毅がインタビュー繰り返し語っていたように「武侠ジャンルは商業的に厳しい」らしい。
そもそも有名な武侠小説は何度も映画・ドラマ化されているし、武侠ファンの多くは原作を知っているから新味は少ない。近年の「崋山論剣(金庸武侠世界)」「射鵰英雄伝(映画版)」も評判は芳しくなかった。
一方で近年ヒットした「蓮花楼」や「少年歌行」等は「陳情令」の爆発的ヒットから始まった“ブロマンス+武侠”の流れ(お達しで止められちゃったけど)を汲んでいて、男性キャラ同士の微妙な関係がヒットの一要因だ。
今回もライバルキャラの柳随風の出番を増やしたり、李沉舟を二役にしたりして頑張っているけれど、そうした部分は今一つ。キャラ同士の情緒的な繋がりはあまり感じられない。原作では「神州結義」のメンバーの一人は主人公の暗殺を企てることになったりするみたいなんで、そういう胸熱な展開が見たかったなあ、とも思う。
でも「蓮花楼」より成毅の武打シーンは遥かに多くて、見応えがある。個人的に成毅は動いている時が一番魅力的に見えるので、華麗で力強いアクションが見られて大変に満足。宙に吊るされても剣を振るう時にはちゃんと力が入っている(ように見せる)為には、鍛錬がものすごく必要だと思うし、本人の努力の賜物なんだろう。噂では力を入れた武打シーンが最終編集では一部カットされているみたいで、花架でいいから見せてくれないかな。
成毅の演技力についてもいろいろ話題になったようだけれど、そもそも三役というのが無茶ぶり。主役に大侠らしさが足りないと言われてもなあ…。むしろ若干の違和感が残るのは父母や兄弟絡みの部分で、両親の死を嘆き悲しむ末っ子…なのは良いけど、中身は肖明明なわけで、哀しみの感情が誰のものなのか見ているこちらが混乱してしまう。これはラスボスの正体がはっきりする辺りまで続くのだけれど、役者さんの演技力というよりストーリーの根本的な矛盾なんで仕方がないかな。
名曲「滄海一声笑」について
ドラマの中で楽器の達人だという三才剣客(魏巍 飾)が奏でる「滄海一声笑」。元々は映画「笑傲江湖(邦題:スウォーズマン~剣士列伝)」の主題歌だ。今でも音楽番組やステージで歌われることが多い名曲で、聴くと反射的に「江湖!」「武侠!」という言葉が浮かんでしまう(笑)。
タイトル通り「江湖を嗤う」という内容で、世の勝敗にこだわらず世俗のしがらみを捨て、雄大な志を胸に自由に生きる心が歌われている。歌われたシチュエーションも大事で、敵味方の武門に属する友人同士が共にこの曲を奏でる、というのがポイント。江湖を引退したので、自由に友誼を交わせるようになった喜びに満ちている(のだが、その後元属していた部門に襲われるという悲劇が…)。
「赴山海」も武門同士の対立や恩讐を越えられるか、というのがテーマの一つ。ラストに歌われる「滄海一声笑」は感慨深い。
作詞・作曲は黃霑(James Wong)。香港映画の全盛期を支えた作曲家で、周潤發のTVシリーズ「上海灘」のテーマ曲、映画・黄飛鴻シリーズの「男児当自強」、「倩女幽魂」等など代表曲は枚挙に暇がない。原唱は広東語版が黃霑・許冠傑(Sammuel Hui 「Mr.Boo」等で知られる香港の歌手・俳優)と導演の徐克、北京語版が羅大佑(LuoDayou「追夢人」等で知られる台湾の大御所歌手)と黄霑・徐克という豪華版。広東語版と北京語版は若干歌詞が変わっているけれど、広東語と北京語の語呂の問題のようだ。広東語版は映画の完成がひどく遅れた為許冠傑が歌いたがらず、やむなく羅文(Roman Tam)に頼んだが結局許冠傑が歌うことになってこのバージョンは一旦没になり、後に「笑傲江湖II東方不敗」に使われた、というエピソードがある。
今でもいろいろな人が翻唱しており、Spotifyでも幾つかのバージョンが配信されている。
映画についてはこちら↓。
成毅の次回作
「狐妖小紅娘・王権篇」はもうすぐ公開だとの噂で、予約量も400万を越えたんだとか。今年の3月には「長安二十四計」の撮影が終了(思わせぶりな予告編も公開されている)、現在は马伯庸原作の「両京十五日」撮影中らしい。ちなみに成毅は朱瞻基役、共演の林更新(Kenny Lin)が本来の主人公である捕吏・呉定縁役。もう一つの重要な役どころ、于謙役が誰なのかすごく気になる。
「狐妖小紅娘・王権篇」はファンタジーだし「長安二十四計」は古装サスペンスなんで成毅のアクションが満喫できるのはやっぱり本作。日本にもいずれ入ってくるだろうから、楽しみに待ちたい。
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題名:赴山海 The Journey of Legend 40集
原作:温瑞安(「四大名補」「説英雄誰是英雄」)「神州奇侠」
編劇:刘芳(「蓮花楼」「長安諾」)王威 李惠敏 海珊 陈群星 刘林青 朴珍妮
導演:任海涛(「蓮花楼」「七夜雪」) 林峰(映画「長津湖」)
出演:成毅Cheng Yi 古力娜扎Gulnazar 李凯馨Eleanor Lee Kaixin 徐振轩Xu Zhenxuan