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「大生意人」(~最終集)西太后の時代、商人はマジ大変

「大生意人」ようやく観終わった。面白かったんだけど、これが分からん、あれも分からんでなかなか視聴が進まなかった。清朝末期と言っても長い。アヘン戦争や革命前後の話は知っていても、このドラマの舞台の頃の歴史って大昔にちらっと世界史で習っただけだし。

…なわけで、調べて分かったことをまとめてみた。資料は日・中Wiki等からです。

ここから先はストーリー終盤までのネタバレが含まれます。ご注意ください。

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「大生意人」微博より 自然を活かした画作りも大変きれい

徽州:太平天国の乱って何?

山西で常四親子を助けるためにあくどい王天貴にこき使われ、結果的に商売の基本と人脈を手に入れた古平原(陈晓 飾)。皇帝の崩御と新帝の即位で大赦が行われ(ということは1861年だ)古平原の罪も許されることになり、常四親子と別れ故郷の徽州へ。

 

徽州、或いは安徽省を知らなくても「黄山」は中国茶を飲む人なら聞いたことがある名前かも。「黄山毛峰」という緑茶が有名だ。独特な製法の緑茶が作られ始めるのは光緒帝の時代(1875年)以降だそうだけど。ちなみに生草を含んだその香りは「白蘭」と表現されるとか(古平原が自分たちの茶につけた名前は「蘭雪」)。古平原の実家も本業はお茶農家だ。

 

故郷の村に帰ると茶畑は叛乱軍に焼かれ、村の女たちは婚約者の白依梅(向涵之 飾)を含め全員駐屯地に連れて行かれていた。…この時期の叛乱軍とは太平天国の乱のこと。

前稿で概要は書いたけれど、単に14年続いたキリスト教徒の叛乱、ということではなくいろいろな要素が絡み複雑だ。

 

叛乱軍は辮髪を落とし明代までのように結っていることから「長髪族の乱」とも呼ばれた。自分たちは「漢族の末裔である」から「滅満興漢(清の王朝を倒して漢民族の国家を樹立)」するのだ、というのがスローガンで、清朝の圧政に苦しんでいた多くの民衆の心を掴んだ。古平原と弟が麻紐を売りつける時、明らかに辮髪を切り落としたものが混ざっているのはそのせいだ。欧米列強との戦争や不平等条約で物価が高騰し、市井の人々の暮らしは厳しくなる一方。その不満も叛乱を後押しした。太平軍は1853年には南京を占領し、そこを首都として独立するに至る。

太平軍が各地を攻略できた原因の一つは長江を抑えたからなのだという。地図を見てみるとなるほど南京と徽州も長江で結ばれている。太平軍の支援者である蘇紫軒(李纯 飾)が大きな船を持っているのも頷ける。

1861年太平天国にとって微妙な年だ。1860年清朝は欧米列強と北京条約を結ぶ。香港の割譲や天津の開港などを含む不平等条約ではあるものの、これ以降欧米の軍は朝廷に味方し太平軍と敵対することになる。太平軍は各地で勢力を伸ばしてはいたものの、形勢が逆転するのは時間の問題だった。

 

古平原は太平軍と交渉して女たちを取り戻すけれど、将軍(朱亚文 飾)の治療にあたっていた白依梅だけは連れ戻すことができない。将軍を演じているのは朱亚文。古装で久々に見た…相変わらずカッコよく、白依梅が惚れる気持ちもわかる(笑)。

 

叛乱軍は一時合肥城を占拠するが、それも長くは続かない。合肥は昔からの要衝だ。三国志でも魏と呉、呉と蜀が取り合っていたっけ。

結局太平天国の乱は1864年に収束する。死者は2000万人にも及んだそうだ。

 

京城(北京):西太后と李萬堂の後ろ盾

古平原は白依梅と太平軍の問題を解決しなければならないと同時に、村のお茶の買い取り問題にも直面する。茶商の組合が買い取り値を下げる、と言ってきたのがきっかけだ。

例によって李萬堂(黄志忠 飾)に邪魔されつつも、古平原は北京で李萬堂が開催する万茶大会に出場し自分たちの茶の名を上げようとする。そこで出会うのが現朝の“太后”だ。

 

西太后として悪名高い慈禧太后。映画「西太后」「ラストエンペラー」とかでしか知らないのでお婆さんの印象だけれど、この時点では20代半ば。若い。新しい天子の後見として実質的に政治の頂点に立ったばかり。ドラマでは皇族はこの時以外直接登場することはないけれど「太后が激怒している」と朝廷の高官が言及する場面は何回か登場する。

西太后はこの後光緒帝の時代の終わり(1908)まで長いこと権力の中枢に居続けた。

 

ちなみに李萬堂のバックについているのは同治帝の六叔である恭親王奕訢。北京条約締結時の外国との交渉で列強から支持を得、辛酉政变(1861)で新帝の8人の摂政を殺害し、西太后と共に権力の頂点についた人物だ。ドラマで描かれている時には飛ぶ鳥落とす勢いだった恭親王は四半世紀後、日清戦争の責任を取らされて失脚する。

 

李萬堂は朝廷の最高権力者に食い込む一方で、太平軍に肩入れする蘇紫軒と組んでいた。そしてその理由を息子にも明かさなかった。私は途中まで李萬堂にもある種の志があるのだと思っていたのだけれど、李萬堂の後ろ盾と蘇紫軒の茶会での目論見が判明してようやく理由を理解できた。そりゃ権力の座にあるのは一人の方がいいに決まっている。

…李萬堂、貧婪そのものだ。息子を商売の道に進ませたがらないのも、自身の底のない欲と醜さを自覚しているからなんだろうか。

 

南京:塩の専売問題って難しい

古平原は常に“巻き込まれ型”だけど、今度は家族ごと南京に強制連行されて「乱ですっかり荒廃した南京一帯を立て直してね」と言われてしまう。…太平天国側は最後は深刻な食糧危機にあったというから、本当に田畑は荒廃しきっていたんだろう。

 

南京の総督・瑞麟(梁冠华 飾)は古狸(笑)。上手いこと古平原と李欽を使って普請を勧めさせたり、産業再生を行わせたりしようとする一方で、自分の懐を潤すことも忘れない。遊んでいるみたいに見えるが志も民や国への想いもあるようだ。梁冠华は“いい叔父さん”をよく演じている人だけれど、お芝居の匙加減が上手だなあ。ちなみにこの時期に瑞麟という官僚が本当にいたようだけれど、経歴を見ると武人だったようでモデルではないのかも。

 

李萬堂は塩商の店を買い占めていて塩商売を手中に収めようとしている。だが瑞麟は塩が一商売人の手に委ねられてはならないとして、古平原にその目論見を潰すように迫る(実際は細かくいろいろな事件が起こるのだけれど大雑把にまとめるとそんな流れ)。

 

塩は今私たちが想像するより遥かに重要だった。調味料というだけでなく冷蔵庫のない時代、食料の保存には塩が欠かせない。中国では古くは春秋時代から塩の専売制度が設けられてきた。目的は価格統制・流通管理、そして税制収入の確保。これほど長い間塩専売が続けられてきた例は他にないらしく、論文もいろいろ出ている…けど難しい。

一つの家の塩の消費は大体決まっていて、これに税を掛ければ安定した収入になる。一方、塩は生活必需品だから流通が滞ったり不当に値が上がると即座に市民の生活に影響が及ぶので、誰かが管理しなければならない。

国は財政が苦しくなるとしばしば塩の税を安易に上げる。遠くから運ばれてくる塩はいくつもの税金が重なって掛かって法外な値段になる。市民は官の目をかいくぐって売られる私塩を買うようになる。国の税収は減り続け、税を上げるしかなくなり…というイタチごっこ。叛乱軍もやっぱり塩税を収入源にしていて、どちらにしろ苦しいのは市民、ということもしばしば起こったらしい。

中国の塩の専売の問題って、日本の米問題に少し似ている。港に大筒構えて居座っている欧米列強の手に塩売買が渡れば、今度は国の安全保障の問題にもなるということだ。

 

とある事件があって古平原と李萬堂の息子・李欽(罗一舟 飾)の仲は決裂し、塩の専売を巡って対立することになる。あくまでも国や人々のことを考え理想を追う古平原は、突き付けられた難問にどう対処するのか?

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…ちょっと都合がよすぎる展開もないわけではないけれど、商いのお話だというのにスリリングでスピーディ。意外な方向に展開していくストーリーも面白かったです。辮髪は苦手だけれど、陈晓なら充分鑑賞に堪える(笑)。妻役の孙千も可愛らしくて良かった。周りをベテランの渋い叔父さんたちが固めていて見応えも充分。

ただ商売の話はこの時代の状況が飲み込めていないとよく分からない部分もあり、日本語字幕で見たいなあ、としみじみ。

 

題名:大生意人 Legend of The Magnate 40集

原作:赵之羽「大生意人」

編劇・導演:张挺「大明風華」「天下長河」

出演:陈晓 Chen Xiao 孙千Sun Qian 罗一舟Luo Yizhou 成泰燊Cheng Taishen

李纯Frida Li Chun

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