ようやく「繁花」が日本に上陸した。中国の株式市場の黎明期の話なんで中文字幕で見た時にはわけが分からないことも多かった。日本語字幕は本当にありがたい。
もう一周して気づいたことや、音楽等をまとめました。ここから先はストーリーのネタバレが含まれます。ご注意ください。
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繁花はこんな話
上海のビジネスでの成功を夢見た青年、阿宝(胡歌 飾)は師父・爺叔(游本昌 飾)の指導の下頭角を現す。数年後阿宝は和平飯店に居を構え、上海の有名な個人投資家となっていた。
上海のビジネスマンの夜の社交場、黄河路の中心に新しい店「至真園」が開店する。オーナーの李李(辛芷蕾 飾)は上海人ではなく、その経歴は謎に包まれている。
黄河路の有名人の一人で外貿公司、通称27号の汪小姐(唐嫣 飾)。彼女は阿宝のビジネスパートナーで、阿宝と共に新しい“上海ブランド”の確立を目指して奔走中。
「夜東京」の共同経営者でママの玲子(马伊琍 飾)は、巷の噂では阿宝の恋人だというが実際のところはもう少し複雑なようだ。
90年代の上海は株式市場の黎明期で激動の時代。誰も彼もがそれぞれの思惑を抱えて集まってくる。「市場に命を捧げる」という阿宝、そして三人の女性たちの運命は…。
登場人物が多く、株式市場のそもそもの複雑さに加えて事業展開には中国独特の決まりごとがあるので、お話は(特に後半)とっても複雑。更に時代もいったり来たりする。…のだけれど、ストーリー自体はきっちり頭に入ってくる。
王家衛と言えば映画でも、それぞれのエピソードは記憶に残るけどエピソード同士がしばしば繋がっておらず「このシーン何?この人誰?」というのが必ずある印象だ。…大体は分かるんだけど、嵌りきらないピースが残る感じ(笑)。
今回はきっちりわかる。映像は相変わらず凝りまくっているけれど破綻はない。王家衛もドラマを撮る時は万人に分かるように撮るんだ…。
元の小説は阿宝の他に二人主人公がいて、1960年代と1990年代の二つのストーリーラインがあるらしい。例によって原作は読んでいないので百度百科で見た限りでは、ドラマは小説の登場人物を整理統合し1990年代の株式市場の歴史と併せながら再構築したように見える。ドラマのストーリーラインが美しく整理されているのは編劇の秦雯(「贄婿」等)の力も大きかっただろうし、日本人に分かるように翻訳する為にご苦労されたであろう字幕翻訳の方の努力の賜物でもあるだろう。
登場する「食べもの」について調べてみた
前半は黄河路のレストランの話が多いので、美味しそうな食べものがたくさん登場する。どれも上海料理の名物らしいが、日本の中華料理店ではあまり見かけないものばかり。
泡飯
進賢路のレストラン「夜東京」で阿宝がいっつも食べているのが泡飯。「泡」はお風呂に浸かることなんで、お茶漬けっぽいものだろうと想像はつく。
ご飯にスープをかけてちょっと煮たもの、なんだそうだ。たくさん並んでいる小皿はトッピングのようで、高級な泡飯になると海鮮や珍味を載せて食すんだとか。
それにしても「夜東京」の内装って、レストランというより日本のスナックみたいに見える。常連がたむろする店の雰囲気もそんな感じだ。
大王蛇
「金美林」の女主人たちが買い占めていた高級食材。けっこう毒々しい柄の大きな蛇。ぶつ切りにしてから揚げや炒め物等にして食すみたいだ。身だけじゃなく皮なども食べられる。味はAIさん曰く鶏肉や白身の魚に近いそう。蛇は大体そんな味だけど、品が良い味らしい。
排骨餅
汪小姐が始末書書いていたお店が排骨餅専門店。排骨(衣付き豚のスペアリブ)に甘辛いタレがかかり餅が添えられているもので、上海の伝統的ファーストフードだそうだ。揚げ物+炭水化物(笑)だけどお腹一杯にはなりそう。
涮羊肉
阿宝が李李と落ち合うのに使っていたのがこのお店。涮羊肉はラム肉のしゃぶしゃぶで、Wikiによれば北京料理だそうだけど、上海の冬の定番料理でもあるようだ。タレはピーナッツペーストや辣椒油等。この料理は日本にも専門店があるようだ。個人的にはこれが一番食べてみたい。
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ドラマの中では株式市場ができ上海が好景気に沸く時代には様々な高級料理が登場し、相場が冷えた後半になるとファーストフードや庶民の食べる料理が多くなる。

登場するOSTをいくつかご紹介
「繁花」の中にはすごく沢山、当時のポップスが使われている。そもそも聞いたことはあっても名前の分からない曲もありごく短く使われている曲も多くて、とても全部は把握できない。音楽(選曲も作曲も)を手掛けたのは、「重慶森林」以来王家衛と組んでいる陳勳奇。
曲の使い方は割と“ベタ”。メモを取りながら観ていたら、歌詞そのまんまの内容の場面で使われていることが案外多いことが分かった。泥臭い手法だけど「このシーンにこの曲かかると泣いちゃう」効果は抜群。名曲が多いから気に入ったらフルで聴いてほしいなあと思って、知っている曲だけでもご紹介。
〇全編にわたって使われている曲
再回首 作曲:盧冠廷 作詞:陳樂融 歌唱:Mike 曾比特
ドラマの後半になるにつれ、登場人物の再出発シーンで流れる名曲。もともとは姜育恒の1989年のヒット曲だが、使用されているのはMike 曾比特による新規録音。
「振り返ると」というタイトル通り「過去の平凡で平和な日々こそが本物だ」としつつ尽きせぬ道を独り歩いていく、という内容で、全ての人間関係を断ち切って新たな地で再出発する人々にぴったりの歌詞だ。
歌の詳細な履歴は別記事にあります。
偷心 作詞:丁晓雯 作曲:郭蘅祈 歌唱:張學友 1994年
「失われた恋のテーマ」として使われていたのがこの曲。汪小姐が27号を辞めた時排骨餅で阿宝を待ち続ける時や、阿宝がかつての恋人・雪芝と再会し再び別れるシーンで流れた。「自分の心はだんだん冷たくなっていく。夢から覚めたくない。夢の中で死んでしまいたい」という悲痛な歌詞が印象的。
この曲は張學友のアルバムタイトルであったにも拘らず当時は余りヒットしなかったのだそう。「繁花」のお陰でリバイバルヒットしたそうで、2024年には胡歌他いくつかのカバーも発表されている。
〇登場人物のテーマとして使われている曲
陶陶「我是一只小小鳥」 曲・歌唱:趙傳 詞:李宗盛 1990年
登場人物を象徴するように使われている楽曲もある。一番わかりやすいのが阿宝の幼馴染で、海産物屋を営む陶陶の登場時に流れるこの曲だ。「飛びたいのに高く飛べない小さな小さな鳥。暖かな抱擁を捜しているけれど、高望みだろうか?」という歌詞は、成功やドラマチックな恋を夢見ながら家庭に縛られる陶陶の心情そのままだ。
玲子 日本の楽曲
阿宝と玲子が出会う銀座の裏通りで流れる「ラブ・ストーリーは突然に」や「有楽町で逢いましょう」には余りにも歌詞の内容がベタすぎて笑ってしまう。玲子の登場場面で流れるその他の曲も原曲が日本の歌だったりする。
夜風中 詞:鄭國江 曲:五輪真弓 歌唱:Kerryta 周子涵 原唱:徐小風 1979年
ドラマ内では周子涵が歌っているが香港の女性歌手、徐小風の楽曲。日本の翻案曲で元々は五輪真弓の「残り火」。「残り火」は“あなたとの恋の残り火を燃やして新しい恋を探す(大意)”という歌詞で「夜風中」は“残り火は消えた。私は既に愛のあらゆる苦味と甘味を味わった”という内容。どちらも玲子の心情にふさわしい。
赤的疑惑 詞:鄭國江 曲:戸倉俊一 歌唱:阿细 原唱:梅艶芳 1983年
これも新規録音。もともとは山口百恵の「赤い疑惑」の主題歌「ありがとう あなた」。「赤い疑惑」は白血病の少女と青年の悲恋もので、歌詞の内容も“私がいなくなってもあなたは幸せになって”というもの。広東語の歌詞も割と似た内容。切ないです。
汪小姐 90年代香港ポップス
阿宝を巡る女性の中で一番年若い(と思われる)汪小姐。一番いろいろな曲が使われている気がする。当時香港でも珍しかった“バンド”として数々のヒットを飛ばしていたBeyondや北京出身で香港に新風を巻き起こしていた王菲等、当時の若い人たちが聴いていたであろう楽曲が並ぶ。
不再猶豫 詞:梁美薇 曲:黄家駒 歌唱:Beyond 1991年
喜歓你 詞・曲:黄家駒 歌唱:Beyond 1988年
光煇歳月 詞・曲:黄家駒 歌唱:Beyond 1990年
Beyondの曲は3曲使われていて、どれも印象に残る。汪小姐がお仕事を頑張っている時に流れるのは「不再猶豫」(ざっくり歌詞をまとめると「傷だらけになってもいつか夢見たものにたどり着く」的な)魏社長と再会した時に流れるのは「喜歓你」(これは魏社長の心情そのまま)ようやく潔白が証明された時に流れるのは「光煇歳月」。
「光煇歳月」はもともとネルソン・マンデラ氏に捧げられた曲で(自分も百度百科で初めて知った)「雨風の中でも自由を抱きしめ、未来を変え、輝かしい時代を迎えよう」と歌われる。逆風の中、阿宝からも離れて「自立」という茨の道を選んだ汪小姐を象徴する曲だ。
Beyondについては別記事にまとめてます。
執迷不悔 詞・歌唱:王菲 曲:袁惟仁 1993年
汪小姐のストーリーラインのクライマックス、深圳の工場でシーンで流れるフェイ・ウォン初期の名曲。「私は決して後悔しない」という歌詞は下した選択を後悔しないと言う意味にも、阿宝の庇護との決別という意味にも取れる。
金老板 「一生何求」 詞:潘偉源 曲:王文清 歌唱:Mike 曾比特
原唱:陳百強 1989年
到真園のお向かい、金美林のママの夫・金老板は賭博狂いの浮気性でどうしようもない人物だけれど、その鮮烈な退場シーンで流れる曲。
「一生に何を求める?/一生を費やしても触れる前に逃げてしまう/(中略)…持っていることに気づかないうちに全て失ってしまった(歌詞の一部の意訳)」
金老板も、浮気相手の愚かな小江西も、嫌がらせを繰り返す盧美琳も、決して“善い人”ではない。欲に塗れたその生き方も好きではないけれど、この曲が流れてくると「ああ、可哀想」と泣かずにはいられない。
原曲は香港の歌手・陳百強の代表曲。大変人気があったけれど一方で非難や中傷に晒され、35歳で亡くなった。悲劇的な生涯と相まってこの曲を聴くと複雑な思いが込み上げる。
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原題:繁花 Blossoms Shanhai 30集
監督:王家衛 原作:金宇澄「繁花」 編劇:秦雯(「赘婿」等)
出演:胡歌 馬伊俐 唐嫣 辛芷蕾