後半は美術部門から。美術・衣装辺りはやっぱり選ぶのが大変。難航しました。
選考対象作品については【2024年ドラマの「技術部門賞」を勝手に決めてみた①】をご参照ください。
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美術賞
中国ドラマを観る楽しみの一つはセットの作りの美しさや、小道具の精巧さだ。なのでこの部門は激戦区。結局は一番好みだった作品に決めた。
<受賞作>「冰雪謠」
「大夢帰離」とどっちにしようか迷ったけど、結局こちらに。民国期のドラマには洋館が登場するのはお約束だが、このドラマのセットは「中洋折衷」。立派な洋館なのに中華風の中庭があったり、小物が中華風だったりで観ているだけで楽しかった。別の登場人物のちょっと和風テイストが入った屋敷も素敵。民国期の文化的カオスを上手く表現していたと思う。

「大夢帰離」はとにかく緝妖司の建物が好きだった。中庭にある大きな池にはミニチュアの塔の周りを鯉が泳いでいたり、建物のやたら大きな扉とか、縁側と大木とか、この屋敷何処まで広いんだ、と突っ込みたくなるけど素敵だった。池でアクションシーンを撮影する時は鯉を避難させて水をお湯に入れ替えて撮影したんだとか。そういう手間をかけてでもこだわるだけのことはあったと思う。
「辺水往事」では異国の雰囲気を出すために文字まで新たに作ったそうだ。街の看板やポスターに書いてある文字は全て美術班が作ったもの。国を特定させないための配慮とは言え、大変だったと思う。このドラマは各話のポスターも非常に凝っていて美しかった。
「群星閃燿時」も民国期の作品。こちらはセットに貼られたポスターが目を引いた。民国期っぽくてしかもお洒落。
<(舞台)美術賞>「披荊斬棘」
舞台はスタジオセットとは別物なので別に賞をあげたい。バラエティでセットが凝っていたと思ったのは「披荊斬棘」と「開始推理吧 第2季」の二つ。
「披荊斬棘」はとにかく一曲一曲がセットも照明も演劇並みに凝っていて、大変美しかった。

「開始推理吧 第2季」は推理の手掛かりになる小道具の数が半端ない。からくり部屋のような大掛かりなものから、メールや手紙、壁に書かれた文章など細かなものまで、非常に手が込んでいた。手がかりを捜してそれらを読み込んだけれど、ちゃんと整合性が取れていたのは流石。ああいうの作るのは大変なんだよなあ。
メイク・スタイリング賞
中国ドラマのヘアメイクはどちらかというと保守的な感じで、作品によって大きな差があるようには思われない(見分けがついてないだけかも…)。記憶に残ったのは「永夜星河」と「冰雪謠」。
<受賞作:冰雪謠>

とにかく男主のスタイリングが素敵だった。フロックコートに中華服、中折帽にオールバック+辮髪と文字面は奇抜なんだけど、これが背の高い高伟光に良く似合う。女主もお人形のようで可愛らしかった。
「永夜星河」は女主のスタイリングの可愛らしさを評価。中国結びやリボンの付いた髪飾り等予算はそれ程掛かってなさそうなのに巧く仕上げていた。「花間令」の悪い上官芷(笑)のヘアメイクも妙に印象に残っている。鞠婧祎にとても良く似合っていて凄絶で美しかった。
衣装デザイン
製作費があるかどうかでクオリティの変化が激しい「衣装デザイン」。今年突出して美しいと思ったのは「大夢帰離」。この監督さんの作品はいつでも衣装が美しいけれど、今回も非常に凝った作りだった。
「七夜雪」は特に女主の白一色の衣装が美しかった。ただし、男主の衣装については、長旅をしている割に軽装且つ汚れていないことに違和感が。
「紫川」は甲冑のデザインが非常に凝っていた(多分三兄弟全部微妙に違っている)のだけれど、惜しむらくは明かりが暗くて良く見えなかったこと。もったいなかった。
<受賞作:大夢帰離>

衣装そのものの美しさもさることながら、敢えて重めの衣装で行うアクションが迫力に満ちていて、スローにするとその美しさが一層映える。これまでの仙侠もののアクションとは一線を画す、斬新さを評価。
録音・音響編集
…すみません、うちのTVだと音響の違いがよく分かりません(泣)。
中国ドラマは台詞も後付けが多いので、音自体も相当作りこんで人工的にはめているのだと思うけれど、どれくらい作りこんでいるのかよく分からない、というのが正直な処。音が印象に残る作品は思い当たらない。分かりやすいのは戦場ものかホラーだと思うけれど、「阿麦従軍」や「紫川」でも余り音は印象に残らなかったし「到命遊戯」も音で怖がらせるところはなかったと思う。大規模なCG背景の「蔵海花」も音付けは大変だとは思うんだけど、感心するほど印象的ではなかったし。
なので今回は
<受賞作:なし>
オリジナル作曲賞
映画だったら所謂「テーマ音楽」ってやつだけど…この部門、ものすごく難しい。中国ドラマの場合、ふんだんに挿入歌が使われるから、その他の音楽って余り印象に残らない。
もう一つの音楽賞が「オリジナル」歌曲賞で、そのドラマの為に作られた歌曲が対象。なのでドラマの為に作られたのではない楽曲についてはこっちで表彰することにしよう。
というのも今年のドラマで最も音楽が印象に残ったのは「繁花」だからだ。90年代香港・台湾で流行した曲がふんだんに使われ当時を思い起こさせるだけでなく、凄くそのシーンに合った内容の曲が選ばれていて、感情を揺さぶる。王家衛は本当に音楽の使い方が上手い。
まあ知っている曲ばっかり、というのも大きかったと思う。…懐かしさのあまり「繫花」を観終わった後はしばらくOSTをヘビロテしていた。
<受賞作:繁花>

オリジナル歌曲賞
一つのドラマに幾つものOSTがあるので、絞るのすら大変な部門。今年一番流行したOSTとかはさっぱり分からないので、自分が良く聴いた曲から選んでみた。候補は以下の通り。
-「紫川」老朋友 歌唱:刘宇宁
しみじみとしたいい曲。ただこの曲、主人公と大哥がいずれ不倶戴天の敵になることを知らないとしみじみできないかも。ドラマでは「俺たちの戦いはこれからだ!」で終わっちゃったし。
-「與鳳行」世世 歌唱:刘宇宁
「與鳳行」のOSTには好きな曲が多かったけれど、少々沢山流れすぎてちょっと煩わしかった気が。「世世」は主人公カップルの幸せなシーンでかかるので印象も良かった。
-「慶余年第2季」借過一下 歌唱:周深
第一季の曲とOPが好きで、飛ばさず必ず観ていたんだけれど、第二季はエンド曲の方が好きだった。周深の歌唱もパンチが効いていて好き。
-「辺水往事」達班 歌唱:新鲜仔
前半のエンド曲。歌詞の大意は「金稼ぐぞ~!」で、ノリノリで楽しい。ドラマの雰囲気も前半はこんな感じで「(危険だけど)楽しいジャングル生活」。聴いてると気分も上がる。
これが暗転する後半になるとエンド曲も「俺って本当は犬なのか?」な「条狗」に代わる。怖かった。
―「大夢帰離」小詩句
歌唱:侯明昊、陈都灵、田嘉瑞、程潇、林子烨、徐振轩、闫桉、赖伟明
エンド曲。この曲はダンス込みで大好きだった。沢山バージョンがあって、登場人物が変わるごとにバージョンも変わる。後半ストーリーが重さを増すにつれ、楽し気に踊る出演者を見てほっとすることが増えた。踊りが上手な人も、そうでもない人もいて(笑)MVを見るだけでも楽しい。挿曲の「無心生大夢」もノリが良くて好きだったんだけど、こちらはあまりかかるシーンがなかった。
<受賞作:「大夢帰離」小詩句>
やっぱり、楽しい曲っていいよね、ということで。年末のヘビロテ曲だったし。

<特別賞:音楽縁計画>
オリジナル楽曲ということであれば、やっぱりこの番組にも賞をあげておきたい。<企画賞>というのがあれば、それでもよかったんだけど。楽曲製作者と歌手を引き合わせる、という斬新な企画で、実際に歌われた歌曲の水準も高かった。製作者の苦労はかなり大変だったんじゃないかと思うけれど、努力に見合う価値があったんじゃないかと思う。参加する歌手の側も選択に責任が伴うし、出演には勇気が必要だったろう。製作者・楽曲提供者・出演者の皆さんに感謝と敬意を表して賞を贈りたい。

OP・エンド賞
勝手に部門を作りました。最近のサブスクにはどこにも「OP・EDスキップ機能」がついていて、観なくて済むようになってしまった。制作者の方も「どうせ飛ばされるから」と出演者の写真を切り抜いて簡単にOPを作ったり、本編の良いところを適当に抜いてEDにすることも多い(そしてEDはうっかり見るとネタバレになることも多い)。
でもちゃんと力を入れて作っているOP・EDもあるにはあるのだ。そういうOPは観ているだけでドラマ世界に引き込まれるし、良いEDは視聴後の後味を爽やかなものにしてくれる。
<受賞作:珠簾玉幕>

単にこれが今年見た中で一番好きだったOP&EDだったから(笑)。翡翠やラピスラズリ等宝玉で作られた山々や海(勿論CGなんだろうけど)がとても美しい。EDはOPの編集違いなんだけど、歌が刘宇宁なのでおまけ。宝石商の話なので、世界観を表すという意味でもぴったりだと思う。
次点はバージョン違いが真面目なものからおふざけが入ったものまであって楽しかった「天行健」、OPに地図が出る「辺水往事」。この地図のおかげで、主人公が何処にいて何処へ行くのかが理解できて、複雑な話だけにありがたかった。「辺水往事」はEDも数パターンあって、物語が進行するに従って変わっていく。
他には第1季同様にポップでキッチュな色使いが楽しい「唐人街探案2」、OP自体が登場する怪事件の目録の役割を果たす「唐朝詭事録之西行」も観ていて楽しい。
「唐朝詭事録之西行」と「辺水往事」、「大唐狄公案」は章ごとに微博に違ったデザインのポスターが掲載された。どれも凝ったデザインで上手く内容を象徴していて、こういうのを集めるのが好きなので楽しかった。
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製作者に差し上げる賞はこれでおしまい…なんだけど、やっぱり「今年の一作」は選んでおきたい。俳優さんの話も書きたい。そういえば監督賞もまだだった。残りは年末に考えるつもりです。
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受賞作の詳細記事は以下からどうぞ。
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