中国ドラマの賞は各プラットフォーム毎に行わることが多いけれど、どの場合でも撮影・編集など「技術部門」に対する賞はない。一度に大人数を舞台に上げて「この人達にも感謝しましょう」みたいな感じで大雑把だ。
…技術部門がきちんと評価されないのはちょっと切ない。なので、勝手に賞をあげることにしてみた(笑)。
表彰部門
アカデミー賞の場合、技術部門の賞は下記の通り。今回は基本これに準拠で選んでみよう。
脚本/脚色/撮影/編集/美術/メイク・スタイリング/衣装デザイン/録音/音響編集/視覚効果/オリジナル作曲賞/オリジナル歌曲賞
対象作品
基本全部観ていないと選べない。今年放送・配信された作品で、最後まで視聴した作品の中から選ぶことに。具体的には以下の29本のドラマと5本のバラエティ。
<電視劇>
繁花/19層/大唐狄公案/阿麦従軍/紫川/唐人街探案2/花間令/與鳳行/群星閃燿時/看不見影子的少年/天行健/新生/慶余年第2季/墨雨雲間/金庸武侠世界/唐朝詭事録之西行/冰雪謠/邊水往事/蔵海花/二十一天/七夜雪/春花焔/大夢帰離/珠簾玉幕/少年白馬酔春風/到命遊戯/永夜星河/九重紫/獵罪圖鑑第2季
<バラエティ>
開始推理吧 第2季/我们的歌 第6季/音楽縁計画/披荊斬棘/十天以後回到現実
…まあ超ヒット作とかが抜けてる気もするけど、観なかったので仕方ない。
脚本賞
「話の面白さ」に直結する脚本。30集を越えるドラマを最後まで観る、ということは当然お話が面白いからだけど、中国ドラマの多くは原作があり「オリジナル脚本」を捜すこと自体が難しい。昨年なら文句なく「一念関山」にあげるんだけど、今年はどうしよう?
<受賞作> 天行健 編劇:白一骢
「お宝地図争奪戦」の衣を被った歴史劇、と言っていいと思う。辛亥革命前夜の一触即発の時代を背景に立場の違う三人の男たちの運命が絡み合う。特に当代きっての使い手でありながら一門を養いきれず高官の狗にならざるを得ない卓不凡、中央の役人になり損ねたせいで頑なに清朝の法を守ろうとする王地保の運命が悲しい。宝の地図の話が途中でどうでもよくなってしまうのが難点だけれど「時代の空気」を切り取る手腕は流石。
脚本の白一骢は脚本家というよりプロデューサー、エディターとしての作品の方が多い。近年では「三体」「御赐小仵作」「终极笔记」等の製作を努めている。
次点は「新生」(編劇:申奥・张艺凡・高博洋・郑林)。一人の人間の本性を様々な証言から炙り出すという手法は珍しくはないけれど、スピーディで意外性のある展開が前半を引っ張った。後半は井柏然の熱演が印象的。
脚色賞
一応原作があるものはこちらに振り分けた。作品の多くは原作のストーリーを大きく改変している、と思うけれど、原作を読んでいるわけではないので改編度合いはよく分からない。
なので、純粋にお話の面白かったものを選んでみた。
<受賞作> 辺水往事 編劇:算・崔小雪
海外(ベトナムがモデル)が舞台の中国人出稼ぎ労働者の物語。北京語・広東語だけでなく様々な言語が飛び交う上人々の関係も複雑なので、是非もう一度日本語字幕付きで観たい作品。
原作がルポなのか、ルポ風の小説なのか不明だけれど、ドラマでは出稼ぎ労働者の厳しい現実、麻薬や傭兵、ギャング等異国の深い闇が余すところなく描かれる。深刻な話だけでなくそこには友情や愛情や信義もあり、エンタテイメント性も抜群。個々のエピソードの出来の良さもさることながら、それらが絡み合った末の後半のどんでん返しのショックが凄まじかった。
編劇の算は監督も兼任。あの「開端」の監督さんだといえば、興味が沸く人もいるはず。
次点は「唐朝詭事録之西行」(編劇:魏风华)「紫川·光明三傑」(編劇:田良良)
「唐朝詭事録之西行」は虚実の混ぜ方が相変わらず巧い。脚本の魏风华は原作者でもあり、歴史小説も多いようだ。
「紫川・光明三傑」は原作の洋風な世界観を重厚な中国風に置き換えた功績を称えたい。アニメの方は少し覗いた程度だけれど、謀略劇という側面がより強調されたと思う。ただ「俺たちの戦いはこれからだ!」で終わってしまったのは非常に残念。続きが見たいけれど、キャスティング的に難しいかも。
低予算ながら(そしてあっという間に配信停止になってしまったにも拘らず)評価が高い「致命遊戯」(高巍(総編劇)贾洪涛 张元龙)。伝承をテーマにした謎解き、軽妙な会話等面白さの中核を担っているのは脚本だと思う。
現在配信中の「九重紫」(編劇:贾彬彬 迟晚 蓝天雨 李昱萱 王佳绮)も面白い脚本だと思う。よくある「人生やり直し」物語なのだが、早々に元の人生から逸脱し独立した女性を目指す主人公が策略を巡らせる様が面白く、且つそれでも結果がほんの少ししか変わらない点がミソ。まだ中盤なので、以降どうなるか。
撮影賞
カメラマンはいつだって大事。俳優さんの演技が素晴らしくてもセットが良くても、美しく撮影できていなければ価値は半減。中国ドラマのカメラマンは皆さん上手だと思う。カメラが常にズームしてるか、パンしてるかで落ち着かないのは謎だけど。
<受賞作>「繁花」撮影:鮑德熹
1990年代上海のキラキラした夜を再現した映像は溜息が出る程美しかった。窓ガラスやシャンデリアに映り込んだものさえ全て計算されていて、凄いの一言。
撮影監督の鮑德熹は大ベテラン。「賭神」「笑傲江湖」をはじめ有名な香港映画を沢山撮影している。…そういえばこのドラマは不必要なパンやズームが一切なくて、画がとても落ち着いていた。
次点を上げるのはちょっと難しい。役者さんの姿は大変美しかった「大夢帰離」。セット内での撮影も美しかったけれど、後半ちょっと厳しかった気が。撮影は美しく、狄公の所在地がはっきり分かるのはいいけれどお話が絶望的だった「大唐狄公案」。雪景色は大変に美しかった「七夜雪」。ただせっかく四季の景観が楽しめるという「四季の庭」をデザインしても、撮影の画角に工夫がなくてどれも同じに見えてしまった。…うーん、次行こう。
編集賞
視聴者が気持ちよく観られることが編集の第一原則。唯繋いだだけではテンポが悪くて眠くなるし、奇をてらいすぎても視聴者がついてこられない。巧みであるほど目立たないので見極めるのが難しい分野の一つ。
<受賞作>「披荊斬棘」
「繁花」の編集は間違いなく大変で(きっと各場面のいろんなバージョン違いがあって、作業量が膨大)巧みだったとも思うけれど、正直観ていて時々混乱した。映画ならともかく、連続ドラマで時制が飛んだり戻ったりしすぎるのはどうなんだろうと思う。
「辺水往事」もややこしい話をうまく纏めていたと思うけれど、こちらもOPの地図を見ないと場所が分からない時がちらほら。
結局作業の膨大さを考えて「披荊斬棘」を選んでみた。リアリティショーであれだけの人員を集めてそれぞれの練習風景から日常生活までを撮影するのも大変だが、何が起こるか分からない中で編集してストーリーにしていくのはもっと大変。素材量の多さを考えると編集者の苦労が偲ばれる。
視覚効果賞
今日視覚効果を使っていないドラマの方が少ないんじゃないか、と思う。背景処理とかワイヤーワークは巧ければうまいほど見ている側に分からないのは編集と同じ。
その辺りの技術の優劣の判断は難しいので、単純にCG多用なものの中からチョイス。
<受賞作>「蔵海花」
遺跡探索もの(というか盗掘もの)は洞窟の中にあり得ない光景が広がっているのがお約束。キーとなる青銅扉や、その先の室内、一面の花畑など、ドキドキするような異世界を創り出してくれたのは嬉しい。撮影時はオールグリーンバックだったりするので演じる役者さんも撮影する側も大変だったはず。お疲れさまでした。
次点は…アクション時に龍やら鳳凰やらが登場する割にアクションそのものとの繋がりが悪くなかった「少年白馬酔春風」、西に行くと怪物が多いんだなあ、と思いつつ探案ものとしての骨格は崩れなかった「唐朝詭事録之西行」辺りかなあ。
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…長くなってしまったので美術系と音楽系の賞は別稿にて。
題名:天行健 Heroes 2024 36集
導演:楼健「御赐小仵作(宮廷恋仕官~ただいま殿下と捜査中)」
卫立洲(「紫川」「終級筆記」)
脚本:白一骢(胡军主演の「天龍八部」)
出演:秦俊杰Qin Jun Jie(「飛狐外伝」)刘宇宁 Liu Yuning
庞瀚辰Pang Hanchen(「光·渊」) 黄梦莹Huang Meng Ying(「三生三世十里桃花」)
題名:边水往事 邊水往事 Escape from the Trilateral Slopes
原作:沈星星「边水往事」 編劇:算・崔小雪 導演:算 2024
出演:郭麒麟Kevin Guo 吳鎮宇Francis Ng 江奇霖Jiang Qilin
原題:繁花 Blossoms Shanhai 2023年
監督:王家衛 原作:金宇澄「繁花」 編劇:秦雯(「赘婿」等)
出演:胡歌 馬伊俐 唐嫣 辛芷蕾
題名:披荆斩棘 披荊斬棘 Call Me By Fire
総導演:吴梦知
音楽総監:陈伟伦
舞踏総監:陈龙生@天舞IDG
題名:藏海花 藏海花 Adventure Behind the Bronze Door 36集
原作:南派三叔「藏海花」 編劇:张沅玫含、邓悦、黎藻
導演:韩青
出演:张鲁一Edward Zhang 陈明昊 张康乐 文咏珊 Janice Man