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ホラーより恐ろしい密林での物語「辺水往事」(~10集辺りまで)

「出稼ぎ中国人労働者」を扱った異色の中国ドラマ。

ゴールデントライアングルみたいな場所「三辺坡」に放り込まれることになった主人公。言葉も通じない土地、顔を見れば銃をぶっ放してくるか、賄賂を要求してくるか、騙して金を巻き上げようとするか、の人々と何とか渡り合いながら、生き別れになった叔父を探し出し、無事帰国できるのか…。

ここから先前半のストーリーに関するネタバレが含まれます。ご注意ください。

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「辺水往事」微博よりメインキャスト集合ポスター デザインも昔の映画風

いろいろな言語が飛び交い、ついていくのが大変…

主人公の沈星(郭麒麟 飾)は、大学に行けずに叔父を頼って三辺坡に出稼ぎにやって来た。

羽振りがいいと聞いていた叔父の商売は実は火の車で、金策をしに封鎖地区に向かった叔父はそのまま行方不明に。工事現場の中国人労働者の賃金を工面するため金を借りた沈星は、偽酒の商売のトラブルに巻き込まれ、殺人の罪を着せられてしまう。

 

偽酒販売の商売相手、山奥の麻薬密売人たち相手の運送業を営む猜叔(吳鎮宇 飾)に気に入られた沈星はそのまま運転手として雇われることに。三辺坡で手広く合法非法の商売を展開する華僑である猜叔の使いで、危険な密林をあちこち走り回り、危ない橋を渡りながら叔父の行方を探ることになる。

 

何せ外国なので、猜叔の部下たちが話す恐らくベトナム語タイ語?と思われる地元の言葉、猜叔の話す広東語(対外的には北京語も話す)、華僑の間での共通語の北京語(中文版Wikiによると中国西南部の方言である西南官話も)が飛び交い主人公だけでなく観ているこちらも混乱する。本当はもっと別の言語が飛び交っている可能性もあるけど、よく分からない。…中文の字幕だけが頼りってことになるので内容を正確に把握できているかどうかも微妙(笑)。

 

ただ、毎話のタイトルが内容をよく表していることや、微博に掲載されている人間関係図や各話のポスター(すごく凝っていて全部集めたくなる)が、不明な部分をある程度補ってくれる。

「辺水往事」微博より各話毎のポスター 後から見ると とても象徴的

密林の息苦しさ、美しさ

原作の舞台は2009年のベトナムプノンペンなのだそうだ。(プノンペンは中国語で「金边坡」、ドラマは「三辺坡」となっている)百度百科によれば、その時に体験したことをまとめた、という形をとっているらしい。(内容は未見なので、ルポルタージュなのか、ルポの体で書かれた小説なのかは不明)

ドラマを観た印象ではもっと以前、ベトナム戦争前後あたりのような印象を受ける。(実際の90年代ベトナムがどんな風なのか知らないけど、ドラマのような怖い場所だって印象はない)人の命が紙のように軽い一方で、皆敬虔な仏教徒でもあるのは、タイの奥地の無法地帯辺りを想起させる。

 

三辺坡のある国は勢力が二分されていて、更に一方の支配地域の中に独立勢力があり、そこが封鎖地区(叔父さんが行方不明になったところ)になっている、らしい。

猜叔たちが治めているのは密林の川沿いで、屋敷も水上ハウス。それなりに大きいけど、簡素。密林の集落は獣道のような道路でつながっており、上の方に敵が潜んでいたりして気が抜けない。

でも川向うには超高層マンションが立ち並ぶ高級住宅地があったりする。地域の差、貧富の差はとんでもなく大きいようだ。

 

オープニングに必ずその回の行き先が記されるので、飛ばさずに観た方がいいと思う。

 

血も涙もない華僑たち

流石華僑の人々は逞しい…というべきか、こんな場所でも商売する華僑たちがいる。数代前からこの地に根付いている人もいれば、流れ者で怪しい商売に手を染めている輩も。

 

華僑でなくともボスは皆計算高く残酷で、情では動かない。

宝石を算出する鉱山のボス、呉海山(王迅 飾)は表面は穏やかだが、子どもの命程度なんとも思っていないし、三辺坡の牛麻鎮を治める艾梭は猜叔すら出し抜こうとする。

 

猜叔自身は麻薬などの毒は扱わない、というのが最低ラインで、一見誰よりも冷静で残酷に見えるけど、亡くなった嫁の出来の悪い弟を腹心にしていたり、弟を失った但拓(実際は彼が一番の腹心)が沈星を可愛がり無理をするのを手助けしたりしてくれる。

猜叔を演じる呉鎮宇は長い経歴を持つ香港の俳優さん。先日も「七人楽隊」で渋い校長先生を演じていた。如何にもやり手のボス、って感じの静かな迫力に満ちている。

「辺水往事」微博より沈星の義兄弟の皆さん イチオシは拓哥

密林の人々は懐に入り込んでしまえば…

街には検問が各所に設けられていて兵士が怖いだけでなく、小ボスや部下も銃や刀を振り回すし、少年兵はいるわ、叛乱軍はいるわ、命が幾つあっても足りなさそう。

それでも彼ら一人一人は感情のある人間で、善良な沈星と徐々に打ち解け、助けてくれたり助けられたりするような仲になる。

人間関係が凄く殺伐としている場所なので、彼らの友情にはほっとする。

 

猜叔の腹心、但拓は殺された弟の姿を沈星に重ねている。もともと面倒見のいいたちなのだろう、あれこれ世話を焼いてくれ、一番心配してくれる。腕も立つ頼れる兄貴なのだけど、こういう人、長生きできなさそうで心配。

演じる江奇霖は中国の少数民族の一つイ族(彝族)の俳優さんだそうだ。

 

沈星の性格は意外に複雑?

沈星は学校の勉強はできなかったみたいだけれど、頭の回転が速く、周りの状況や人を観察するのも得意だ。郭麒麟は「慶余年」や「赘婿」のような立て板に水の喋りは封印で、大人しく無害(に見える)な青年を演じている。

 

沈星は人に対して優しい。自分を守ってくれた少年兵には親身になるし、貧しい子供を見れば食べ物を分けてやらずにはいられない。その優しさがかなり荒んだ生き方をしている周囲の人間に「彼を助けてやろう」という気を起こさせる。

 

ただ、沈星も自国では居場所のなかった若者だ。そして意外なほど速く、この国のやり方に馴染んでいる。支配者たちの力関係を読み解き、誰に何を言えばどうなるかを理解し利用する。彼の行動原理を支えているのは良心だったり、良識だったりするのだけれど、そういうことが通じない出来事も多く、そうした「善性」はこの国に留まり続ける限り、いずれ麻痺してしまうかもしれない。

…丸っこくて可愛らしい沈星には、できれば善良なままでラストまでいてほしいなあ。

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題名:边水往事 邊水往事 Escape from the Trilateral Slopes

原作:沈星星「边水往事」 編劇:算・崔小雪 導演:算 2024年

出演:郭麒麟 Kevin Guo 吳鎮宇 Francis Ng 江奇霖 Jiang Qilin

 

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