「辺水往事」（～最終話）密林に希望はなかった

叔父さんの件に片が付く10話以降、胸の痛む展開が続く。危険だが魅力的な場所だった三邊坡の本当の顔が見えてくる。

今年見た中で一、二を争う出来のドラマだけれど、後味は苦い。

ここから先はストーリーのネタバレが含まれます。ご注意ください。

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現地の言葉は「造語」

メイキングで語られていたが、三邊坡の人々が使うタイ語ともベトナム語ともつかぬ言葉は、ドラマスタッフの造語なんだそうだ。台詞はもとより看板の文字も全部造語。アルファベット分の文字を作り、更に複数の字体も作ったんだとか。

「分からない言葉」がもたらす効果は大きくて、どうしてもわかり合えない壁の存在、言葉も常識も通用しない土地であることをはっきり示してくれる。

後半はエンド曲も「金稼ぐぞ～」な「達班」から「俺は犬じゃない！」の「条狗」に変わる。どちらもRAPだけど突き抜けた明るさの「達班」に比べ「条狗」は暗く重苦しい。

人は皆破滅する

沈星はこの地で幾人かと友達になった。猜叔の右腕の但拓（江奇霖飾）、工事現場の同僚・郭立民（赵润南飾）、鉱山の情報通・王安全（蒋奇明飾）、麻牛鎮のボス艾梭が抱える私兵・蘭波（周政傑飾）、カラオケ店の女店主・劉金翠（齐溪飾）…が、留まることを決めた途端、友人たちが一人、また一人、破滅を迎えるのを目にすることになる。

この土地の闇は深いのだ。カラオケ店は一見日本のキャバクラのようだが、裏では女性を「結婚」という形で売っている。買われた花嫁は暴力を振るわれ血だらけになっても男の許に引き戻される。

カジノには客の身ぐるみを剥ぎ、財産全てを供出させるための拷問部屋がある。大負けさせるために客を誘惑する係までいて、落ちぶれた王安全がその役をやっていたりする。

友人だった郭立民がつぶやく台詞は心に残る。「死にかけた魚は浮かび上がれない。ここで朽ちていくだけ」

徐々に追い詰められる猜叔たち

猜叔の許に戻った沈星は運転手から出世して資金回収の仕事もするようになる。

沈星が猜叔から任された2つのカジノは、三邊坡でカジノのネットワークを作ろうとする一味に乗っ取られてしまう。そこで働く友人を救おうとした矢先、カジノに警察の手が入り、相手の一味は壊滅。だが資金が回収できなかった猜叔は苦境に立たされることに。

猜叔の商売の最低ラインは「麻薬業者に物資は運ぶが、麻薬は運ばない」ことだった。とうとうそれも守れなくなり、猜叔のトラックは軍需品や麻薬そのものを運ぶようになる。

三邊坡ではごく普通の人々も麻薬にまみれていて、父親がジャンキーだった但拓や、人々の悲惨さを見てきた沈星は抵抗するが、暗殺者を送り込まれたり、部下が殺されたりした猜叔は「俺も年を取って死ぬのが怖くなった」と弱気なことを口にする。

…そして大きな悲劇が訪れる。

後半、次々起こる悲惨な事件に気を取られがちだけれど、時々「あれ？」と引っかかることがあったら覚えておいてほしい。このドラマの脚本はとてもよくできていて、全ての疑問が最終話で解けるよう出来ている。

ここから先はエンドのネタバレが含まれます。ご注意ください。

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最も恐ろしいのは「猜叔」

悲劇の後も物語は続く。

沈星が刑事・覺辛吞から情報を得るという形で三邊坡で本当は何が起きていたのか、これから何が起こるのか、が語られる。

私も沈星と同じようにすっかり騙されていて、一度見ただけでは内容が全部飲み込めず、結局中文字幕と英語字幕で3回くらい繰り返し観てしまった。

全ては猜叔の策略だった。麻薬業者に自ら話を持ち掛け、父親のような優しさや弱さを見せて部下を操った。この件で猜叔は更に上のマフィアたちとの繋がりを得、三邊坡の北半分を手に入れた。そしてもっと恐ろしいことに、麻薬製造販売の空白地域を手に入れた。（中国語の台詞では明確に言わないけれど、英語の字幕では「そこで麻薬を製造するつもりだ」とある）

刑事は言う。「猜叔が何で生計を立ててたと思う？麻薬業者相手だったんだぞ。それを失ってどうすると？」…ごもっとも。

そういえばカジノが警察に潰されたことで、麻薬業者との力関係が何故あんなに変わってしまったのか、ちょっと疑問だった。

もっと嫌な想像も広がる。例えば

「カジノで沈星が計画していたよりずっと早く警察が到着したのは何故か？」

「カラオケ屋で陳会長の甥を射殺した少年兵は、何故甥の行先を知っていたのか？」

カジノへの手入れも、陳会長の甥や艾梭の殺害も、封鎖地区の伐採現場への急襲も、結局一番得をしたのは誰だろう？

沈星が三邊坡へ来てからの全ての出来事は、起こるべくして起きたのでは…そう考えるとぞっとする。

ここはやっぱり吳鎮宇さんを褒めちぎるべきかもしれない。本当にすっかり騙された。

結局沈星は何とかこの地を脱出することに成功するのだけれど、その少し前に猜叔が恐ろしいことを（ものすごく優し気な口調で）口にしていたのを忘れてはいけない。

「帰りたいなら一度帰ってこい。そしてここに戻ってくればいい。一緒に商売しよう、な？」

…うーん、恐ろしい。

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