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中国ドラマと香港映画について書いています 記事についてはINDEXをご参照ください

今更ながら「周生如故」のモデルを調べてみた

「悲恋」という言葉で腰が引けて今まで観ていなかった「周生如故」(邦題:美人骨 前編:周生如故)…。観始めたら面白い。

ロマンスが中心というより、中央の滅茶苦茶な権力闘争に翻弄される二人の物語だ。主役の二人、任嘉伦と白鹿の抑えた芝居は深い余韻に満ちていて…案の定泣かされました。

観終わってWikiを読んでいたら、主人公をはじめとする登場人物の多くが実在の人物をモデルにしていると知ってびっくり。ついでにちょっと調べてみた。調べた、といっても中国史に詳しいわけではないので、主に日本語と中国語のWikiを参照。

以下ネタバレというか、最終盤のストーリーに触れています。ご注意ください。

「周生如故」微博より 描かれている蓮の花にもエピソードがある。前半の伏線は終盤できちんと回収される

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主人公のモデルは「蘭陵王

中国語版Wikiによれば、主人公・周生辰(任嘉伦 飾)のモデルは「蘭陵王」こと高長恭。…これはまあ分かるような、そうでもないような。原作のタイトルが「美人骨」だと聞いて、すっかり女主のことだと思っていたけど、ドラマを観ると男主のことだと素直に納得できる。

蘭陵王も皇族でありながら軍に身を投じ、辺境で侵略者と戦い続けた常勝将軍だ。その名声を皇帝から疎んじられ、最後は陥れられ毒酒を賜ることになった。

任嘉伦が演じる将軍は端正で静かな美しさがある。確かに女性と見間違うという優し気な「蘭陵王」の雰囲気はあるかもしれない。

 

ちなみに周生辰の側近となる僧・蕭文をはじめ、周辺人物にも歴史上のモデルがいる。

蕭文のモデル萧综は当時の北魏の敵国・梁の第二皇子で、父と信じた帝が実は実父殺害の張本人だったという逸話も史実のようだ。

 

政権争いは「北魏」がモデル

蘭陵王は北陳の人だけれど、ドラマのモデルになった国は南北朝時代北魏だという。

結論から言うと、ドラマ内で起きた出来事はほぼ史実だった。

 

北魏(386-534)は南北朝時代の国の一つ。拓跋氏が拓いた国で、拓跋氏はその後姓を元に改めた。ドラマで描かれているのは北魏の末期にあたる。

ドラマ開始時点での皇帝・劉徽のモデルは魏孝明帝・元詡(510-528)。5歳で皇帝に封じられた。太后のモデルは太后・胡充華。広陵王・劉子行(王星越 飾)のモデルは孝莊帝・元子攸(507-531)だそうだ。

太后が幼帝を即位させ垂簾政治を行い、後に息子の帝と宦官らによって監禁されるのも史実。その後の皇帝殺害と広陵王による皇位簒奪の流れもほぼ史実そのままだ。

朝臣の大虐殺は「河陰之変」(528年)として知られており、実に200名もの朝臣が殺害されたという。

一番びっくりするのは、太后が死産だった皇子の身代わりに赤ん坊を連れてくるくだりもほぼ史実だったこと。もっとも史実では他人の赤子ではなく皇女だったそうだけれど、一日でバレた。…女の子を身代わりに立てて、どうするつもりだったんだろう?

 

高氏粛清の詳細は?

女主の父親が家を追われる原因になった「高太后の謀反」。ドラマ内では詳細が語られないけれど、胡太后と高太后の間には深い確執があったようだ。

 

高貴妃こと高英は507年、叔父の高肇と協力して舜玉皇后を殺害、高皇后となる。彼女が産んだ男子は夭折。当時の北魏の風習では息子を生んで立太子されるとその母親は弑されるという風習があった為、自ら殺害したとの噂もあった。一方胡貴妃は男子を出産。胡貴妃の夫である宣武帝が母親を弑すという風習を廃したため、彼女は命拾いした。男子を生んだ胡貴妃を高皇后は殺害しようとするがが果たせなかった。

武帝崩御の後高皇后は太后となり、再び胡贵嫔の殺害を計画するが崔光(女主の祖父のモデル)らに阻止される。孝明帝が即位し胡は太后になる。高英は太后を退き尼僧になることを強要された。

518年、高英が母を訪ねた際、母の家で殺害される。生前高英は凶悪な人物と思われていたが、その後の胡太后がより凶悪だったため、世間の同情を集めることになった。

 

…どっちもどっちって感じだ。

 

北魏のその後は…

ドラマでは皇位簒奪後、広陵王は病死するが史実はもっと血生臭い。

 

孝莊帝は将軍・爾朱栄(金榮のモデル)の傀儡であることに不満を抱き、皇后(爾朱栄の娘)の妊娠を餌におびき寄せ殺害。だけどこれを機に爾朱栄一族の叛乱が起き、逆に拘束され殺害される。

その後は1年の間に傀儡の皇帝が立てられては廃位、殺害の流れが続く。一時は3人が皇帝を自称したこともある。結局孝莊帝殺害から4年で北魏は東西に分裂する。

 

歴史上の逸話とオリジナルストーリーの融合

このドラマが秀逸なのは、血生臭いがドラマディックな歴史と、キャラクターが織りなす美しいロマンスが齟齬なく融合している点だと思う。彼らが翻弄される運命そのものに説得力があるので、その悲劇が一層際立つ構造だ。

 

主人公二人は勿論大変美しく描かれ、彼らの周辺人物も上手く配置されているけれど、出色なのはやはり広陵王・劉子行の造型だと思う。

広陵王は無能であるのに野心ばかりが強く、心をべったりと闇で塗り固めたような人物だ。

彼は帝から賜った婚約者・漼時宜(白鹿 飾)の画姿に執着するが、実際の彼女が自分を愛していないことを不思議がりはしても、理由を考えようとはしない。彼女の大切な師兄や師姐を殺しても平気で娶ろうとするし、自分を愛してくれる公主の気持ちを慮ることもしない。漼時宜を後宮に閉じ込めれば、彼女の愛する人の死をなかったことにできると本気で信じているようでもある。…彼の気持ちを理解しようにも、ぽっかり空いた虚無があるばかりで、恐ろしい。

 

実際の孝莊帝はハンサムで勇猛だったそうだから、広陵王とはかけ離れた感じの人物だったのかもしれない。この人物造形は脚本家・演出家・俳優が力を合わせて作り上げた結果だ。

 

原作者でドラマの脚本も手掛けた墨宝非宝は「步步驚心」(邦題:「宮廷女官 若曦」総合編劇)「親愛的,熱愛的」(邦題:「Go!Go!シンデレラは片想い」オリジナル脚本)などの脚本家でもある。「親愛的,熱愛的」はピンク色のジャケットと邦題で大分損をしていると思うけれど、e-スポーツにかける熱い人間ドラマで、名作だ。

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原題:周生如故 One and Only 邦題:美人骨~前編:周生如故

原作:墨宝非宝《一生一世美人骨》古代篇

編劇:墨宝非宝 導演:郭虎 2021 24集

出演:任嘉伦 Allen Ren 白鹿 Bai Lu 王星越 Wang Xingyue

 

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スリリングな子連れの逃亡劇「群星閃燿時」~10集まで

特にチェックもしていなかった作品だけど、李現主演…と思って観てみたら、意外に面白い。舞台は民国期の上海。両親の殺害犯から8歳の女の子を守りながら、真相を探るサスペンスもの。

ここから先はストーリーに触れています。ご注意ください。

「群星閃燿時」微博より 子連れ姿も似合う李現

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リズムが早く複雑なストーリー展開

民国期、日本軍が南京辺りでも勢力を伸ばし戦争まで一触即発、辺りの時代。華楨(李現 飾)は南京の上流階級の出身で、大学を出たばかり。恩師から一冊の本を上海のある人物に渡してほしいと頼まれるが、恩師はその後共産党員の容疑で公安に逮捕されてしまう。約束通り上海に行き本を届けようとした華楨だが、待ち合わせのホテルで夫妻は既に殺害されており、夫妻の8歳の娘孟多慈(李祉默 飾)が一人残され、今にも攫われそうになっていた。

 

この少女が健気で可憐。泣きながらもちゃんと身を隠し、自分のできることをしようとする。華楨の1か月の給料を聞き出すと、級友に片っ端から電話してお金を借り、そのお金で華楨を雇う。「1ヶ月の間、私を守って」

 

犯人は警官の姿をしていた、と孟多慈が言うので、うかつに警察に駆け込めない。結局華楨は少女と共に身を隠しながら真相を探ることに。夫妻に渡すはずの本に隠されていた偽の身分証を使い、所轄の警察に新人として潜り込む。

 

少女を追いかける日本軍の密偵(殺し屋)の他に、日本軍と通じ少女を追う警察上層部、華楨の一家と共産党との繋がりを怪しみ南京から上海までやってきた公安や、その背後にあるらしい南京の権力闘争なんかもあって話は複雑。それでもこんがらがったりしないのは、脚本の巧みさによるところが大きい。

 

登場人物の造型はリアルでバラエティ豊か

「群星閃燿時」という題名からも分かる通り、少女を守ろうとする側にも様々な立場の人々が登場する。

所轄(所轄っていう言い方でいいのかな?でもその上に分署があって更に上に公安局がある。地域の駐在所が少し大きくなった感じ)の四所警察の隊長・陳浩(周游 飾)は夫妻の殺害現場に最初に到着した警官で、事件現場で遭った向远生=華楨を最初から疑っているが、状況を知るにつれ協力者に。やる気の全然ない警官が揃っている四所警察では唯一と言っていい熱意溢れる警官だ。

 

四所警察の新人警官・骆珉敏(任敏 飾)は女性警官に憧れ何度も試験を受けてようやく受かった女の子。やる気には溢れているが、実力は伴わない。でも一生懸命。彼女の家は裏通りで写真館を営んでいるが、一家は少女にとても優しい、良い人たちだ。「玉骨遥」の時は演技の拙さが目立った任敏だけど、今回はごく普通の女性でとても良いと思う。

 

その他、少女の家庭教師で共産党と密かに繋がりをもつフランス租界の警察の高官・石珺昱(王紫璇 飾)の一派もいる。王紫璇も「河神」「青雲志」の時は些かけたたましい感じだったけれど、今回は怜悧な女性。あの時代の洋装がとてもよく似合って美しい。

 

彼らは今のところ別々に彼女を守ろうとしているけれど、話が進むにつれ繋がっていくのだと思われる。どの人物も少ない尺で、どういう人かよく分かるように描かれているし、骆珉敏一家のホームドラマっぽい感じと、派手なアクションシーン(どれも迫力があってドキドキさせられる)や陰謀劇とのバランスも良くて、続きが早く観たくなる。

「群星閃燿時」微博より 上流階級という設定なのでスタイルもお洒落

 

李現のスーツ姿がかっこいい

白いスーツで、ヨーロッパのスーパーのような紙袋を抱えてる様は、如何にもシュッとしている李現。初回の軍服姿もなかなか。

李現はこういう一見不遜な役が得意なんだろう。「親愛的、熱愛的」と似たような感じだけど、今回は子どもが相手。少女に大きな瞳でうるうる見つめられて、つい言うことを聞いちゃうようなかわいいとこともあって好感が持てる。

 

上海の市井のレトロな雰囲気

「繁花」みたいに大きく華やかなセットがあるわけではないけれど、屋台や壁面のポスター、電話ボックスなど、細やかに配慮されたセットが当時の上海の市井の暮らしの雰囲気を上手く醸し出している。屋内も凝った洋風の階段や壁の文様、様々な小道具がレトロで美しい。

 

監督さんは同じく民国期の上海が舞台(のはず)の「夜旅人」の人で、あのドラマも出回っていたスチルが大変綺麗だった。鄧倫の件で、日の目を見ないかもだけど、観たかったな…。

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全34集らしいので、お話はまだまだ始まったばかりという感じだけれど、ちょっとほのぼのしたシーンがあるかと思うと、すぐに少女に危機が迫って大変なことになるので、目が離せない。抗日ものにありがちな、妙な日本語が飛び交うことも今のところはないので(日本人が日本語喋っている)安心。まあ、日本軍が悪役なのはこの時代だから仕方ないし。

 

あんまり話題になっている様子もないのが残念だけれど、今のところ一番更新が楽しみなドラマだ。

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題名:群星閃燿時 群星闪耀时 shooting stars

導演:万里扬 編劇:浦维 黄琛 34 集

出演:李现 Li xian 任敏 Ren Min 周游 Zhou You 王紫璇Wang Zixuan

 

上出来の推理バラエティ「開始推理吧」

「開始推理吧」の第2シーズンがもうすぐ始まるらしい。ポスターや出演者や予告が次々発表されて、楽しみだ。

第1シーズンはとても面白かった。作りは推理ゲームのアトラクションに近いけれど、お話の展開が大変よく練られていて、唸らされた。

推理バラエティなので、ネタバレがないように書いているつもりですが、ストーリーの一部には触れています。ご注意ください。

「開始推理吧」微博より 第1季ポスター 誰が一番びびりでしょう? 

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番組の仕組み

第2シーズンは変わるかもしれないけど、第1シーズンは以下のような作りだった。

 

基本はアトラクションがそのままスタジオに移動したような感じだ。第1シーズンは「11号アパート」というちょっと変わった形のアパートが舞台。レギュラー出演者はアパートに住む住人(&アパートの管理人)で、同じ時期に引っ越してきたという設定。

 

出演者には一応役名と設定があるが、台本通りに進むというわけではなく、起きた事件の真相を解明し、犯人を突き止める、のが基本の流れ。但し毎回、推理団の誰かが事件の当事者(容疑者)になるので、その人の言動には要注意。

 

<11号アパートの住人(推理団)> 初期設定

白三碗(白宇):麺屋の主人

刘下来(刘宇宁):勤め人?

宋漂亮(宋祖儿):美容のお店経営

周可可(周深):チョコレート店経営

柯务酷/柯五苦(周柯宇):学生?/修理屋

郭包佑(郭麒麟):推理小説家 司会進行役も兼ねる

 

キャスティングは豪華。

殆どの台詞はアドリブと思われ、割と真面目にトリックを考える人もいれば、白宇みたいに仲間にいたずらを仕掛けてばかりの人もいて、番組内での振る舞いはフリーダム。出演者の意外な一面が見られるのはバラエティならではの醍醐味。

 

推理バラエティなので起こるのは全部殺人事件だけど、死体は人形だし、セット自体はおもちゃじみたスタジオセットなので、そうしたものが苦手な視聴者にも優しい作り。

大体は上・中・下で1つの事件が解決する。

事件ごとにゲスト出演者がおり、毛晓彤・孟子义・赵丽颖…等豪華。そういえば先日「与風行」に出演していた辛云来も出ていた。(「与風行」観た時以前何処かで、と思って思い出せなかった…。すっきりした。)

 

探索パート+尋問パート+犯人当て投票+解説

事件が起こるとまず手がかりを捜す探索パートになる。

アパートにはいろいろな仕掛けが施されていて、暗号があったり、隠し部屋があったり、仕掛けを解かないと脱出できない部屋なんかもあったりする。突然明かりが消えたりもしょっちゅうで、誰が一番ビビりかよく分かる(笑)。

 

犯人、或いは情報を持っている人に対する尋問パートもある。毎回レギュラー陣の誰かは尋問される側に回ることに。

 

お話の展開に従い、二つのパートが繰り返され「犯人は誰か」の投票へ。推理が当たっていれば鍵みたいなのがもらえるのだけど、何の役に立ったのかは不明。犯人が明かされた後は法律の専門家による「こういうことは犯罪だからやっちゃいけませんよ」という解説がつく。…この部分、結構長いので、飛ばしました。

 

ストーリーは凝っている

この番組の良いところは推理ものとしてよくできているところだ。ストーリー展開の意外性は出色。起こる事件はレギュラー陣の誰かに纏わるものなので、事件の中でその人の過去が分かっていくような作りになっている。

犯人当てはかなり難しく、推理団の証拠探しが成功するかにかかってもいる。犯人を特定する証拠が最後まで見つからなかった、なんてことも。(まあ、真犯人が当たらなくても、観ている側としては十分面白いからいいんだけど。)

レギュラー出演者だから犯人じゃない、と思ったら大間違いで犯人だったりすることもあるので油断ならない。

 

事件は二転三転するような展開が用意されていて面白いのだけど、全編を通しての謎、というのもあり、これが解き明かされてゆくのは後半になってから。アパートの一部が異空間と繋がっている、という辺りから物語は複雑になり(でも筋は通っている)、やがてどうして彼らがこのアパートに集まってきたのか、その理由も明らかになる。

 

最終話、こうした展開になる推理バラエティというのは観たことがなかったので、とても新鮮だった。

ちらちら出る情報を見ていると、どうやら第2シーズンではこの辺りが強化されていそうで楽しみ。

 

出演者同士のやり取りを促すギミック

配役があるとはいうものの、ほぼ皆素のままなので、やり取りが楽しい。

出演者同士の会話が弾むようなギミックもあって、その一つが「食堂」だ。

 

アパートにはバイキング形式の食堂があり、実際に食事を取ることができる。というより、多分仕出し弁当の代わりで昼食、夕食をここで取っているようだ。割に美味しそうな料理が並んでいて、白宇が実際に麺を打っていたこともあった。(皆フツーにもらって食べてた)

 

食事には料金が設定されている。皆アパート内ネット通貨みたいのを持っていて、それで支払うのだけれど、その残金が操作されていてしばしば代金が払えない、という事態が起こる。そこで誰かに借りたり、奢ってもらったりというのが発生し、会話のきっかけづくりとなっている。

後半になれば出演者同士も仲良くなってくるのであまり心配ないけれど、前半はこのようなちょっととした仕掛けは巧く作用していたように思う。ちなみに食事パートのやりとりは主にメイキング等で公開されていた。

 

この番組、かなりタイトなスケジュールで収録したようで(男性陣の髭の伸び方を見ると夜中近くまで収録しているようだ)、食堂以外でもみんな消えもの(小道具として用意されたお菓子類等)をパクパク食べてた。特に食べてたのが白宇と劉宇寧。…一番年上のはずなんだけど。

「開始推理吧」微博より第2季ポスター 場所も時代も増えて展開が楽しみ

第2シーズンは洋館が舞台?

予告編を見ると、セットの規模はかなり大きくなった模様。洋館…というよりちょっとした街のオープンセットが用意されているようで、時代も複数あるらしい。(ポスターには1924年、1988年、2004年、20??年の文字が見える。)最新の予告によれば??は未来らしい。複数の時代を行き来しながら物語が進むのか、過去の事件との関連を探るのか?

 

出演者は白宇、刘宇宁、周柯宇が第1シーズンから引き続き登場。加えて迪麗熱巴・張凌赫王迅が参加。王迅という人は私は知らなかったけれど喜劇俳優でバラエティ番組「极限挑战」のレギュラー出演者とのこと。第1シーズンの郭麒麟のような立ち位置(話し合いや解説シーンでの司会)なのかもしれない。

システムにも変更が加えられたようで、どうやら「共犯者」のシステムがあるらしい。推理団6名のうち4人が容疑者、そのうち一人が真犯人で、真犯人は探偵役2人のうち1人を共犯者として指名出来るらしい。共犯者は犯人が嫌疑を晴らす手助けをするのが仕事、とのこと。…実際どんなふうにシステムが作用するのか分からないけど、犯人当ては一層難しくなったようだ。

 

怖がり度、という意味では周深と郭麒麟がいなくなってしまって刘宇宁一人に…。本人は直播で「怖くない」って力説してたけど予告では早速悲鳴が…(笑)。

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推理バラエティというジャンルは日本では殆ど見られなくなってしまった。理由は簡単で、トリックや物語を考えなければならない上、それなりにセットや準備も必要で、手間とお金がかかるから。(それならドラマにしてしまった方が効率がいい)でも予算と人手が潤沢な中国では結構沢山作られているようだ。

その中でも特に評価の高かった今作、細かい話は分からなくても楽しめるので、お時間があれば是非。

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題名:開始推理吧 开始推理吧 The Truth

導演:陈晓翎(「密室大逃脱」「明星大侦探」…このジャンルが専門みたいだ)

編劇:小苕葶、解璇 2022 30集

出演:白宇 Bai Yu 刘宇宁 Liu Yuning 宋祖儿 Lareina Song Zu'er 周深 Zhou Shen

   周柯宇 Daniel Zhōu Keyu 郭麒麟 Kevin Guo

 

題名:开始推理吧第二季 詳細不明

出演:白宇 Bai Yu 刘宇宁 Liu Yuning 周柯宇 Daniel Zhōu Keyu 迪麗熱巴 Dilreba 
   張凌赫 Zhang Linghe 王迅

 

 

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記事INDEX

記事数が増えたので、INDEXを作りました。

ドラマ・映画のタイトルから該当記事に飛べます。タイトルの順番は大体あいうえお順…のはず。

各タイトルは原題・英語タイトルのあるものは英語・邦題の順に並んでいます。

記事が複数あるタイトルは①に飛びますが、記事の一番下にその他の記事へのリンクが貼ってあります。

幾つかの作品をまとめて書いている記事もあり、その作品についての記述が少ないものもあります。ご容赦ください。

 

中国ドラマ

 

香港・台湾・中国映画

 

<音楽・イベント・バラエティ・雑記>

大人風味の神仙劇「與鳳行」

赵丽颖自身がプロデュースも務める大作古装ファンタジー。原作は「蒼蘭訣」や「招揺」等の人気作家、九鹭非香。

主役二人が大人で演技も上等なので、ストレスなく観ていられる。戦闘シーンの華やかなCGに見惚れているうちに完走しちゃった、そんな感じ。

以下ストーリーに関するネタバレがあります。ご注意ください。

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「與鳳行」豆瓣より 衣装やメイクは敦煌壁画のような色合いがベース 流行り?

抑えたロマンス表現が美しい

仙界の天君の孫との望まぬ結婚を押し付けられた霊界の女将軍・沈璃(赵丽颖 飾)は地上に逃亡、文士・行雲(林更新 飾)に助けられる。二人は惹かれ合うようになるが、やがて沈璃は霊界に帰らなければならなくなる。実は行雲は天外天に住む上古神で、地上を後にしたのちも協力し合うようになるが、それぞれの責務と立場を放り出すことはできない。一方、魑魅を用いて霊界と繋がる墟天淵を開けようとする勢力が現れ、霊界・仙界・地上が戦乱に巻き込まれていき…というのが、大雑把な話の流れ。

 

沈璃の本体は鳳凰で軍では王爺と呼ばれ、大槍を振り回して滅法強い。些か無鉄砲で敵に突っ込んでいっては大怪我を負い、上古神・行止(林更新 二役)が介抱することに。赵丽颖は小柄で愛らしい顔の女優さんだけど、「青雲志」「楚喬伝」「有翡」もそんな感じだったしこういう役が好きなんだろう。アクションシーンは今回、ほぼ彼女の担当。

 

林更新は仙界の神様たちより更に年上の上古神なので、派手なアクションシーンはない。でもちょっとした仕草でちゃんと術を放っているように見えるのは流石。

 

二人の恋愛には派手な処はなく、手を握る程度で表現も穏やか。この辺りが好き嫌いが分かれそうだけれど、彼らの感情は十分伝わるように作られている。

頼りにならない婚約者や、彼女のことを好きな部下は登場するけれど、上古神を横からかっさらおうとするような女性はいないし、嫉妬から陥れようとする人もおらず、そういうのが苦手な人間にとってはありがたい仕様。彼らの間にある障害は「立場」「責務」だけなので(上古神は余りに力が強いため個人的な情を持つことが禁忌とされている)、関係性はシンプルだ。

 

お話は正直どこかで見たような気が

地上に落ちてきた沈璃が鳥の姿のままで行雲に介抱される下りは「三生三世十里桃花」によく似ているし、穴から魑魅魍魎が湧き出して…というのは「宸汐缘」辺りでも同じだったし、恋愛禁止というのは「沈香如屑」で見た気が…、と神仙ものをあまり観ない私にも似た話を思い出せてしまう。そういう意味で意外性はないのだけれど、比較的テンポよく話が進むので、ダレる部分は少ない。

 

天界は多層構造

今回の世界観は「人間界←霊界(沈璃のいるところ)←仙界(天君その他のいるところ)←天外天(行止のいるところ)」という構造。

なので、今回の天君はいつもの絶対的存在ではなく、上古神に頭が上がらない中間管理職(笑)。天外天に住む上古神は最上位の神様っていう設定だけれど、その神様を罰する「天道」も存在する。

 

仙界はいつもの天界風の真っ白+金のセット。だだっ広い空間にちょっとした机が置いてあるだけ、っていうのはセット費が浮くだろうけどつまらないなあ、といつも思う。なんかもう少し変わった天界ってできないものだろうか?

霊界は地上に近い、という設定なのか人間界そっくりの賑やかな街。霊界は原作では魔界なのだそうだが、中国ドラマの魔界は暗い洞窟と相場が決まっているので、こちらの方が良いと思う。そもそも魔界だと、上古神である行止と沈璃がデートしたりできなさそうだし。

 

美しいなと思ったのは天外天の背景で、星空に光で山水が描いてある。山水画を反転したような感じで、冷たく寂しい光景だ。…ここに一人でいるのは嫌だろうな。

金娘子の住む屋敷の色とりどりの雪洞で作られた小道も綺麗だった。

「與鳳行」豆瓣より 金娘子の住処のイメージ画 屏風も美しい

CGは大変豪華

基本沈璃無双なので、アクションシーンは一人で、ということが多いのだけど(悪い方は魑魅で時々人型にもなるが基本黒い煙だ)、その分視覚効果がいろいろ豪華。戦闘中も火花が散り光が輝き、画面が賑やか。その他のシーンでも大量の花火や色とりどりの行灯、白い雪山の湖水にもオーロラ状の光を入れる等、画面を飾る工夫はいろいろされている。

行止が使う止水術も迫力があった。制作側も自信があったのだろう、微博にもCG背景や戦闘シーンのイメージ画等がかなりの数上がっていた。

 

戦闘シーンはそういう華やかな画面を見ているうちにどんどん進んでいく。ただ、もう少し悪人側に工夫があったらもっとよかったのに、とも思う。悪人側だけ衣装も代わり映えしないし(主役の二人はしょっちゅう衣装が変わる)、メイクもちょっと変。

…派手なCGに気を取られている間に、いつの間にか悪い人全部倒されていた…。いや、見逃しただけなんだけど。このドラマのヴィランの役割は大きくなく、むしろ三界をどう救うか、って話だから、印象が薄くなるのも仕方ない?

 

細かいところには突っ込みどころも多いけど、最後まで飽きさせない作品だと思う。

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原題:与凤行 與鳳行 Legend ShenLi

原作:九鹭非香「本王在此」

编劇:九鹭非香 導演:邓科Deng Ke (「赘婿」) 2024年39集

出演:赵丽颖 Zanilia Zhao Liying 林更新Kenny Lin 辛云来Yunlai Xin 何与He Yu

 

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記憶の中の香港映画8 「東方不敗」という大スターを生んだ「笑傲江湖II 東方不敗」 (邦題:スウォーズマン 女神伝説の章)

徐克製作の映画版「笑傲江湖」は3本あるけれど、個人的には二作目が一番面白いと思う。

東方不敗」を初めてヒロインに昇格させた、記念すべき作品だ。なぜ一作目がサブスクにあって二作目がないのか、本当に不思議。

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東方不敗」豆瓣よりポスター 登場人物名は原作準拠だけどお話はだいぶ違う

ストーリーは一作目から継続・メインキャストは総入れ替え

この映画は「笑傲江湖」(邦題:スウォーズマン 剣士列伝)の終わり、の令狐沖の属していた崋山派は解散、弟弟子たちとも本来のヒロイン・任盈盈とも離れ離れ、というところから始まる。原作からは遠いけれど、一作目からストーリーを引き継いだ正当な続編ではある。

 

キャストは一新され、総じて一作目より華やかになった。

令狐沖にはその前年に黃飛鴻を演じ、華麗に復活した李連杰(Jet Li)。1作目の許冠傑(Samuel Hui)の本業は歌手だが、こちらは専門家。アクションの質は格段に向上した。

 

任盈盈は關之琳(Rosamund Kwan)。黃飛鴻シリーズで十三妹を演じていた瞳の大きな女優さんだ。日月神教の衣装は中国の少数民族・苗族の衣装がベースで、黒地にビタミンカラーの配色が可愛い。…毒蛇使いだけど。

令狐沖の妹弟子・岳靈珊には李嘉欣(Michelle Reis)(原作とは違いずっと令狐沖と一緒に旅している)。元ミス香港で華やかな美貌の持ち主だ。

 

今回は程小東(Ching Siu-Tung)が単独で監督を務め、武術指導も行っている。程小東は「倩女幽魂」(邦題:チャイニーズゴーストストーリー)の監督で、所謂武侠ものの空中技ではなく、女性が幻想的にふわりと空を飛ぶワイヤーワークを発案した人だ。

今作では東方不敗も令狐沖もがんがん空を舞う。

 

女優が扮することで神秘性を増した「東方不敗

この映画で「東方不敗」を演じるのは台湾出身の林青霞(Brigitte Lin)だ。女優をこの役に振り当てたのは調べた限り、この映画が最初。

林青霞はきりりとした目鼻立ちは中性的でもあり、徐克は自身の監督作品「刀馬旦」(邦題:北京オペラブルース)でも軍服を着た男装の麗人役を演じさせている。

白拍子風の衣装を纏い空を舞いながら登場する東方不敗は、何とも妖しく美しく、インパクトは絶大だ。

 

原作の東方不敗は勿論こんなに美しくはない。

前作から奪い合いを続けていた「葵花宝典」に記されている秘技は実は「去勢」しなければ会得できないという代物で、東方不敗は秘儀を習得中という設定だ。香港映画で去勢された男性といえば宦官(第一作の悪役も宦官だ)で大抵醜い老人、という設定になっている。

この「去勢」を「女性化」にまで推し進めてキャラクターを造型した結果が、キャストを女性にする、だった。

 

東方不敗は日本の倭寇と組み、前教主を陥れ日月神教を手に入れ、更に江湖の制覇をもくろんでいる。東方不敗は令狐沖の弟弟子たちを皆殺しにしてしまうのだが、正体を知らない令狐沖は、沐浴する東方不敗に一目惚れしてしまう。東方不敗の方も徐々に令狐沖に惹かれてゆく。

 

冒頭の登場時東方不敗は修行の途中なので、令狐沖の前では女性、日月神教教徒の前では男性だ(なので女性の愛人もいる)。この改変は東方不敗というキャラクターに魅力的で複雑な陰影を与えることになった。一歩間違えばそれこそ唯のトンデモ映画になる設定だが、見事に踏み留まって上質な娯楽作品に仕上がっている。

 

林青霞はこの難しい役を大変上手く演じている。対する相手によって、また修行が進むにつれだんだんと表情や仕草が変わるのだが、どの場面も大層美しい。

刺繍糸と針が武器になるっていうのも綺麗で好きだ。

 

日本人についての描写はいろいろ誤解が…

この映画にも「トンデモ」な要素はある。…特に日本に関するものがいろいろおかしい。

倭寇と組んでいるのだけれどその実態は「忍者」。棒読みの日本語で「回転切りだ」とか言いながら襲ってくる。そうかと思うと日本人の村人と思しき人々が「あんたがたどこさ」を唄いながら踊り狂ってる。多分、盆踊りみたいなことをしたかったんだと思う。

…日本人にちゃんと聞けばよかったのに。

 

この作品以降「東方不敗」はみんな女性に…

笑傲江湖」はそれ以降も何度も映画化・ドラマ化されたけれど、この映画以降東方不敗役は皆女性になってしまった(1996年の香港版は男性)。そうでなくともヒロインが多い「笑傲江湖」なので、女優さんを沢山出したいからというよりは、やはり林青霞の東方不敗が魅力的だったから、というのが理由じゃないかと思う。

 

2018年製作のドラマ「新笑傲江湖」では東方不敗は男性に戻った。但し今度は美青年。これはこれで大変魅力的だった。丁禹兮演じる東方不敗は最後の最後辺りまでみんなのイメージする「東方不敗」にならないのだけれど、変貌した時の姿は「おー♥」という感じだ。

おまけ「東方不敗─風雲再起」(邦題:「スウォーズマン 女神復活の章」)

映画版「笑傲江湖」の三作目がこれ。正直、カテゴリとしては「トンデモ映画」。

もはや原作は影も形もなく、二作目で戦いに敗れ亡くなったはずの東方不敗が復活し「東方不敗」を名乗る偽物の成敗に乗り出すも、偽物はかつての愛人(女性ね)だった…、という物語。「東方不敗」というキャラクターの力だけで押し切ろう、という思惑が丸見え。

まあ、香港映画らしいともいえる弾け方だ。

 

主演は前作から引き続き林青霞、愛人役には王祖賢(Joey Wong)という豪華版。現在でも武侠ドラマで活躍する于榮光(Yu Rong Guang)が東方不敗マニアの青年役で登場する。王祖賢は日本では清純なイメージが強調されたけど、香港映画ではちょっと色っぽい女の子、という役どころが多かった。足、綺麗だし。二人のキスシーンもあったような気がする。

男の子にはこちらの映画の方がインパクトが強かったのか、ガンダムのアニメに登場する東方不敗が乗る機体の名前も「風雲再起」だった。

 

正直この映画のことはすっかり忘れていたのだけれど、2022-23年の江蘇跨年演唱會で劉宇寧が歌っていたのがこの映画の主題歌「笑紅塵」(広東語版のタイトルは「做个真的我」)だった。

ちなみにこの曲は映画の中ほどで東方不敗が、軍について回っている娼婦たちと一緒に焚火を囲みながら歌う。

作曲は李宗盛(Jonathan Lee シンガーソングライター 代表作「山丘」「凡人歌」)、広東語版の作詞は潘偉源(「一生何求」「祝福」)北京語版の作詞は厲曼婷(「太想愛你」「花心」)、歌手はどちらのバージョンも当時台湾のトップ女性歌手の一人・陳淑樺(Sarah Chen)。…力入ってるなあ。実際とても良い曲だ。

 

トンデモ映画、なのにキャストも主題歌も一流。

やはり「東方不敗」という不世出の大スターの魅力なんだろうと思う。

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笑傲江湖II東方不敗 Swordsman 2 スウォーズマン 女神伝説の章 1992

導演:程小東 編劇:徐克 鄧碧燕 陳天璇

武術指導:程小東 元彬 馬玉成 張耀星

監製:徐克

出演:林青霞 李連杰 關之琳 李嘉欣              

 

東方不敗─風雲再起 The East Is Red スウォーズマン 女神復活の章 1993

導演:李惠民 程小東

編劇:司徒慧焯 張炭 徐克

武術指導:程小東 林迪安 馬玉成

監製:徐克

出演:林青霞 王祖賢 王靜瑩 于榮光

 

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爽やかな小品「花間令」

設定に一捻りある古装探案恋愛ドラマ。

設定の意外性は後半まで割と効果的で、甘い展開を期待する視聴者の要望に上手く答えていると思う。探案ものとしては割と淡白だけれど、最終盤は盛り上がる。何より刘学义をはじめ、役者さんたちがよい仕事をしており、ドラマ全体が爽やか。

ここから先はストーリーについてのネタバレがあります。ご注意ください。

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「花間令」微博より 基本はこんな感じだけどちゃんと探案もするのでバランスがいい

複雑な初期設定

探案ものなのでなるべくネタバレしないようにしたいのだけど、初期設定を説明しないと、どうにもドラマの内容を上手く説明できない。ちなみにこの初期設定自体は全体を貫く事件とはあまり関係がない。

女主・鞠婧祎(郑合惠子/2話まで)は両親が何者かに陥れられ殺害、本人も顔に大きな傷を負い、以降身分を隠して禾陽という街で検視人の弟子になっていた。男主・潘樾は嫡庶子で鞠婧祎の幼馴染で婚約者。10年ぶりに再会した二人は潘樾の強い願いもあって結婚することになるが、鞠婧祎は式当日、潘樾に思いを寄せる上官芷(楊採薇 飾)に顔を入れ替えられ崖から突き落とされてしまう。

しかも顔を入れ替えた上官芷は結婚式の夜殺害されてしまい、女主(楊採薇 飾)は殺害現場にいた潘樾を目撃することに。

1月後目覚めた女主は鞠婧祎(中身は上官芷)殺害の犯人を突き止めるべく、都の郡主の婚約者として戻ってきた潘樾と犯罪捜査にあたることになる。

 

ややこしいけれど、

「男主は女主が、女主は男主が、鞠婧祎(中身は上官芷)を殺したと疑っている」

という状態だ。

更に男主は

「自分が鞠婧祎を見つけてしまったことで(元々命を狙われていた)彼女が殺されてしまった」という自責の念を抱いているし、

女主の方は

「男主は妻が殺されたばかりなのに郡主に乗り換えた浮気者

だと誤解している。この辺りの心理状態が二人の関係をより複雑にしていて面白い。

 

このギミックは「見た目は年の差があるが中身はほぼ同じ年齢」という意味でもあり、カップリングの年齢差から来る不自然さの解消にも一役買っている。

 

彼らに加え、女主の正体を知る妹分・白小笙(吴佳怡 飾)、ドラマの舞台となる禾陽の街の有力者の息子、銀雨樓少主・卓瀾江(李歌洋 飾)が主な登場人物。禾陽で起こる事件を解決しつつ、裏で糸を引く人物(女主の両親の殺害事件や鞠婧祎殺害事件の首謀者らしい)に迫る、というのが大筋だ。

 

役者さんは皆好演

潘樾を演じる刘学义は成毅の大学の同期で事務所も同じ、仲が良いらしい。成毅も「蓮花楼」で大ブレイクするまでの道のりは長かったけれど、刘学义はもっと遅咲き。私が顔を覚えたのは「青雲志」(2016)の大師兄や「琉璃」(2020)の師兄辺りだけれど、本格的に人気が出たと言えるのは「少年歌行」(2023)のお坊さん、无心を演じた時からだと思う。もともと少年、という設定のこの役を、妖艶で美しく魅力的に演じきった。

今回はもう少し普通の役なのだけど、好きな相手に有頂天になってみたり、悲嘆にくれたり、不信感から塩対応だったり、という感情の起伏を丁寧に演じて、様々な表情を見せてくれて魅力的。

 

最初の2話、顔が入れ替わる前の鞠婧祎を演じた郑合惠子は大変ナチュラルな演技で、自分の技量に自信も矜持もあり虐げられても負けない芯の強さをもつ「鞠婧祎」という人物像を決定的にした。その為楊採薇は少々損をしたかもしれない。女主が入れ替わってしばらくは「顔変えなくても(=役者さん変えなくても)良かったんじゃ」と思えたからだ。でもまあ、しばらくすると慣れてくる(笑)。

楊採薇はむしろ最初の2話の「恋に狂った上官芷」の芝居が凄絶だった。髪の毛振り乱しても美しいので、更に狂気を感じさせて本気で怖ろしい。こういう路線も悪くないんじゃ…。

 

サブの二人も可愛らしくて嫌味がない。

 

事件と恋愛のバランスは割とよさげ

禾陽の街は四大宗家というのがあって、彼らが街を牛耳っている。事件はそれぞれの一家を巡るものだが「家庭内暴力」だったり「虐め」だったり、現代的なテーマを上手く盛り込んでいる。事件自体は割とあっさり解決するけれど、その裏に別の事情が隠されていたりしてなかなか複雑。事件調査を進めつつ、一方で主人公たちの距離が縮まる出来事も挟まれ恋愛の進行と事件のバランスは良い感じ。事件はよく考えると陰惨なものもあるのだけれど、描写もあっさり風味なので気にならないし、ドラマ全体に粘着質の人物が登場しないので、嫌がらせや陥れのシーンが少なく、視聴後感も爽やか。

 

男性陣が女主の顔に惚れているわけではなく、あくまでもその人間性に好意を持っている、とよく分かるよう描かれているのも、このドラマの良い点だと思う。

 

最終的には国の存亡にかかわるような事件だったりする割に、この国が置かれている状況とかは一切描かれないけれど、よくできた小品だと思う。

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題名:花間令 花间令 In Blossom 2024年 32集

編劇:于海林、钟静、欧阳伊白(総合編劇)、殷飞(総合編劇)

導演:钟青/王辉(分组導演)

出演:鞠婧祎 jū jìng yī 刘学义 Xueyi Liu 吴佳怡 Wu Jia Yi 李歌洋 Li Ge Yang

 

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2024年3月視聴作品短評「三体」「愛情而已」

「玉骨遥」は振り落とされそうだし、「与鳳行」には追い付いてない。「花間令」は別記事にする予定。武侠もの、何か来ないかな…。

「愛情而已」公式微博より ドラマの印象もこんな感じで明るい

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Netflix版「三体」

原作は刘慈欣のヒューゴー賞受賞作。人と「三体」世界との闘いを描くスケールの大きなSFだ。中国語版との違いは

 ・舞台が英国・オックスフォードに移されている

 ・主人公・汪淼のキャラクターが5人に分けられている

 ・中国版は第一部の(割と忠実な)ドラマ化だが

  Netflix版は第二部・第三部の内容が混ざっている。

 ・中国版26集なのに対しNetflix版は10集

といったところ。

 

予算が潤沢なNetflix版、「三体」ゲーム内の描写等、CG関係はダイナミックで素晴らしいと思う。「三体」ゲームの描写は「少女」「案内人」というキャラクターを足すことでゲームらしさが増した。(でも「脱水」の描写があんまりなくて残念。あれは衝撃的だった)

 

ストーリーを切り詰めたお陰で、話の骨子は分かりやすくなった。主人公を5人に分けたことも悪くはないと思う。SFをあまり観ない人にとってはこちらの方がとっつきやすいかもしれない。

一方でSFにつきものの細かい科学的な説明、例えば「三体問題」(三つの恒星の間にある惑星がランダムな動きをしてしまう現象。ゲーム内で様々な偉人が法則を見つけようとする)等は削ぎ落されてしまい、SFファンには物足りないかも。

 

眼の中に映るカウントダウン(きっと物凄くうざい)や宇宙がウィンクする現象、等の描写も尺が短い分淡白で、物語のきっかけである葉文潔の「人間に対する深く静かな絶望」といったニュアンスもだいぶ減ってしまい、単なる「宇宙人が攻めてきた」物語に陥りがちなのも少々辛い。

中国版は中国版で冗長且つ分かりづらい部分が多いので、どちらがいいかは好みの問題。

でも中国版の、三体人の圧倒的な力を見せつけられた後、汪淼と刑事さんが朝ご飯を食べる等の些細な描写が好きだった。美味しい朝ご飯さえあれば、人間何とか立ち直れる、というか。

 

Netflix版は続編を作る気満々に見えたけど、中国版は小説の二部、三部も作るんだろうか?私は小説、二部の途中で止まったままなので、さっさと読まないと。

 

それと疑問な点が一つ。なぜこのシリーズ、クレジットに監督の名前がないんだろう?

一本目の監督を曾國祥(Derek Tsang「少年的君」の監督)が務めるって記事を読んだんだけど、何故か英文版WikiNetflix公式ページにも監督名の記載がない。IMDbでは2本撮影したことになっている(中文版Wikiには2名だけ監督名の記載があった)。誰が監督したのかはクオリティに関わるので知りたいんだけどな…。

 

「愛情而已」(邦題:愛なんてただそれだけのこと)(~24集)

周雨彤と吴磊主演の現代劇。いろいろあって赤字続きのテニスクラブを任されたヒロインと、バドミントンからテニスに転向した選手の物語。

年下彼氏との恋愛もの、というより「お仕事ドラマ」としての側面が面白い。

 

主人公を都合よく使うだけで彼女の将来や成長について何も考えてくれない上司とか、会社の上の方が勝手に張り合った挙句、彼女のせいにしてあっさり切り捨てる、とか、重役の部下でなく関連会社の社員になった途端、経理に書類が通らなくなるとか…お仕事上の「あるある」というか「どこの国でも同じ」というか。脚本の张英姬はやはり女性のお仕事ドラマ「三十而已」も書いている人だ。

 

恋愛ものとしても女性の細やかな心の機微が描かれるし、ドラマとして上々の出来だと思う。吴磊は子役から上手に脱したと思うけれど、この業界が長いだけにちょっと老成しすぎた感があり、それが「年下のスパダリ」という役柄に上手くはまったと思う。

ただこのカップルの障害って男性が10歳下だってことだけなので、あと10集余り、どう展開させる気なんだろう?

 

それと劉宇寧がOST「反客為主」(人物主題曲。大逆転の意)を歌っているんだけど、劇中で恐らく一回しか流れていない。OSTの仕事って難しいな。

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「蓮花楼」の日本語版だけが楽しみ、と思っていたら「又見逍遥」(「仙剣奇侠伝」のリメイク)が来た。キャストが少々地味だけどなかなか面白そう。

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Netflix版「三体」The 3body problem 2024年

制作:デヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス、アレクサンダー・ウー

監督(IMDbによると):Minkie Spiro/Jeremy Podeswa/Derek Tsang/Andrew Stanton

出演:ジェス・ホン リーアム・カニンガム エイザ・ゴンザレス

 

「愛情而已」(邦題:愛なんてただそれだけのこと)爱情而已 Nothing But You

2023年 38集

編劇:张英姬

導演:陈畅

出演:周雨彤 Zhou Yutong 吴磊 Wu Lei

 

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中国ポップスの名曲「再回首」

年末から春節の特別番組で一番歌われていた気がする「再回首」。胡歌や秦昊が歌っているのを観たし、つい先日は電視劇品質盛典で刘宇宁が素晴らしい歌唱をみせてくれた。

 

この曲がこんなに歌われるのは1990年代初頭をテーマにした二つのドラマ「繁花」と「慢長的季節(邦題:ロング・シーズン 長く遠い殺人)」がヒットしたからだ。どちらもとても良くできたドラマで「再回首」は印象的に用いられている。…ただ、どちらのドラマにも他に多くの往年のヒット曲が用いられていたにも関わらず代表して歌われるのがこの曲、ということは、中国人の中で「90年代=再回首」と思われているからなのかもしれない。

 

ただ、私の記憶の中ではこの曲には広東語の歌詞がついていた、はず。そこでこの曲の歴史をちょっと調べてみた。以下は主に「百度百科」「中国版WIKI」から調べた結果。

この曲が使われていた映画「群龍戲鳳」のネタバレが若干含まれます。ご注意ください。

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「群龍戲鳳」豆瓣より イメージが合わないけど「再回首」はもともとこの映画の主題歌だ 

原曲は広東語曲「憑着愛」

この曲、もともとは広東語曲だ。タイトルは「憑着愛」(よかった、記憶はあってた)。「群龍戲鳳(邦題:帰ってきたデブゴン/昇龍拳 1989年)」の主題歌だ。作曲は盧冠廷(Lowell Lo)、作詞は潘源良(Calvin Poon)。

盧冠廷は80年代後半から90年代にかけて沢山の香港映画の音楽を手掛けていて、「秋天的童話(邦題:誰かがあなたを愛してる)」みたいな恋愛ものから「監獄風雲」等のノワール系、「賭神」等のコメディまで幅広く担当していた。

 

映画はタイトルから分かる通り洪金寶(Sammo Hung Kam-po)主演のカンフー映画なのだけれど、どちらかというと弟分の青年と少女の悲恋に重きが置かれている。曲は彼らのテーマ曲として使われており、二人の出会いの時には明るく可愛いアレンジで、悲劇的な結末の後にはヴォーカルヴァージョンが流れる。中国語版ウィキによると、盧冠廷が持って行った曲に副監督がなかなかOKを出さず、何回か書き直して今の形になったらしい。

 

広東語バージョンの作詞は潘源良。作詞はもとより、映画の脚本・監督も務める人物で林子祥、梅艶芳、張學友等々香港の大物歌手の作詞を沢山手掛けている。

オリジナル歌唱は蘇芮(Julie Sue)。「酒幹倘賣無」等の代表曲を持つ台湾の女性歌手だ。

 

広東語の歌詞は北京語と正反対

歌詞の内容は広東語と北京語でだいぶ違っている。そもそもタイトルも「憑着愛」(Depend on love)と「再回首」(振り返れば)だし。

広東語の歌詞は「紆余曲折の人生の末、愛する人に出会った。年老いるまで共に生きていこう」という内容だ。「愛する人の温もりだけを抱いてこれから一人長い路を行く」という「再回首」とは一見正反対に見える。

実はこの詞は「そう願ったのに叶わなかった夢」を歌っている。映画の中の恋人たちは結婚式の夜、悲劇的な結末を迎えるからだ。抒情的なメロディとこの歌詞はとても痛ましく響く。

 

この曲は香港でも大ヒットしたようで、その年の香港電影金像獎(香港で最も権威ある映画賞)の最優秀映画歌曲に選ばれ、陳百強、梅艷芳、劉德華等多くの歌手の演唱会等で歌われた。

 

「再回首」は映画公開時の北京語バージョン

当時香港映画を台湾で公開する時は北京語に総吹き替えするのが殆どで、主題曲も北京語バージョンで作り直されるのが普通だった。「群龍戲鳳」の台湾公開用に北京語歌詞がつけられたものが「再回首」だ。

こちらの作詞は陳樂融。葉蒨文「瀟灑走一回」や王傑「安妮」等の作詞の他に音楽制作、舞台製作等なども手掛けている。

歌唱は広東語バージョンと同じ蘇芮が務めている。

 

ただ、中国本土でこのバージョンが流行ったのか?というと、そうではなさそうだ。というのも映画そのものがどうやら中国本土では公開されなかったようなのだ。(公開の記録があるのは香港と台湾のみ)

 

「再回首」の歌詞には2パターンある

台湾での映画公開は1989年2月、その4か月後の6月に発売されたのが台湾の男性歌手・姜育恒(Chiang Yu-Heng)のバージョン。中国で広く流行ったのはどうやらこちらのバージョンのようだ。

 

姜育恒版の「再回首」は蘇芮版と最後の歌詞が少し違っている。蘇芮版では「我心依旧(私の心は昔のまま)」で終わるのに対し姜育恒版では「只有那无尽的长路 伴着我(ただ尽きない長い路だけが私の道連れだ」で終わる。これは編曲の陳志遠が「男性が歌うのなら」ということで変更したと百度百科にある。

この最後の一行の入れ替えで曲の印象は大きく変わる。蘇芮(女性)版では時を経ても変わらぬ想いが強調されるのに対し、姜育恒(男性)版は「目の前に広がる長い孤独な旅路」が最後のイメージだ。

今歌われているバージョンの多くが姜育恒版の歌詞を採用している。

 

姜育恒版から1か月後、やはり台湾の女性歌手・李翊君(E-Jun Lee)が「再回首」を発売。競作のような形になった。こちらの歌詞は蘇芮版だ。

原曲を歌った蘇芮は1989年12月に中国国内向けのベストアルバムの中に「再回首」を収録している。

この3人は全てUFOレコードの所属で且つ蘇芮との契約は切れる寸前という状況だったそうだから「広東語(或いは蘇芮の北京語)バージョンが流行る」→「男女の歌手の競作ってことで話題を作って中国本土に売り込もう」ってことだったのかもしれない。

 

いつ中国で流行した?

…で、どこでどうやって流行したのか、はよく分からないけれど、1991年2月の「中央電視台春節」に姜育恒が呼ばれて「再回首」を披露していることから、その辺りで流行ったんだろうな、というのは推測がつくし「春節」に出演したことで、曲の知名度は更に上がったと思われる。カラオケで歌いやすそうな曲だし。

 

その後もこの曲は繰り返し様々な歌手にカバーされ続けている。「慢長的季節」に使われていたのは姜育恒版だけど「繁花」は香港の男性歌手・曾比特(Mike Tsang)の新規録音だ。

どのくらいカバーされているのかと思って試しにSpotifyで検索を掛けたら「再回首」「憑着愛」合わせて80曲を超えた。…凄いな。

 

大抵が原曲に近いスローバラード調なのだけれど、先日刘宇宁(Liu Yuning)のバージョンは時々怒声の混ざるロックバラードっぽい作りで素晴らしかった。ラストにロッド・スチュワートの「Sailing」が少しだけ流れる編曲も素敵。

 

個人的には作曲者の盧冠廷と、李宗盛(Jonathan Lee)のデュエットのバージョンが好きだ。人生にいろいろあったであろういい歳したおっさん二人が、少しの諦めを含んで「しょうがねえな」って感じで歌っている。味わい深い。

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「憑着愛」作曲:盧冠廷 作詞:潘源良

「再回首」作曲:盧冠廷 作詞:陳樂融

「群龍戲鳳 Pedicab Driver(邦題:帰ってきたデブゴン/昇龍拳)」

導演:洪金寶 1989年

出演:洪金寶 利智 莫少聰 袁潔瑩

 

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2匹目のドジョウは?「流浪地球2(邦題:流転の地球 太陽脱出計画)」

2019年に公開された「流浪地球(邦題:流転の地球)」の続編。

1本目はSF映画の秀作だった。

2本目は前作を越えようとして、あれこれやりすぎちゃった感じだ。

ここから先は1作目、2作目のストーリー及びエンドに関するネタバレがあり、且つとても辛口です。ご注意ください。

「流浪地球」微博より 確かにポスターに若い人はいなかった…

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原作は「三体」の作者、刘慈欣の同名小説だ。ただ、2本の映画と原作のストーリーはほぼ別物だと思っていい。同じなのは「太陽が死にそうなので太陽系を離れ、人類を地球ごと別の恒星の星系へ運ぶことにした」という前提だけだ。

 

小説は短編だが、既に地球が旅立ってから、どのように人々の暮らしや地表が変化していくのかを、個人の眼を通して淡々と綴った物語。

映画は地球が太陽系を離れる過程の一部分をクローズアップして、ドラマティックな物語に仕立てた。1本目は地球が外宇宙に旅立つ直前、その引力を利用しようとした木星に衝突しそうになる話だ。

続編は1本目より更に時系列を遡り、地球が移動を始めるためのあれこれが描かれる。

 

宇宙の描き方は相変わらず美しい

原作では地球が太陽を離れるにつれ変化してゆく「空」の描写が美しく、且つ恐ろしい。1本目でも空一面に広がる木星が印象的だった。

 

今作も次々と隕石の火の玉が堕ちてくる空の不気味な美しさや、エンジンが点火された地球や天空に伸びるエレベーター等の迫力ある描写は面白かったと思う。

ただまだ人々が普通に生活している時期の物語なので、1作目にあったような地下の街の雑然として息苦しい様や、凍り付いた地表のディストピア感は抜け落ちてしまっている。

 

役者さんの実年齢と役柄の年齢が乖離しすぎ

物語の山場は2つある。一つ目は宇宙ステーション建設のための「宇宙エレベーター」が何者かのテロにより破壊されそうになる事件(物語上の西暦は2044年)。2つ目の事件はその14年後、月を地球から遠ざける計画が妨害され、月が地球に落ちそうになる事件(同2058年)。

まず弱いのはこれらの事件を乗り越えて、1作目の物語があると言う事実だろう。つまり、事件は無事解決されるはず。結末の分かっているクライシスのスリルは半減する。

何で前日譚にしたのか、というと宇宙飛行士役の呉京を再登場させなければならなかったから?(吴京はこの映画のプロデューサーに名を連ねている)

 

物語の主人公は1作目で宇宙ステーションにいた宇宙飛行士、劉培強(吴京 飾)。1つ目の事件(2075年)は前作の31年後なので、彼はまだ20歳そこそこ、ってことだろう。任務が同じになった彼女にプロポーズしようか悩んでいる青年だ。…演じる呉京は40代半ばを過ぎている。正直ちょっと無理がある。

 

2人目の主人公はコンピュータの専門家、圖恒宇(劉德華 飾)。幼い娘を事故で亡くしている。こちらの年齢は定かではないが、上司に自分の先生がいるってことは30代くらいの設定だろう。撮影時60歳の人に演じさせるのはやっぱりちょっと無理が…。

 

3人目は地球連合の中国代表、周喆直(李雪健 飾)。この人はずっとお爺さん。

…この映画には、若い役者さんがほぼ登場しない。

 

2045年呉京劉徳華は不自然に若見えだ。肌の質感などをデジタル技術で修正しているのだろう。また、撮影時点では亡くなっていたはずの呉猛達が1カットだが登場する。こちらはデジタル処理だと映画のHPに記されている。

 

俳優さんの容姿を修正して若く見せたり、亡くなった俳優を登場させたりするのは、見ていてどうにも居心地が悪い。その人がその年齢で演じられる役、というのが役者さんにはあるはずだし、技術と演技力で「若さ」を演出するには限界がある。

ファンも無理して不自然な若作りしている役者さんを観たくはないだろう。

 

若い役者さんがいないので、基本的には呉京がアクションを一手に引き受けることになる。何だか「戦狼」シリーズでも見ている気分。…前作の呉京は今までの主演作と違い、一歩下がった立場でそれがよかったと思ったのに、今回は前面に出ることでかえって損をしているように見える。

 

デジタル技術という丹薬

この映画のテーマは地球の移動そのものではなく「AIは生命か」だ。何故このテーマを「流浪地球」という壮大なSFに入れてきたのか、よく分からない。

 

劉徳華演ずる圖恒宇は亡くなった娘をデジタルデータ化し、それを地球移動計画に使われているスーパーコンピュータにインストールしようと長年画策している。それが二つ目の事件の引き金になるのだけれど、スパコンが変貌した原因と、娘のAIの関連性は最後まではっきりしない。一方、製作が予定されているらしい三作目はどうやらこのスパコンとの全面対立になりそうな気配。(映画のラストにコンピュータの宣戦布告じみた言動がある)1作目で壊れたんじゃなかったの?

 

どうも世界的にヒットしたSFの続編として意気込みがあらぬ方向に空回りしている気がしてならない。この人も出演させてくれ、こんな話も盛り込んでくれ、こんな技術も使ってくれ…周りからいろいろ言われて舵取りが上手くいかなくなった、そんな印象だ。

 

デジタル技術で永遠の若さを保つのは一種の「不老」だし、AIで人を永らえさせるのは一種の「不死」。映画の中に点在するナショナリズムや精神論も気になるけれど、むしろ気になるのはこの「不老不死」。デジタル技術という丹薬を手に入れ「不老不死」に向かって暴走する…それはそれで怖いような。

 

原作をラストまで読むと青い空が奇蹟的で貴重なものだと思えてくる。感傷的で美しいエンドだ。三作目を作るなら初心に帰って美しいものが観たい。

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導演:郭帆(「流浪地球」)

原著:刘慈欣「流浪地球」

編劇:杨治学/郭帆/王红卫/龚格尔/叶濡畅

出演:吴京(Wu Jing)劉德華(Andy Lau)李雪健

 

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