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2匹目のドジョウは?「流浪地球2(邦題:流転の地球 太陽脱出計画)」

2019年に公開された「流浪地球(邦題:流転の地球)」の続編。

1本目はSF映画の秀作だった。

2本目は前作を越えようとして、あれこれやりすぎちゃった感じだ。

ここから先は1作目、2作目のストーリー及びエンドに関するネタバレがあり、且つとても辛口です。ご注意ください。

「流浪地球」微博より 確かにポスターに若い人はいなかった…

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原作は「三体」の作者、刘慈欣の同名小説だ。ただ、2本の映画と原作のストーリーはほぼ別物だと思っていい。同じなのは「太陽が死にそうなので太陽系を離れ、人類を地球ごと別の恒星の星系へ運ぶことにした」という前提だけだ。

 

小説は短編だが、既に地球が旅立ってから、どのように人々の暮らしや地表が変化していくのかを、個人の眼を通して淡々と綴った物語。

映画は地球が太陽系を離れる過程の一部分をクローズアップして、ドラマティックな物語に仕立てた。1本目は地球が外宇宙に旅立つ直前、その引力を利用しようとした木星に衝突しそうになる話だ。

続編は1本目より更に時系列を遡り、地球が移動を始めるためのあれこれが描かれる。

 

宇宙の描き方は相変わらず美しい

原作では地球が太陽を離れるにつれ変化してゆく「空」の描写が美しく、且つ恐ろしい。1本目でも空一面に広がる木星が印象的だった。

 

今作も次々と隕石の火の玉が堕ちてくる空の不気味な美しさや、エンジンが点火された地球や天空に伸びるエレベーター等の迫力ある描写は面白かったと思う。

ただまだ人々が普通に生活している時期の物語なので、1作目にあったような地下の街の雑然として息苦しい様や、凍り付いた地表のディストピア感は抜け落ちてしまっている。

 

役者さんの実年齢と役柄の年齢が乖離しすぎ

物語の山場は2つある。一つ目は宇宙ステーション建設のための「宇宙エレベーター」が何者かのテロにより破壊されそうになる事件(物語上の西暦は2044年)。2つ目の事件はその14年後、月を地球から遠ざける計画が妨害され、月が地球に落ちそうになる事件(同2058年)。

まず弱いのはこれらの事件を乗り越えて、1作目の物語があると言う事実だろう。つまり、事件は無事解決されるはず。結末の分かっているクライシスのスリルは半減する。

何で前日譚にしたのか、というと宇宙飛行士役の呉京を再登場させなければならなかったから?(吴京はこの映画のプロデューサーに名を連ねている)

 

物語の主人公は1作目で宇宙ステーションにいた宇宙飛行士、劉培強(吴京 飾)。1つ目の事件(2075年)は前作の31年後なので、彼はまだ20歳そこそこ、ってことだろう。任務が同じになった彼女にプロポーズしようか悩んでいる青年だ。…演じる呉京は40代半ばを過ぎている。正直ちょっと無理がある。

 

2人目の主人公はコンピュータの専門家、圖恒宇(劉德華 飾)。幼い娘を事故で亡くしている。こちらの年齢は定かではないが、上司に自分の先生がいるってことは30代くらいの設定だろう。撮影時60歳の人に演じさせるのはやっぱりちょっと無理が…。

 

3人目は地球連合の中国代表、周喆直(李雪健 飾)。この人はずっとお爺さん。

…この映画には、若い役者さんがほぼ登場しない。

 

2045年呉京劉徳華は不自然に若見えだ。肌の質感などをデジタル技術で修正しているのだろう。また、撮影時点では亡くなっていたはずの呉猛達が1カットだが登場する。こちらはデジタル処理だと映画のHPに記されている。

 

俳優さんの容姿を修正して若く見せたり、亡くなった俳優を登場させたりするのは、見ていてどうにも居心地が悪い。その人がその年齢で演じられる役、というのが役者さんにはあるはずだし、技術と演技力で「若さ」を演出するには限界がある。

ファンも無理して不自然な若作りしている役者さんを観たくはないだろう。

 

若い役者さんがいないので、基本的には呉京がアクションを一手に引き受けることになる。何だか「戦狼」シリーズでも見ている気分。…前作の呉京は今までの主演作と違い、一歩下がった立場でそれがよかったと思ったのに、今回は前面に出ることでかえって損をしているように見える。

 

デジタル技術という丹薬

この映画のテーマは地球の移動そのものではなく「AIは生命か」だ。何故このテーマを「流浪地球」という壮大なSFに入れてきたのか、よく分からない。

 

劉徳華演ずる圖恒宇は亡くなった娘をデジタルデータ化し、それを地球移動計画に使われているスーパーコンピュータにインストールしようと長年画策している。それが二つ目の事件の引き金になるのだけれど、スパコンが変貌した原因と、娘のAIの関連性は最後まではっきりしない。一方、製作が予定されているらしい三作目はどうやらこのスパコンとの全面対立になりそうな気配。(映画のラストにコンピュータの宣戦布告じみた言動がある)1作目で壊れたんじゃなかったの?

 

どうも世界的にヒットしたSFの続編として意気込みがあらぬ方向に空回りしている気がしてならない。この人も出演させてくれ、こんな話も盛り込んでくれ、こんな技術も使ってくれ…周りからいろいろ言われて舵取りが上手くいかなくなった、そんな印象だ。

 

デジタル技術で永遠の若さを保つのは一種の「不老」だし、AIで人を永らえさせるのは一種の「不死」。映画の中に点在するナショナリズムや精神論も気になるけれど、むしろ気になるのはこの「不老不死」。デジタル技術という丹薬を手に入れ「不老不死」に向かって暴走する…それはそれで怖いような。

 

原作をラストまで読むと青い空が奇蹟的で貴重なものだと思えてくる。感傷的で美しいエンドだ。三作目を作るなら初心に帰って美しいものが観たい。

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導演:郭帆(「流浪地球」)

原著:刘慈欣「流浪地球」

編劇:杨治学/郭帆/王红卫/龚格尔/叶濡畅

出演:吴京(Wu Jing)劉德華(Andy Lau)李雪健

 

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