lienhua’s Dragon Inn 龍門客棧

中国ドラマと香港映画について書いています 記事についてはINDEXをご参照ください

香港への挽歌「燈火闌珊」(「ネオンは消えず」)

香港のネオンの9割が消えたそうだ。

冒頭で流れるナレーションとすっかり暗くなった香港の街並みを見るだけで、心が痛んだ。

 

街が変わっていくことは仕方がない。

ただ、あのちょっとけばけばしい、過剰なほどキラキラした明かりが好きだった。老舗の高級店でも、その雰囲気に似つかわしくないデカいネオンを飾っていたりして、一つ一つ眺めながら、夜になっても一向に暗くならない香港の通りを歩くのは楽しかった。

ここから先はストーリーに触れています。ご注意ください。

「豆瓣」より 香港版正式ポスター 消えてしまったチューブネオンが美しい

------------------------------

映画は亡くなったネオン職人の妻が、夫が残した仕事を弟子と共にやり遂げようとする物語だ。法律が変わり、大きなネオン看板は規制の対象になった。夫の作品も、既に殆どが撤去されてしまっている。その中で二人は、夫のやり残した「仕事」を捜しだし復元しようとする。

張艾嘉、任達華という二人の名優が好演しているにも関わらず、語り口は少々拙い。あんなに夫を愛していたのに、弟子がいたことや、工房がかなりの借金を背負っていたことを知らないとか、娘との関係も分かったようで分からない等、説明不足の部分も感じられる。

 

それでもネオンに関することはよく分かるようにできている。材料がガラスチューブなこと(近年ではグラスファイバー製も多かったらしい)。ガラスと言えば大きな窯で加工して、と思いがちだけれど、香港のネオンチューブは、割と小さなバーナーで焼いて、チューブを曲げていく。一つ一つ、思う角度に曲げたら次を…という具合であの複雑な漢字を描くのだ。ネオンに字体があって(考えてみれば当たり前だけど)、専門の書家がいることも初めて知った。

 

作業がどのくらい難しいのか、一人前になることがどの程度大変なのかはよく分からないけれど、とても専門的な技術が必要な仕事なのだ。そう思ってポスターに使われているネオンを改めて見ると、細かな細工の一つ一つが貴重なのだと思い至る。

 

映画の中に登場するネオンは、どれもとても美しく撮影されている。だからそれだけでもこの映画を観る価値があると思う。欲を言えばもっとたくさんの、失われたネオンたちを見せてほしかった。それと公式HPにも書かれている通り、エンドロールまで観てほしい。

そこに、少しの慰めと希望が込められている。

--------------------------------

原題:燈火闌珊 A Light Never Goes Out 2022年

日本語タイトル:ネオンは消えず

監督:曾憲寧 Anastasia Tsang Hing Ning 編劇:曾憲寧・蔡素文

出演:張艾嘉 Sylvia Chang Ai-Chia 任達華 Simon Yam Tat-Wah

 

lienhua.hatenadiary.com

lienhua.hatenadiary.com