lienhua’s Dragon Inn 龍門客棧

中国ドラマと香港映画について書いています 記事についてはINDEXをご参照ください

王家衛の万華鏡「繁花」①(~6集まで)

王家衛が作っている…という話だけ伝わってきて、一体いつできるのかさっぱり分からなかった「繁花」。2時間の映画ですらものすごく時間が掛かるのに、本当に連続ドラマなんかできるんだろうか(失礼)…と思ったけれど、昨年末から配信になった。

 

王家衛の映画を観たのは「阿飛正傳(「欲望の翼」)が最初で、最後に梁朝偉が登場した時には流石にぽかんとしてしまった。私にとっての王家衛の映画って「大体は分かった。でも隅から隅まで分かったか、と言われると自信ない」そういう存在だ。

 

最初見始めた感想は「あれ?案外普通」。話が普通に時系列で進行しているし、各カットも構図がとても美しい、という以外は普通のドラマだ。

…と思ったけれど、そうでもなかった。

「繁花」微博より ネオン自体は割と普通なんだけど…

本番は上海の夜の街、黄河路に至真園(物語の中心となる酒店。ホテルではなく超高級レストランと銀座のクラブを合わせたようなところ。主に社長とか政治家とかが使う場所のようだ)が登場してから。黄河路はそうでなくともネオンがキラキラした通りなのだけど、角に建つ至真園は全面ネオン。そのネオンの光が通りのあらゆるところに反射する。通りの向かいの店、角のタバコ屋の店先の窓ガラス、通りを走る黒塗りの車の車体や車窓、水溜まり。色調はセピア系に抑えめなのだけれど、セピアが光ると黄金色に見えて、宝石箱をひっくり返したみたいだ。

「繫花」微博より 先ほどのネオンがあちこち反射してこんな感じに。

店内に入っても同様で、煌びやかな光が周囲のガラス、鏡、ありとあらゆるグラスや酒瓶に反射する。

もう一つの舞台、夜東京(小さなスナックみたいな店。こちらも食事ができる)にも色ガラス、擦りガラス…と様々な種類のガラスがあり、ガラス越しのカットが大変多い。手前にグラス類、奥に鏡、等というカットも割とよく出てくる。

「繫花」微博より ガラス類や小物越しのカット

成程、製作に時間が掛かったわけだ。「映り込み」というのは大変厄介で、ガラス越しの画を正面から撮ろうとすると、必ずカメラが写ってしまうし、角度を変えれば今度はライトが映ってしまったりする。あんなに反射するものだらけのセットで、カメラと照明を調整することを考えただけで気が遠くなる。

 

視覚総監は鮑德熹。「賭神」や「笑傲江湖」「夜半歌聲」等香港映画を沢山撮っているカメラマンだ。王家衛が「東邪西毒」を間に合わせられなくて急遽作った、と言われる「射鵰英雄傳之東成西就」でも撮影を担当している。

 

画面をよく見ると小道具もものすごく凝っている。夜東京のカウンターの上の細々したもの(定位置がずれたら大変)は勿論、アクセサリー屋、夜の港の閉店している売店の中の当時の雑誌…しかもこの売店、別にクローズアップがあるわけでもなく、ただの背景だ。

 

一分の隙もなく再構成された夜の街に颯爽と現れるのが胡歌演じる商人、阿宝。今回胡歌はものすごく美しい。いや、いつでも胡歌はハンサムなのだけれど、作りこまれた世界にぴったりはまり込む美しさだ。

もう一人、華やかで謎めいているのが、上海の外からやってきた至真園の女主人、李李(辛芷蕾 飾)。何やら彼女の方は阿宝に思うところがあるようなのだけれど、詳細は未だ不明。

 

と、ここまで書いてきてストーリーのことを何も書いていないのは、余りに作りこまれた画面についぼうっとなって、話がちっとも頭に入ってこないからだ。

 

90年代初頭、中国で会社の株発行が可能になって一大投機ブームが訪れる。その最初期に成功した阿宝とその仲間たちは上海で誰もが一目置く存在だが、一方では誰もが彼らを出し抜こうと虎視眈々。

黄河路の酒店で、夜な夜な彼らの駆け引きと闘争が繰り広げられていくのだけれど、中国現代史にも上海にも詳しくないので、少々難しい。(でも話が分かりづらいというわけではなく、こっちの理解が足りないだけ…だと思う)

 

それに画からの情報が飽和状態なので、少々疲れる。なので、一話観るとちょっと別のドラマ見ようかな…と思ってしまう。

余りに隙のない構図ばかり、というのは「連続ドラマ」というジャンルではちょっと考えものなのかもしれない。

ゆっくり見よう…。

---------------------

原題:繁花 Blossoms Shanhai 2023年

監督:王家衛 原作:金宇澄「繁花」 編劇:秦雯(「赘婿」等)

出演:胡歌 馬伊俐 唐嫣 辛芷蕾

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com