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「繁花」②「あの時代」に引き戻すOST(~24集まで)

「繁花」、周囲の女性2人との話がメインになり、少々視聴意欲が下がり気味に。正直株式相場の一瞬先は闇、な展開の方が興味深いし、割と喧々ものを言う女性たちなので、喧嘩状態ともなると阿宝でなくても「煩いなあ」と思ってしまう。

それでも彼女たちが自分の路を歩いていくようになると、あんまり煩く思わない不思議。

ここから先はストーリーのネタバレを含みます。

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「繫花」微博より これ全部セット、だよね…

■記憶のトリガーとなるOST

主人公、阿宝(胡歌 飾)を取り巻く二人の女性、一人は「夜東京」の共同経営者、玲子(馬伊琍 飾)。もう一人は27号外資公司の汪明珠(唐嫣 飾)。阿宝が自国ブランドTシャツの件で成功を収めた後、彼女たちの間に変化が現れ、結局二人とも阿宝の許を離れることになる。

 

個人的には恋人(だろうと思う。かつての、ってことなのかもしれないけど)の阿宝と別れ自分の路を歩む玲子より、同僚に陥れられ公司を辞めざるを得なくなる汪明珠の方が印象に残る。阿宝と彼女の関係がドラマの中で明言されることはないけれど、男女の仲という印象は受けないし、むしろ妹のように可愛がっていたように見える。

 

結局阿宝は外資公司を辞めた汪明珠と組もうとはしない。情はあっても仕事は別、ということなんだろうけど、やっぱり冷たい、気がする。(…でも情がないわけではなかったことが、25集以降で分かりました。阿宝、ごめんなさい)

 

一方、彼女の師父である金科長(吳越が好演)は、不正を許してはくれないけれど、夫との思い出の品である切手帳をくれる。結局彼女は切手帳をお金に換えてしまうけれど、師父は彼女を責めはしないだろう。…中国ドラマの師父は本当に優しく、懐が深い。

 

阿宝や外資公司という後ろ盾を失った汪明珠は、自分が何者でもないことを黄河路で思い知らされる。それでも工場で必死に働き、自分の会社を立ち上げ、自分自身の価値を見つけようとする。その時バックに流れる曲がBeyondの「光輝歳月」だ。

 

…音楽というのは記憶と深く結びついている。観ているこちらも当時の記憶と感情が一気に蘇ってきて、やるせない気分になった。この曲を聴いていた頃の自分はちょうど会社を辞めようかどうしようか、とか考えていた時期で、汪明珠の心情に重なるものがあったのだ。

 

このドラマには1990年代初頭、流行っていた曲がふんだんに盛り込まれている。張学友の「偸心」王菲の「執迷不悔」陳百強「一生何求」、趙傳「我是一隻小小鳥」そして「再回首」…。

1990年代に入り、香港の音楽市場は中国を視野に入れるようになった。広東語の歌の北京語版CDを出すことが流行り、北京語の発音が美しいと言われた張学友は広東語のアルバムとは全く別の曲で構成された北京語版CDを出したりしていた。北京語の曲も流行するようになり、王菲はその代表だった。

上海、というか中国側の状況はよく知らないけれど、返還が近づき香港との敷居が低くなり、そうした音楽が一気に流れ込んできたのではないだろうか。このドラマのOSTに広東語曲も多く含まれるのは、王家衛が香港で活躍する人だから、というわけではなく、実際に上海で聞かれていた曲、という括りなのだと思う。

 

その当時の上海を知る人は、これらの曲のいずれかで当時を思い出し、登場人物の誰かに自分を重ねることになるだろう。

原作は群像劇だというから、ある意味正しい映像化の手法なのだともいえる。

 

ただ、当時を全然知らない年代、流れてくる歌に思い入れのない世代にとってはどうなんだろう?とも思う。

株が一獲千金の夢を見せてくれる当時の上海の熱に浮かされたような様は、バブル期の東京の盛り場に共通するものがあって、その奇妙で危うい熱気を知る人間にとっては想像に難くない。でも、それを全く知らない人に説明するのは難しい。

 

…その辺りがドラマに対する評価の分かれ目になるのかも。

 

■バブルは長く続かない。どうする阿宝?

物語の方はそろそろ大きな転換期。これまで派手な成功を収めてきた阿宝の周りからは一人、また一人と人が離れていっているし、阿宝の服飾公司への挑戦には、誰もがやめろと言ってくる。阿宝のファムファタール・李李(辛芷蕾 飾)の正体もだんだんわかり始めてきた。

このところ、あんまり黄河路が出てこなかったので、あの煌びやかな世界がこの先どうなるのか、楽しみなような不安なような。

 

ちなみに阿宝と李李が逢引きを重ねている裏通りの店の料理は涮羊肉(シュワンヤンロウ)というらしい。羊肉を使った、しゃぶしゃぶの元祖のような料理なのだそうだ。美味しそうなのに実際に食しているシーンはない。

 

…そうなのだ。このドラマ、ものすごく料理の話が多いのだけれど、あんまり料理をきちんと見せてくれない。何食べているのか知りたいのに、カメラがすぐ明後日の方向に行っちゃう…。飯テロになってもいいから、もう少し見せて、お願い。

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原題:繁花 Blossoms Shanhai 2023年

監督:王家衛 原作:金宇澄「繁花」 編劇:秦雯(「赘婿」等)

出演:胡歌 馬伊俐 唐嫣 辛芷蕾

 

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