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今更ながら「周生如故」のモデルを調べてみた

「悲恋」という言葉で腰が引けて今まで観ていなかった「周生如故」(邦題:美人骨 前編:周生如故)…。観始めたら面白い。

ロマンスが中心というより、中央の滅茶苦茶な権力闘争に翻弄される二人の物語だ。主役の二人、任嘉伦と白鹿の抑えた芝居は深い余韻に満ちていて…案の定泣かされました。

観終わってWikiを読んでいたら、主人公をはじめとする登場人物の多くが実在の人物をモデルにしていると知ってびっくり。ついでにちょっと調べてみた。調べた、といっても中国史に詳しいわけではないので、主に日本語と中国語のWikiを参照。

以下ネタバレというか、最終盤のストーリーに触れています。ご注意ください。

「周生如故」微博より 描かれている蓮の花にもエピソードがある。前半の伏線は終盤できちんと回収される

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主人公のモデルは「蘭陵王

中国語版Wikiによれば、主人公・周生辰(任嘉伦 飾)のモデルは「蘭陵王」こと高長恭。…これはまあ分かるような、そうでもないような。原作のタイトルが「美人骨」だと聞いて、すっかり女主のことだと思っていたけど、ドラマを観ると男主のことだと素直に納得できる。

蘭陵王も皇族でありながら軍に身を投じ、辺境で侵略者と戦い続けた常勝将軍だ。その名声を皇帝から疎んじられ、最後は陥れられ毒酒を賜ることになった。

任嘉伦が演じる将軍は端正で静かな美しさがある。確かに女性と見間違うという優し気な「蘭陵王」の雰囲気はあるかもしれない。

 

ちなみに周生辰の側近となる僧・蕭文をはじめ、周辺人物にも歴史上のモデルがいる。

蕭文のモデル萧综は当時の北魏の敵国・梁の第二皇子で、父と信じた帝が実は実父殺害の張本人だったという逸話も史実のようだ。

 

政権争いは「北魏」がモデル

蘭陵王は北陳の人だけれど、ドラマのモデルになった国は南北朝時代北魏だという。

結論から言うと、ドラマ内で起きた出来事はほぼ史実だった。

 

北魏(386-534)は南北朝時代の国の一つ。拓跋氏が拓いた国で、拓跋氏はその後姓を元に改めた。ドラマで描かれているのは北魏の末期にあたる。

ドラマ開始時点での皇帝・劉徽のモデルは魏孝明帝・元詡(510-528)。5歳で皇帝に封じられた。太后のモデルは太后・胡充華。広陵王・劉子行(王星越 飾)のモデルは孝莊帝・元子攸(507-531)だそうだ。

太后が幼帝を即位させ垂簾政治を行い、後に息子の帝と宦官らによって監禁されるのも史実。その後の皇帝殺害と広陵王による皇位簒奪の流れもほぼ史実そのままだ。

朝臣の大虐殺は「河陰之変」(528年)として知られており、実に200名もの朝臣が殺害されたという。

一番びっくりするのは、太后が死産だった皇子の身代わりに赤ん坊を連れてくるくだりもほぼ史実だったこと。もっとも史実では他人の赤子ではなく皇女だったそうだけれど、一日でバレた。…女の子を身代わりに立てて、どうするつもりだったんだろう?

 

高氏粛清の詳細は?

女主の父親が家を追われる原因になった「高太后の謀反」。ドラマ内では詳細が語られないけれど、胡太后と高太后の間には深い確執があったようだ。

 

高貴妃こと高英は507年、叔父の高肇と協力して舜玉皇后を殺害、高皇后となる。彼女が産んだ男子は夭折。当時の北魏の風習では息子を生んで立太子されるとその母親は弑されるという風習があった為、自ら殺害したとの噂もあった。一方胡貴妃は男子を出産。胡貴妃の夫である宣武帝が母親を弑すという風習を廃したため、彼女は命拾いした。男子を生んだ胡貴妃を高皇后は殺害しようとするがが果たせなかった。

武帝崩御の後高皇后は太后となり、再び胡贵嫔の殺害を計画するが崔光(女主の祖父のモデル)らに阻止される。孝明帝が即位し胡は太后になる。高英は太后を退き尼僧になることを強要された。

518年、高英が母を訪ねた際、母の家で殺害される。生前高英は凶悪な人物と思われていたが、その後の胡太后がより凶悪だったため、世間の同情を集めることになった。

 

…どっちもどっちって感じだ。

 

北魏のその後は…

ドラマでは皇位簒奪後、広陵王は病死するが史実はもっと血生臭い。

 

孝莊帝は将軍・爾朱栄(金榮のモデル)の傀儡であることに不満を抱き、皇后(爾朱栄の娘)の妊娠を餌におびき寄せ殺害。だけどこれを機に爾朱栄一族の叛乱が起き、逆に拘束され殺害される。

その後は1年の間に傀儡の皇帝が立てられては廃位、殺害の流れが続く。一時は3人が皇帝を自称したこともある。結局孝莊帝殺害から4年で北魏は東西に分裂する。

 

歴史上の逸話とオリジナルストーリーの融合

このドラマが秀逸なのは、血生臭いがドラマディックな歴史と、キャラクターが織りなす美しいロマンスが齟齬なく融合している点だと思う。彼らが翻弄される運命そのものに説得力があるので、その悲劇が一層際立つ構造だ。

 

主人公二人は勿論大変美しく描かれ、彼らの周辺人物も上手く配置されているけれど、出色なのはやはり広陵王・劉子行の造型だと思う。

広陵王は無能であるのに野心ばかりが強く、心をべったりと闇で塗り固めたような人物だ。

彼は帝から賜った婚約者・漼時宜(白鹿 飾)の画姿に執着するが、実際の彼女が自分を愛していないことを不思議がりはしても、理由を考えようとはしない。彼女の大切な師兄や師姐を殺しても平気で娶ろうとするし、自分を愛してくれる公主の気持ちを慮ることもしない。漼時宜を後宮に閉じ込めれば、彼女の愛する人の死をなかったことにできると本気で信じているようでもある。…彼の気持ちを理解しようにも、ぽっかり空いた虚無があるばかりで、恐ろしい。

 

実際の孝莊帝はハンサムで勇猛だったそうだから、広陵王とはかけ離れた感じの人物だったのかもしれない。この人物造形は脚本家・演出家・俳優が力を合わせて作り上げた結果だ。

 

原作者でドラマの脚本も手掛けた墨宝非宝は「步步驚心」(邦題:「宮廷女官 若曦」総合編劇)「親愛的,熱愛的」(邦題:「Go!Go!シンデレラは片想い」オリジナル脚本)などの脚本家でもある。「親愛的,熱愛的」はピンク色のジャケットと邦題で大分損をしていると思うけれど、e-スポーツにかける熱い人間ドラマで、名作だ。

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原題:周生如故 One and Only 邦題:美人骨~前編:周生如故

原作:墨宝非宝《一生一世美人骨》古代篇

編劇:墨宝非宝 導演:郭虎 2021 24集

出演:任嘉伦 Allen Ren 白鹿 Bai Lu 王星越 Wang Xingyue

 

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