lienhua’s Dragon Inn 龍門客棧

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記憶の中の香港映画2 悲しい恋人たちの物語 「アンディ・ラウの逃避行」原題:「天若有情」

ラストシーンに触れています。ご注意ください。

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豆瓣より香港版ポスター  吳倩蓮の顔が写ってない…


原題から分かるように悲恋ものだ。やくざ組織の末端の組員と、豪邸に住むお嬢様が出会い惹かれ合うけど、運命に引き裂かれる。ありがちだ。

…でも泣ける。「泣ける」と銘打った映画は好きではないのだけれど、この映画のラストシーン、ウェディングドレスを着たまま高架道路をよろめきながら歩いていく吳倩蓮の姿を、忘れることはないだろう。

 

■清楚な美しさの吳倩蓮・シャープな劉德華

主演は、劉德華と吳倩蓮。久々に映画を見直して、あれ、劉德華ってこんなにハンサムだったっけ…と思ってしまった。あの頃、香港映画にはいい男がたくさん居過ぎて気が付かなかった。今回の役もこの頃劉德華がよく演じていた、やくざの下っ端。バイク姿がカッコいい。

吳倩蓮はこれが香港映画のデビュー作だったと思う。それまでの香港映画の女優さんにはいないタイプの清楚で上品な印象で、凄く新鮮だったことを覚えている。

共演の吳孟達はいろんな映画に脇でよく出ている人で、ちょっととぼけた、情けないおっさん役は彼の得意とするところ。

この映画で吳倩蓮は香港电影金像奖の最佳新人賞を、吳孟達は最佳男配角(助演賞)を受賞した。

■スタッフは超豪華

スタッフにはプロフェッショナル、というか腕のいい人たちが揃う。

プロデューサー:杜琪峯(「審死官」等のディレクターとしても有名)

導演:陳木勝

(「我是誰」「新警察故事」等ジャッキー・チェンの映画も多く撮っている)

編劇:阮世生(レスリー・チャンの「金枝玉葉」等の脚本家)

武術指導:元彬(前回紹介した「新龍門客棧」もこの人が武術指導。

     とにかく沢山の映画の武術指導をやってる)

音楽:羅大佑(歌手・作曲家でこの頃映画音楽もいろいろ手掛けていた)

 

有名な映画人が集まって作られた映画だということが分かる。映画は手練れ、というかプロが集まって巧みに作っている感じが詰まっている。

評価も高く、続編(多分話は続いていない)「天若有情II」「天若有情III」も作られたようだ。郭富城主演のIIは観たような気がするけど…内容は記憶にないなあ。

 

■手際の良さの光る脚本と演出

この映画、驚くほどセリフが少ない。

特に冒頭、劉德華がヤクザの先輩から頼まれて宝石強盗の運転手役を引き受け、警察とカーチェイスした挙句、吳倩蓮の乗った車で逃走し先輩と合流するまで、殆ど台詞がない。

その後自宅(ぼろいアパートの屋上だ)に戻る途中の階で、如何にも水商売風のおばさんたちに「夜食」と言って袋を渡し「今日は母親の命日だろ。これで弔いな」と紙銭を渡され、それを燃やしながらビールを飲む。ここも台詞はこれだけ。

映し出される写真と新聞記事で、彼が幼い頃母親を亡くし、恐らく下の階のおばさんたちに育てられたこと、母親がこの場所から飛び降り自殺したらしいことが分かる。

表情すら分からずビールを飲む後姿だけなのだけれど、身に染みるような孤独が伝わってくる。

 

吳倩蓮扮するJoJoはすごく大きな門のある家に住んでいる。両親からはビデオレターだけが送られてきて、大きな屋敷に家政婦と二人きり。ヤクザの先輩の子分たちに命を狙われ、劉德華に助けられた後、手作りスープを持って彼を追い掛け回す。困った彼が不法レース場(トラックのチキンレースだ)で散々彼女を脅かした後、彼女は叫ぶ。「今日は私の誕生日だったのに」その後二人で誕生日のケーキを食べ、ここから二人は急速に親しくなる。

どこにも無駄なカットがなく、セリフも最小限。でも二人がどれほど孤独で、互いを必要としているか、その切実さが伝わって来て、見ているこちらも切なくなるのだ。

 

撮影もすこぶる美しい。鮮やかなネオンの色の照り返しが映る壁、夜の高架道路を疾走するバイク。二人ともノーヘルで、周りに他の車がいるんだけど…。香港はいちいち撮影許可なんか取らないらしいので(一度香港でロケをしたけれど、許可取らないのは本当だった)ゲリラ撮影なんだろうな。

 

二人の幸せは長くは続かず、彼女の両親は彼を誘拐罪で訴えカナダに留学させようとし、彼は彼でヤクザの抗争に巻き込まれ、兄貴の仇を討たざるを得なくなる。最後の夜、香港の街をバイクで駆け抜ける二人の姿は美しく、哀しい。

■音楽は映画を盛り上げる…というより殆ど一体化している

この映画では、映像と楽曲がイメージを高め合って、深く心情に訴えかけてくる。

この映画の主題曲は映画のタイトルと同じ。袁鳳瑛Shirley Yuenの歌う主題歌が流れるのはラストだけど、メロディは冒頭から使われている。切ない曲で、このメロディを耳にするだけで、この映画のラストを思い出してしまう。

 

でも先日、意外な処でこの曲を耳にした。ドラマ「雪山飛狐」を見ていたら、いきなりこの曲が流れたのだ、北京語で。???

香港映画は台湾などでの公開用に必ず北京語バージョンも作られるし、その時に同じ曲に北京語の歌詞をつけることもあるのだけれど、何故武侠ものの恋愛テーマ曲に?不思議だ。

 

この曲の北京語タイトルは「青春无悔」でやっぱり袁鳳瑛が歌っているけれど、どうやらその後、羅大佑が友人の作家が亡くなった際、ラスト4行の歌詞だけ変えて「追梦人」(歌唱は風飛飛)というタイトルで発表し直したようだ。この曲は1990年のドラマ「雪山飛狐」に使われた、とのこと。なので中国本土では「追梦人」の方が通りがいいようだ。

 

この映画の他の挿入歌はBeyondが歌っている。中でも「灰色軌跡」は黄家駒の絞り出すようなボーカルが印象的。歌詞も切なくて、この曲を聞いてもやっぱりこの映画を思い出してしまう。

Beyondは当時香港では珍しかったロックバンドで「長城」は「進め!電波少年」のOPにも使われたから、耳にした人も多いかもしれない。「海闊天空」は今でも中国のドラマや映画で度々使われる名曲だ。リードボーカルの黄家駒は悲しいことに日本で番組収録中の事故で亡くなった。とてもショックで、以降、その番組は絶対に観なかった。

 

…この映画を観ると、そうしたことまで次々思い出してしまう。

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この映画、なんで配信してくれないんだろうなあ。恋愛面の話しか書かなかったけれど、アクションシーンやカーチェイスも迫力あるのに(監督が陳木勝なのだから当然だ)。

陳木勝監督も2020年に亡くなった。淋しい。

 

原題:天若有情 A Moment of Romance

公開:1990年 監製:杜琪峯 Johnny To 

導演:陳木勝Benny Chan 編劇:阮世生James Yuen Sai-Sang

出演:劉德華Andy Lau 吳倩蓮Wu Chien-Lien 吳孟達Ng Man Tat

 

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