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中国ポップスの名曲「再回首」

年末から春節の特別番組で一番歌われていた気がする「再回首」。胡歌や秦昊が歌っているのを観たし、つい先日は電視劇品質盛典で刘宇宁が素晴らしい歌唱をみせてくれた。

 

この曲がこんなに歌われるのは1990年代初頭をテーマにした二つのドラマ「繁花」と「慢長的季節(邦題:ロング・シーズン 長く遠い殺人)」がヒットしたからだ。どちらもとても良くできたドラマで「再回首」は印象的に用いられている。…ただ、どちらのドラマにも他に多くの往年のヒット曲が用いられていたにも関わらず代表して歌われるのがこの曲、ということは、中国人の中で「90年代=再回首」と思われているからなのかもしれない。

 

ただ、私の記憶の中ではこの曲には広東語の歌詞がついていた、はず。そこでこの曲の歴史をちょっと調べてみた。以下は主に「百度百科」「中国版WIKI」から調べた結果。

この曲が使われていた映画「群龍戲鳳」のネタバレが若干含まれます。ご注意ください。

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「群龍戲鳳」豆瓣より イメージが合わないけど「再回首」はもともとこの映画の主題歌だ 

原曲は広東語曲「憑着愛」

この曲、もともとは広東語曲だ。タイトルは「憑着愛」(よかった、記憶はあってた)。「群龍戲鳳(邦題:帰ってきたデブゴン/昇龍拳 1989年)」の主題歌だ。作曲は盧冠廷(Lowell Lo)、作詞は潘源良(Calvin Poon)。

盧冠廷は80年代後半から90年代にかけて沢山の香港映画の音楽を手掛けていて、「秋天的童話(邦題:誰かがあなたを愛してる)」みたいな恋愛ものから「監獄風雲」等のノワール系、「賭神」等のコメディまで幅広く担当していた。

 

映画はタイトルから分かる通り洪金寶(Sammo Hung Kam-po)主演のカンフー映画なのだけれど、どちらかというと弟分の青年と少女の悲恋に重きが置かれている。曲は彼らのテーマ曲として使われており、二人の出会いの時には明るく可愛いアレンジで、悲劇的な結末の後にはヴォーカルヴァージョンが流れる。中国語版ウィキによると、盧冠廷が持って行った曲に副監督がなかなかOKを出さず、何回か書き直して今の形になったらしい。

 

広東語バージョンの作詞は潘源良。作詞はもとより、映画の脚本・監督も務める人物で林子祥、梅艶芳、張學友等々香港の大物歌手の作詞を沢山手掛けている。

オリジナル歌唱は蘇芮(Julie Sue)。「酒幹倘賣無」等の代表曲を持つ台湾の女性歌手だ。

 

広東語の歌詞は北京語と正反対

歌詞の内容は広東語と北京語でだいぶ違っている。そもそもタイトルも「憑着愛」(Depend on love)と「再回首」(振り返れば)だし。

広東語の歌詞は「紆余曲折の人生の末、愛する人に出会った。年老いるまで共に生きていこう」という内容だ。「愛する人の温もりだけを抱いてこれから一人長い路を行く」という「再回首」とは一見正反対に見える。

実はこの詞は「そう願ったのに叶わなかった夢」を歌っている。映画の中の恋人たちは結婚式の夜、悲劇的な結末を迎えるからだ。抒情的なメロディとこの歌詞はとても痛ましく響く。

 

この曲は香港でも大ヒットしたようで、その年の香港電影金像獎(香港で最も権威ある映画賞)の最優秀映画歌曲に選ばれ、陳百強、梅艷芳、劉德華等多くの歌手の演唱会等で歌われた。

 

「再回首」は映画公開時の北京語バージョン

当時香港映画を台湾で公開する時は北京語に総吹き替えするのが殆どで、主題曲も北京語バージョンで作り直されるのが普通だった。「群龍戲鳳」の台湾公開用に北京語歌詞がつけられたものが「再回首」だ。

こちらの作詞は陳樂融。葉蒨文「瀟灑走一回」や王傑「安妮」等の作詞の他に音楽制作、舞台製作等なども手掛けている。

歌唱は広東語バージョンと同じ蘇芮が務めている。

 

ただ、中国本土でこのバージョンが流行ったのか?というと、そうではなさそうだ。というのも映画そのものがどうやら中国本土では公開されなかったようなのだ。(公開の記録があるのは香港と台湾のみ)

 

「再回首」の歌詞には2パターンある

台湾での映画公開は1989年2月、その4か月後の6月に発売されたのが台湾の男性歌手・姜育恒(Chiang Yu-Heng)のバージョン。中国で広く流行ったのはどうやらこちらのバージョンのようだ。

 

姜育恒版の「再回首」は蘇芮版と最後の歌詞が少し違っている。蘇芮版では「我心依旧(私の心は昔のまま)」で終わるのに対し姜育恒版では「只有那无尽的长路 伴着我(ただ尽きない長い路だけが私の道連れだ」で終わる。これは編曲の陳志遠が「男性が歌うのなら」ということで変更したと百度百科にある。

この最後の一行の入れ替えで曲の印象は大きく変わる。蘇芮(女性)版では時を経ても変わらぬ想いが強調されるのに対し、姜育恒(男性)版は「目の前に広がる長い孤独な旅路」が最後のイメージだ。

今歌われているバージョンの多くが姜育恒版の歌詞を採用している。

 

姜育恒版から1か月後、やはり台湾の女性歌手・李翊君(E-Jun Lee)が「再回首」を発売。競作のような形になった。こちらの歌詞は蘇芮版だ。

原曲を歌った蘇芮は1989年12月に中国国内向けのベストアルバムの中に「再回首」を収録している。

この3人は全てUFOレコードの所属で且つ蘇芮との契約は切れる寸前という状況だったそうだから「広東語(或いは蘇芮の北京語)バージョンが流行る」→「男女の歌手の競作ってことで話題を作って中国本土に売り込もう」ってことだったのかもしれない。

 

いつ中国で流行した?

…で、どこでどうやって流行したのか、はよく分からないけれど、1991年2月の「中央電視台春節」に姜育恒が呼ばれて「再回首」を披露していることから、その辺りで流行ったんだろうな、というのは推測がつくし「春節」に出演したことで、曲の知名度は更に上がったと思われる。カラオケで歌いやすそうな曲だし。

 

その後もこの曲は繰り返し様々な歌手にカバーされ続けている。「慢長的季節」に使われていたのは姜育恒版だけど「繁花」は香港の男性歌手・曾比特(Mike Tsang)の新規録音だ。

どのくらいカバーされているのかと思って試しにSpotifyで検索を掛けたら「再回首」「憑着愛」合わせて80曲を超えた。…凄いな。

 

大抵が原曲に近いスローバラード調なのだけれど、先日刘宇宁(Liu Yuning)のバージョンは時々怒声の混ざるロックバラードっぽい作りで素晴らしかった。ラストにロッド・スチュワートの「Sailing」が少しだけ流れる編曲も素敵。

 

個人的には作曲者の盧冠廷と、李宗盛(Jonathan Lee)のデュエットのバージョンが好きだ。人生にいろいろあったであろういい歳したおっさん二人が、少しの諦めを含んで「しょうがねえな」って感じで歌っている。味わい深い。

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「憑着愛」作曲:盧冠廷 作詞:潘源良

「再回首」作曲:盧冠廷 作詞:陳樂融

「群龍戲鳳 Pedicab Driver(邦題:帰ってきたデブゴン/昇龍拳)」

導演:洪金寶 1989年

出演:洪金寶 利智 莫少聰 袁潔瑩

 

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