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狄仁傑絡みの二つのドラマ「大唐狄公案」(~15集)&「唐朝詭事録」

官吏であり名探偵である狄仁傑を主役にした「大唐狄公案」。原作はロバート・ファン・ヒューリックの同名小説。狄仁傑のシリーズは今までに何度も映画・ドラマ化されてきたけれど、今度のドラマの狄仁傑は今までのイメージとだいぶ違う。

探案ものですのでネタバレはないと思いますが、ストーリーに触れています。

ご注意ください。

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「大唐狄公案」微博より 周一围は文句なくカッコいい

実在した狄仁傑はどんな人?

狄仁傑は実在の人物(630-704)で、唐の武則天の時代の宰相だ。実際若い頃には大理寺少卿、刺史等を務め、1年に1万7千人の罪人を処理し、しかも冤罪を訴える者はいなかったという逸話を持つ。あの怖い武則天を度々諫め、朝廷で説き伏せることも度々あったという。武則天からは「国老」と呼ばれ、彼の死には涙を流して悲しんだらしい。

 

「狄仁傑」のイメージっていうと…

その人物をモデルにした推理小説が「狄公案」シリーズで、日本でも翻訳が出ているしいくつかは読んだのだけれど、割と普通の名探偵というか、小説の狄仁傑にはあまり際立った印象がない。ただ、中国の「名探偵」と言えば最初に名前が挙がる人物でもあり、沢山の映像作品が作られている。

 

映画や網路電影から受ける印象をまとめると

・卓越した観察力と推理力で、一見人の仕業と思えない不可思議な事件を解決

・武力の方はあんまりなかったり、まあまあだったり。代わりに大抵ワトソン役を

 兼ねる武力担当がいる

・事件には朝廷内の争いが影響していることが多い。武則天は最大の後援者であると

 同時に最大の敵

と、こんな感じだ。

 

「大唐狄公案」の狄仁傑

このドラマからは既存の狄仁傑のイメージを変えよう、という意思が感じられる。

 

物語は狄仁傑の仕官前から始まるのだけれど、初っ端から武力高めで大立ち回りもこなす。何せ周一围なので、立ち居振舞いがかっこいい。何やら仕官を渋っているようだけど、どうやら父親が自死した事件と関係があるらしい。皇后(名前は出ないけれど武則天だ)も登場し、その油断ならなさそうな言動も楽しい。

 

最初の事件は巻き込まれ型で、友人と酒を飲んでいたらその酒楼が火事になり、友人は焼け死んでしまう。この事件に皇后(鍾楚熙 飾)の印が盗まれた一件が絡み、真相は複雑な様相を呈してなかなか面白い。

 

ただその後、蓬莱に赴任(5話以降)すると雰囲気が変わる。市井での話は従者の二人が担当するので、狄仁傑は事件現場を検証する以外は屋敷に籠っているか、妓楼で琵琶聴きながらお酒飲んでいるかになってしまう。蓬莱は雨が降りしきる街なので、暗い雰囲気に拍車がかかる。

 

事件はいろいろ起こるのだが、怪奇要素、というか不可思議さは控えめ。妻を殺したと自首してくる男の話や、二つの刃物で殺された遺体の謎を解く話など、奇妙さよりむしろ人間ドラマに重きを置いているように見える。船が嵐に遭って云々…のようなスペクタクル要素もないわけではないけど、狄仁傑ものでやらなくても、という気もする。

 

残念なのはゲストが豪華で、「火サス」みたいな感じで簡単に犯人のめどが立ってしまう点。従者の喬泰(姬他 飾)と馬榮(凌孜 飾)、管家の洪亮(尤勇智 飾)はあんまりワトソン役になってくれないので、謎解きが犯人を前に語るパターンばかりになってしまい、爽快感が少ないのも悲しい。

 

…それと、皇后の影があんまりない。武則天との緊張関係や朝廷のいざこざが事件の影に透けて見えるところが狄仁傑もの醍醐味の一つと思えるだけに、都から離れるとこれがなくて淋しい。

今までの狄仁傑ものとは違い、彼の内面を描こう、という気概は感じられる。ただ、恋愛話以外の彼の内面がよく分からない…気がする。このドラマ、セリフの中国語が結構難しいので私に分からないだけなのかもしれないけど。

「唐朝詭事録」微博より 事件ごとに違うポスターが作られていてどれも素敵

 

「唐朝詭事録」の蘇無名

最近日本に上陸した「唐朝詭事録」は、正確には狄仁傑ものではなく、彼の最後の弟子・蘇無名が活躍するのだけど、こちらの方がずっと「狄仁傑もの」っぽい。

 

ドラマは朝廷の公主(武則天の娘)の引きで都にやってきた官吏・蘇無名(杨志刚 飾)と、名家の息子で金吾衛の盧凌風(杨旭文 飾)による古装探案もの。

事件は麻薬のような紅茶が街に出回るとか、宿泊者が次々失踪するとか、一見不可思議な事件ばかりだし、蘇無名は推理職は傑出しているものの、武力の方はてんでダメ。

武力はワトソン役でもある盧凌風が担っていて、二人の掛け合いやだんだん集まって来る仲間たちとのやり取りも楽しい。

事件の裏には朝廷での後継者争いがあって、そのとばっちりで二人とも地方に飛ばされたり、職を解かれたり復職したり。舞台も長安→地方→洛陽→長安と多彩。

 

狄仁傑もののDNAを素直に引き継ぎつつ、バディものの要素や旅ものの要素を上手く取り入れているし、幻想的で不可思議な事件の真相を二人が解き明かしていく過程はスピーディでテンポがいい。武打シーンもなかなかで爽快感も味わえ、観ていてとても楽しかった。

 

こちらは既に第二季の撮影が終了しているらしいので、配信が楽しみだ。

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狄仁傑は名探偵であると同時にヒーローでもあるので、扱いの匙加減が難しい。今までと同じだと飽きられるし、余りにイメージと違っても「これじゃない」と思われる。

既存のイメージをうまく生かしつつ新しい風を入れるっていうのは難しいものなんだなあ、と二つのドラマを観ていると思う。

 

「大唐狄公案」の方はまあ、まだ半分だし、ここからは砂漠の街に舞台が移って、张若昀演じる癖のあるヴィランが登場するみたいだから、それを観ればまた評価が変わるかも。

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原題:大唐狄公案 Judge Dee‘s Mystery

原著:高罗佩(ロバート・ファン・ヒューリック)著「大唐狄公案

導演:李云亮 編劇:京榆 32集 2024年

出演: 周一围 Zhou Yi Wei 王丽坤 Claudia Wang Li Kun 张若昀

 

原題:唐朝詭事録(日本語題名同じ) 

           唐朝诡事录HORROR STORIES OF TANG DYNASTY

導演:柏杉 編劇:魏风华 36集 2023年

出演:杨志刚 Zhigang Yang 杨旭文 William Yan 郜思雯 

 

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