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「顕微鏡下的大明」(「天地に問う~Under the Microscope~」) 分かりにくい?ところを整理してみた

「顕微鏡下的大明」がちゃんとした日本語字幕で見られる。とても嬉しい。

というのもこのドラマ、そもそも税金の話でとっつきにくい上に、表面的な「人頭絹布税」の不公平という話の裏にあるもっと大きな問題、登場するお役人たちそれぞれの立場や考え、最後は数学の問題にまで話が及び、複雑だ。

ドラマ自体は地味な題材にも関わらずスリリングで面白いのに、関係者の地位や、何が問題なのかをちゃんと把握しておかないと後々混乱する。

 

一周目でよく分からなくて見直したり調べたりしたことをピックアップしてみた。

豆瓣より ちょっと楽し気なポスター

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そもそも帥家默(张若昀 飾)は何を訴えたのか?

中国語字幕で観ていた時、意外に分かりづらかったのが、これ。(私だけ?)税の名前が長い上、きちんと語られるのが第三話だけだし(最終盤にもう一度語られるけど)

 

要は「本来金安府全体で払うべき『人頭絹布税』(中国語字幕では「人丁丝绢税」)年3530両を仁華県が他の7つの県の分まで負担している。これは不公正である」ということ。

この3530両はそもそも成化9年に倭寇との戦のための臨時増税として設けられ、そのまま定着してしまったらしいが、肝心の成化12年~15年の帳簿が紛失していて、何故定着してしまったのか、何故それを仁華県だけが負うことになったのか、が分からない。

 

ドラマは、この疑問をはっきりさせる、ただそれだけの物語だとも言えるけれど、なかなか大変だ。この不公平を是正すると何が大変なのかは、ドラマの後半ではっきりしてくる。

 

時代背景

今、何年なの?というのがドラマでははっきり分からない。ただ第三話で訟師・程仁清(王阳 飾)が「帥家默の父親の死亡したのが嘉靖38年で、事件は20年前」と言っているので、ドラマの時期が万歴8年(1580年)辺りであることが分かる。

 

万歴年間の皇帝は明の14代・神宗。9歳で即位。明はそもそも汚職や不正がはびこり財政もガタガタだった時代だけど、即位直後は有能な宰相・張居正の手腕で財政はだいぶ持ち直したらしい。不要な官職の廃止、全国的な検地、無用な公共事業の廃止などで大きな成果を上げた、とのこと。皇帝と宰相の仲は相当悪かったらしく(宰相は前帝の時代からの高官で、力関係も宰相の方が上だった)宰相は死後に死罪扱いとなり一族は流刑、財産没収の憂き目にあうことに。

 

ただしドラマの舞台である金安府では、100年以上前の税がそのまま残されていることを見ると、まだ改革は行われていないようだ。

 

場所はどこ?

仁華府は架空の地名らしい。ネットの情報ではモデルは歙县、現在の安徽省辺りとのこと。

 

登場人物の肩書とか中央との距離とか

ドラマを観ていて登場する官吏たちの肩書・立ち位置が分かりづらい、とも思った。

テロップ短いんだもん。覚えられん。

 

生員:

主人公・帥家默の親友、豐寶玉(费启鸣 飾)と訟師・程仁清は生員(郷士の受験資格を持つ人)だ。生員は結構沢山いたらしい。郷士に合格すれば地方官僚への路が開かれるので、生員は官僚試験に挑戦中、もしくは官僚になり損ねた人、ということでもある。ちなみに訟師は弁護士みたいな役割だけど、地位はあまり高くないようだ。

知県:

県の長官。第三話に登場した知県は三人。

同陽知県・劉景(张帆 飾)はかつて神童と呼ばれ、自身も数学に強い。工部にいたこともあるということは、地方に飛ばされた中央官僚、ってことだ。

攬溪知県・毛攀鳳(翟小兴 飾)は知力より武力、ってタイプだ。攬溪県は訟師・程仁清や鄉紳・范淵(吴刚 飾)の住んでいるところで、毛知県は彼らとも近しい。

立ち居振舞から見ると、ずっと地元にいる感じの地方官僚。

仁華県の方懋珍(侯岩松 飾)は、地方のたたき上げの役人で日和見主義者。波風立てないのが一番だと思っている。仁華県には金安府もあるので(場所はすぐ隣)知府にも他の知県にも良い顔をしないといけなくて、大変そう。

主簿:

万成県からは主簿・任意(钱漪 飾)がやってきていた。万成県は貧しすぎて知県のなり手がいないので、代わりってことらしい。主簿は帳簿を司るので経理・財務・庶務の担当者。清廉潔白な地方のたたき上げの役人。

知府:

府は、県より上位の区割で、金安府には7つの県が含まれている。当然、知県より

知府の方が偉い、はず。ただ黃知府(高亚麟 飾)は、中央から派遣されてきたばかり。知県たちより年齢も若い。何で地方に赴任することになったのかは分からないけど、本人は功績を積んで早く中央に戻りたいだろう。

通判:

府の財政を司る。金安府の宋通判(房子斌 飾)、税金の話はこの人の担当。

鄉紳:

地方の名士。程仁清の雇い主の鄉紳・范淵は朝廷で御史(監察官?)を務めていた。

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第三話で登場した官吏たちはこの後も話の中心になる。このドラマでは主人公はあくまで狂言回しで、むしろ「正道」を貫こうとする者が現れた時の周りの人々の反応が物語の核だ。

 

知県たちは主人公に一様に反対しているように見えるけれど、実はそれぞれの立場によって微妙に主人公に対する態度が違う。同じようにことなかれ主義でも、その理由は様々だ。

味方に思える知府にしても本当に唯不正を正したいのか、他の思惑があるのかは分からない。

 

彼らの反応、というか振る舞いは今の役人にも通ずるものが…というよりお役人って、国と時代が違っても考えることってあんまり変わらないんだなあ。誰が味方で誰が敵なのか、簡単に割り切れない辺りも、凄くリアルだ。

 

上手な役者さんが揃っているので、二周目ともなると細かな視線や仕草にも意味があったのだと気づかされる。一周目でよく分からなかった部分も実はあるので、楽しみにしたい。

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原題:显微镜下的大明之丝绢案 Under The Microscope 2023年

導演:潘安子「重启之极海听雷」

原作:马伯庸「风起陇西」「长安十二时辰」

編劇:马伯庸・周荣扬

主演:张若昀 王阳 费启鸣 吴刚

 

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