lienhua’s Dragon Inn 龍門客棧

中国ドラマと香港映画について書いています 記事についてはINDEXをご参照ください

「与君歌(邦題:与君歌~乱世に舞う運命の姉妹)」は過酷なサバイバル劇

「与君歌」がBSで放送になる。「蓮花楼」「沈香如屑」も放送開始だし、成毅の代表作は殆ど日本公開されることになる。ついに成毅の時代が来たってことなのかもしれない。

日本でも人気が出るといいけど。ついでに「底線」も放送してくれないかな。

「与君歌」微博より 恋に悩んでいるのではなく機を伺っている(笑)

------------------------------

「与君歌」、よく分からないタイトルだけれど元々の題名は「夢醒長安」。唐末期が舞台の物語。昨今の規制で首都の名前等は変更されている…でもエンドでは劉宇寧がはっきり「長安」だって歌ってる(笑)。

原作「剣器行」は短編のようだから、多分ほぼドラマオリジナルのストーリーなんだと思う。

 

登場人物は歴史上の人物がモデルらしい。ジャンルとしては「ラブロマンス」で間違いないけれど、恋愛模様より、生き残りをかけた政争パートがメイン。…ラブロマンスものを作っているつもりが、結果的に政争パートの方が面白くなっちゃったというか。

 

男主は四面楚歌

齊焱(成毅 飾)は傀儡の皇帝だ。実権を握っているのは宦官の楚国公・仇子梁(何晟銘 飾)。

モデルは唐18代皇帝・武宗と宦官・仇士良。武宗は仇士良からの圧力を受け、兄帝とその妻子の殺害を命じ、皇帝の位についた人物だ。怪しげな丹薬を愛飲していた、というのも本当らしい。

 

ドラマでも仇子梁が兄帝やその協力者を殺害、齊焱を帝位につける。齊焱は表面上は嬉々としてこれを受け入れ、その後も仇子梁の意に大人しく従い傀儡を続けている。

主だった臣下は仇子梁に殺されるか国外逃亡し、味方はお付きの太監と部下一人だけ。四六時中監視され、身動きできない。武芸の腕は確かだけど、薬を飲まされ武功を封じられている。飲まされている薬と、その効果を一時的に消す薬をしょっちゅう飲んでいるため、身体はボロボロ。物語が進むにつれ、体調は悪くなる一方だ。

 

一方の仇子梁はだだっ広い屋敷に私兵を大量に抱え、いつでも首を挿げ替えられるよう別の皇族を薬漬けにして飼っている。敵になりそうな人物には片っ端から殺害。おまけに本人も滅法強い。

 

齊焱はそんな仇子梁に従うふりをしつつ、裏では機を見て味方を増やし、出し抜こうと画策している。密かに弓の練習をしているのは敵を倒すためではなく、急所を外して相手を倒したふりをしつつ、確実に逃がすためだ。

 

複雑で多面的な齊焱という人物を成毅はとても魅力的に演じていて、説得力ある人物像を描き出してくれる。齊焱は病弱なので動きのあるシーンは少ないけれど、ちょっとした仕草の中に齊焱の内面がにじみ出てくるようだ。

 

ヒロインにも歴史上のモデルが

齊焱が身辺の護衛に、と望んだのがヒロイン・程若魚(張予曦 飾)。仇子梁からOKが出るくらいなので、武芸の腕も大したことなく、可愛いけど直情的で短絡的。護衛というより、皇帝の癒し。まあ警戒されない人物ってことだけど、戦力としては心もとない。まあ腹に一物ないのは彼女だけだし、純粋で善良。なので、他勢力に利用されそうになったり、命を狙われることも。

齊焱は護衛のはずの彼女を守りながらいろいろ頑張ることになる。

 

彼女にもモデルがいるらしく、武宗の寵姫、王才人だそうだ。武宗に姿がよく似ていて、狩猟の際は男装してどちらが皇帝か分からないようにしていたという逸話もあるらしい。

 

信用できない周囲の人々

齊焱は積極的に傀儡を務めるふりをしているので、周囲の人々の反応は冷たい。彼らと協力できれば話は早いのだが、互いに疑心暗鬼で牽制し合って、なかなかうまくいかない。

本来帝の護衛を務める紫衣局からは見限られているし、仇子梁の義理の娘で密かに義父を倒そうとしている仇煙織(宣璐 飾)からは仇と思われている。

 

叔父の珖王(韓棟 飾)は本来兄帝の後継に指名されていたのでは、と周囲から思われている人物で、この人が敵なのか味方なのかも焦点の一つ。演じているのがヴィラン役も多い韓棟さんだから、よく分からないんだよ…。

 

彼らも仇子梁に協力的なふりをしつつ対抗するため策を講じるわけだけど、齊焱や程若魚にとっていい方に転ぶとは限らない。

他にも仇子梁に恨みを持つ国外勢力等が登場するけど、どの勢力も齊焱の味方か?と問われると肯定するのが難しい。他国の侵攻も受けている。

 

お話のポイントは…

そんな四面楚歌の皇帝と護衛のヒロインが強大な敵、仇子梁に立ち向かう。

お話のポイントは

 

①齊焱が皇位を剥奪されず、健康状態を悪化させずに生き残れるか

②味方を増やして仇子梁を倒せるか

③二人の恋の行方

 

齊焱らはかなり知恵を絞って仇子梁を出し抜こうとするものの、大抵の策は事前に仇子梁に気づかれ潰されてしまうので、①と②は途方もなく大変。さすがに一応史実に基づいているだけあって、政争パートは緊迫感もあり、手に汗握る展開も多い。

 

③に関しては、個人的には二人の関係がはっきりする後半より、前半の何でもないようなシーンの方にロマンス風味を感じる。例えば皇帝の自室で二人でご飯を食べるシーン。護衛なんだし食事時にいてもいいんだけど、皇帝におかずをよそってもらって「ありがと」って感じで動じない程若魚と、甲斐甲斐しく世話焼く皇帝の姿を見ると「ああ齊焱、寂しかったんだなあ」と納得。

 

話に辻褄の合わない部分もあるし、妙に冗長なところはあるし、糖度もアクションも少なめだけど、複雑なキャラクターと力関係が紡ぐ緊迫したストーリーと成毅の繊細な芝居は十分堪能できる、と思う。

それと、邦題ネタバレだと思うんだけどいいのかな?

-------------------------------------

原題:与君歌 與君歌 Stand by Me 邦題:与君歌~乱世に舞う運命の姉妹 49集

導演:刘国楠「大唐荣耀」赵力军「山河月明」

原作:飞花《剑器行》 编劇:十四阙

出演:成毅 Cheng Yi 张予曦  Zhang Yuxi  宣璐 Xuan Lu  韩栋 Han Dong

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

ポップで無国籍ドラマ版「唐人街探案2」

映画のシリーズ「唐人街探案」のスピンオフ第2弾。スピンオフとは言っても、映画とはだいぶ趣が違う。映画とストーリー的繋がりは殆どないので、観ていなくても大丈夫。第1季は観た方が楽しめるけど、こちらも観ていなくても大丈夫だと思う。

 

全16話のうち探偵・林黙が主人公の話が2篇、ハッカー・KIKOが主人公のものが2篇。

探案ものなので、なるべくネタバレしないよう書いていますが、ストーリーに触れていますのでご注意ください。

「唐人街探案」微博より アジアンテイストだけど中華風とは違うテーマカラーで統一されている

--------------------------

このシリーズのオープニングが好きだ。ネオンカラーが鮮やかで、そこに様々な犯罪に絡むアイテムが次々現れていくのは、ちょっとわくわくする。

 

「天使的旋律」「悪魔的呼吸」

林黙は映画版の主人公・唐仁の弟子で唐仁の探偵事務所の留守を預かっている。鼻が異常に良く、科学の教師をしていたので知識も十分、そして大食漢。タイ編はわりに食事シーンが多く(何食べてるのかよく分からないけど)何だかいつも美味しそう。

 

林黙のストーリーは、映画本編や他の話と違って割に陰惨な事件が多い印象だけれど、タイの気候のせいか、それ程猟奇的には感じない。タイの警察など映画版から続投のキャラクターも多く、賑やかだ。楽譜を用いた暗号トリックなんかもあって、謎解きも楽しい。相変わらず林黙は格好よく、女の子にもてまくり。

 

ただ、「天使的旋律」は精神病院、「悪魔的呼吸」は新興宗教団体が舞台になるので、街中での撮影は少なめ。わちゃわちゃしたバンコクの唐人街の屋台はあんまり登場しなくて淋しいかも。場所が限定されているので、林黙の気持ちいいほどの食べっぷりも堪能できないし。

 

「遊楽園」「黄金城」

今シリーズで面白かったのはむしろKIKO編の方。こちらの方が出演者も豪華。

KIKOは香港在住のハッカーなので恐らく舞台は香港、ということになると思うんだけど、何処だか本当に分からない。現代的な高層ビルやヨーロッパの路地裏風の小道、割と広めの自宅(香港はもっと住宅事情が悪いと思っていたんだけど…最近は違うんだろうか)等、意図的に無国籍な街、を描いていると思われる。人々の台詞も林黙篇ほどではないにしろ(バンコクが舞台だと台詞は北京語、タイ語、英語が飛び交う)複数の言語が混ざる感じだ。

 

KIKOと関わることになる警官に俞灝明、その父親に鍾鎮濤。俞灝明は「大明風華(邦題:大明皇妃)」で朱亚文の叔父さんをやっていたり「風起隴西」で諸葛孔明の部下をやっていたりで、年齢高いと思っていたけど、まだ36歳だった。今回は年相応に見える。

 

鍾鎮濤は譚詠麟と溫拿樂隊(Wynners)というバンドをやっていた、香港では大御所の歌手だ。映画にもよく出ていて、大らかな人柄が表れているような役をやっていた。今回も気のいい爺さん役で、歌声も披露してくれる。声が変わっていないのが嬉しい。

もう一人「遊楽園」に出演している杜德偉も香港のシンガーだ。懐かしい。おじさんがお爺さんになるのはそれほど気にならないけど、青年がおっさんになっていると年月を感じる(笑)。

他にも「隐秘的角落」の時は子役だった荣梓杉がすっかり若者になってたり、少しだけ顔を見せた刘昊然がちょっと恰幅よさげになってたり。

 

KIKOが登場する事件には必ずネットのハッキングの描写が絡む。ネット内の出来事の描写というのは目に見えないだけにディレクターの発想が問われる部分だけれど、亡くなった女の子のクローゼットの中を通っていったり(確かに他人にはあんまり見せたくない)面白い演出だった。

他にも首飾りのギミックとか、ちょっとしたところに工夫があって楽しい。

 

ドラマはギャグシーンなどが少ない分、映画本編よりテンポが早く、さくさく話が進む。必ずしもぶっ飛んだ事件、というわけではないけれど、トリックがあったり意外な展開があったりで、探偵ものの醍醐味が味わえるドラマだ。

-------------------------------

原題:唐人街探案2(网络剧) Detective Chinatown 2

编剧:陈思诚Chen Si Cheng(映画版の監督)、回子捷、池羿成

导演:

姚文逸(1-8集) 前作の「玫瑰的故事」を監督

王天尉Sky Wang(アメリカ)(9-16集)  集数:16集

出演:

邱澤 Roy Chiu 尚语贤Yuxian Shang 张艺上 俞灝明 Ham Yu 鍾鎮濤Kenny Bee 

杜德偉Alex To

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

(多分)日本で配信されている唯一の中国の歌番組「歌手·当打之年」 (邦題:「歌手 2020」)

韓国ポップスと違って中国の歌謡番組はまず日本では配信されないけれど、この番組だけは日本で配信されている。恐らく日本からMISIAが出ているからなのだろうけど、周深、毛不易、华晨宇等が出演していて聴き応えがあった。

「歌手·当打之年」豆瓣より 10年続いた音楽番組の最終シーズン

-----------------------------

番組のシステム

「歌手」は2011年から2020年まで続いた老舗番組で「歌手·当打之年」は最終シーズンにあたる。単に歌を披露するのではなく、観客の投票で勝ち抜いてゆく勝ち抜き戦スタイルだ。

2019まではちょっとややこしいシステムだったけれど、今回は比較的シンプル。最初に登場する7名の歌手に挑戦者の奇襲歌手3名が1対1の奇襲を仕掛け、元々の出場歌手より多くの観客投票を得られれば、奇襲成功となる。

奇襲が成功した場合、全体から観客投票数の最も少なかった歌手が淘汰され、奇襲成功歌手と入れ替わる。(だから必ずしも奇襲歌手に敗れた歌手が敗退するわけではない)

 

聴衆に飽きられないためにステージは毎回工夫が必要、というのがミソで、各歌手ともセットや演出、曲のアレンジに至るまでかなり凝ったものを用意する。歌は自曲でも他人の曲でも選曲は自由、但し上下二週で1サイクルなので、1曲目と2曲目の雰囲気をどう変えるかも考えなければならない。

奇襲歌手は、ステージを見ていて自分が勝てる、と思った時点でボタンを押すことができる。歌手が歌い終わった直後にサイレンが鳴るので、歌手本人にも視聴者にとっても心臓に悪い。

出場歌手

出場歌手は奇襲歌手も含めるとかなり多い。MISIAの他、あんまり中国ポップスに詳しくはない私が知っている歌手はこんな感じ。

毛不易 Mao Buyi

この番組を観ようと思ったのは毛不易が出てたから。2017年の「明日之子」というオーディション番組で自作曲「消愁」を歌い、チャートでいきなり1位を飾り鮮烈なデビューを果たした。OSTも「不染」(「香蜜沉沉烬如霜」)「梅香如故」(「如懿传」)等沢山歌っている。

ただこの番組の毛不易はやる気が全然なさそう…順位が付く番組、好きじゃなさそうだ。

 

华晨宇 Hua Chenyu

アイドル発掘番組「快楽男声」でデビュー。作曲も手掛け「歌手2018」でも優勝した。ステージも華やかで、この番組でも他の歌手とは毛色の違ったパフォーマンスを披露してくれる。「闘牛」「神樹」とか「疯人院/ 强迫症」なんかのステージは迫力満点。

 

周深 Zhou Shen

この人が参加してない音楽番組ってないような…。女性と聞き間違うハイトーンヴォイスで2016年最初の大ヒット曲「大魚」以来一線で活躍する歌手。OSTも含め毎年40~50曲も発表する売れっ子。この番組では普段と違う側面をいくつも見せてくれる。ロシア語曲「Baby ,До свидания」とか、死んだ愛人の遺産を受け継いだ男が主人公の「自己按门铃自己听」とか、この人は引き出しが幾つあるんだろう、と思わされる。

 

袁娅维 Tia Ray

パンチのある歌声のベテランシンガー。代表曲「不亏不欠」等

萧敬腾 Jam Hsiao

歌番組でよく顔を見かける台湾のシンガー。中国のポップスにはそこまで詳しくないので「王妃」くらいしか知らないけど。

胡夏 Hu Xia

この時点でも10年以上のキャリアがあるはずなんだけど、奇襲歌手として登場。OSTでよく見かける人。「明蘭」のエンド曲「知否知否」等。

 

コロナ禍でリモートに

この年は丁度コロナでスタジオ収録ができなくなり、この番組も3期からはリモート収録になった。台湾の歌手は台湾で、MISIAは日本で、中国国内もスタジオに集まれるのは数人、といった有様で、大々的なセットも作れなくなった。周深に至っては上海から出られず、自室からリモートで歌った回も。

日本は中国より規制が緩かったので、こじんまりとしているけど美しいセットが組まれていて、このような状況下でも視聴者に少しでも楽しんでもらいたい、という心意気が伝わった。これはMISIAおよびMISIAの周辺スタッフの努力の賜物だと思う。

他の歌手も「視聴者に勇気を与えたい」という真摯な姿勢がものすごく伝わって来るパフォーマンスが多かった。

それと、中国・台湾のシンガーたちのMISIAへのリスペクトが凄く感じられる。皆案外日本の歌を聞いていることも分かって面白い。

 

ただ、番組による投票数の操作疑惑はこの手の番組にありがちで、この番組でもMISIAに絡んだ疑惑があったり、他にもあれ?と思うことも正直あった。公正にやれよ、とは思うけどこの辺もお国柄なので、余り気にしない方がいいのだろう。

ともあれ、こうした番組を日本語字幕でストレスフリーに見られるのは嬉しい。面白かった。

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

ファンタジーかと思ったらシビアな政争劇だった「紫川·光明三傑」

撮影から3年も経ってお蔵入りかと思われていた「紫川」が配信になった。

ファンタジー超能力バトルものかと思っていたら、意外に骨太なドラマだった。前半は「政争」後半はシビアな「戦記」で、面白かった。義兄弟の絆も熱い。

 

ストーリー及びエンドに触れています。ご注意ください。

「紫川」微博より 大変カッコいい三兄弟 なかなか三人一緒に戦ってくれない…

-----------------------------

西洋風ファンタジーから中華(っぽい)架空歴史ものへ

原作から設定がかなり大きくアレンジされていて原作やアニメ版を知っている人には「これじゃない」感はあると思うけど、これはこれで結構面白いと思う。

 

「紫川」はアニメのオープニングだけ見たことがあって(OP曲はドラマで大哥・帝林を演じる刘宇宁が歌っている)、西洋風の甲冑姿の主人公とゴブリンやらオークやらの敵軍が登場していたので、てっきりそういうファンタジー系のドラマだと思っていた。

ところが最初の大規模戦闘のシーンでそうではないことが判明。相手も人間だ(笑)。身なりも完全に中華風。

 

微博に掲載された監督さんの手記には「物語には中国風の歴史伝奇故事のエッセンスが描かれていることから『写実』を選んだ」(大意)とあった。

確かにストーリーを考えると、これを西洋風の衣装やセットで描かれたら違和感が残りそうだ。「義兄弟」がテーマだし、中国ドラマの「西洋風」って何処となく奇妙なことが多いし…。原作では敵国は「魔軍」なのだけど、映像化するとチープになりがちだ。

そういう意味で改編は英断だったと思う。

 

あと、主人公たちのちょっと西洋味の残った甲冑はなかなか良いデザインで、かっこいい。衣装デザインは私服も含め、とても良いと思う。

 

前半は三兄弟より狸親父たちが主役

陥れられ7年もの間辺境の地で戦いに明け暮れていた主人公・紫川秀(杨旭文 飾)の帰還から物語は始まる。彼と近衛軍頭領(紫川家の身辺警護)の斯特林(张铭恩 飾)、紫川の実権を握る楊明華の側近・帝林(刘宇宁 飾)は義兄弟の契りを結んでいる。(大哥が帝林。二哥が斯特林、三弟が紫川秀)

彼らは国の為、専横を繰り返す楊明華を倒そうと陰で画策しているので、義兄弟であることは秘密だ。なので、三人一緒のシーンはなかなか見られない。

 

紫川の政治機構は複雑で、基本は寡頭政治。亡き皇帝の弟・紫川参星(马少骅 飾)と楊明華(张帆 飾)、紫川秀の軍の上司にあたる哥応星(修庆 飾)で方針が決められるようだが、他に大貴族による長老会があり、大事は彼らの了承がないといけないらしい。

张帆は「一念関山」で紫衣衛の頭領をやっていた人。今回もだんだん気の毒になってくる役(笑)

寡頭政治の三人は皆強烈な狸親父だ。病弱でボケたふりしている紫川参星。いちいち兄貴の遺品を持ち出して相手を試す態度がイヤらしい。

ずっと鍛冶場にいる楊明華は、側近も信用できない。野心満々というより、周りから何時かあいつは謀反を起こすと思われ続けて、本人もそれが面倒で謀反の方向に走っているような感じ。一番まともそうに見える哥応星ですら、何処か野心を秘めていそうで、軍権を握っている以上油断ならない。

 

…ドラマの前半の見どころは若者三人よりこの三人の狸親父たちで、役者さんの好演が彼らの複雑な人間像と細かな心の揺れを浮き彫りにしてくれる。中国ドラマの魅力の一つはこうしたおじさんたちが沢山いることだと思うけれど、本当に上手い。

 

主人公たち三人は以心伝心の仲なのだけれど、あちこちに不穏な空気が燻ってもいる。

狸親父’sの楊明華と哥応星と亡き皇帝・紫川遠星もやはり義兄弟で、彼らの対立は主人公たちの将来を暗示するかのようだし、エンド曲「老朋友」の歌詞も然り。

この空気はドラマの底辺を流れ続けていて、観ている側は彼らがいつ道を分かつのかとハラハラし続けることになる。

 

細かな心情描写は秀逸

政治闘争の一方で、義兄弟たちの恋愛も描かれるのだが、こちらの描写も細かい。まあ、これのせいで話の進行が遅いという欠点もあるんだけど。

特にヒロイン、紫川寧(李墨之 飾)と主人公の恋愛にはかなりの尺が割かれている。特にいいなあと思ったのは、主人公が送り付けた一見ガラクタのような品々を彼女が一つ一つ取り出す場面だ。

 

彼女は秀に沢山手紙を送ったのに、秀からは返事が全く来ず、たまに馬のしっぽ等奇妙な品が送られてくる。彼女はそれを大切にとってあるのだけれど、意味が分からない。実はそれらは戦場での辛い想い出の品々で、どうしても彼が捨てられなかったものだ。秀はそのことを彼女に言わないけれど、7年間の戦場の過酷さ、そして彼女の存在がどれだけ彼の心の支えだったのか、彼女への愛と信頼が無言のうちに伝わる良いシーンだ。

 

他にも、奥さんの前では人が変わったように穏やかで優しい大哥や、相手に渡せない手紙を書いては燃やす二哥と敵国の人質・卡丹公主(蔡卓音 飾)の切ないシーンも印象的。どのカップルにも明るい未来が待っていなさそうで、余計に切ない。

 

戦闘シーンはとても少ないが、戦争の泥沼っぷりは描かれる

後半になると、いよいよ北との戦争が本格化する。

戦闘シーンが少ないのは多分予算の関係…なのだろうけど、ちょっと少なすぎる気が。ただ、辺境での戦いの苛酷さは伝わって来る。

 

糧食とお金に苦労する軍、というのは余り他のドラマでは描かれない側面だ。糧食を買う金を皆で稼いだり、領主と交渉して供出させたり。後方支援が何もないので大変だ。

戦乱地域の村の食糧難や、斯特林の軍が木の根を煮て食する様は悲惨だ。それでいて領主である貴族はいいもの着ていいもの食べてたりするのを見ると、誰でもいいからこの国立て直してよ、と言いたくなる。

 

最終盤はいよいよ北との戦闘だ。状況も作戦もよく分かるし、戦闘シーンは迫力もあってなかなか良い出来。…なんだけど、花架にあったスタントシーンがないのは何故?第二季分?

これからだ!ってところで第二季に行かないで…。

 

第二季は…いつ配信?

エンドは昨今流行りの「え?ここで?」エンド。

WIKIの情報では下部があるようだし(暫定24集となってる)公式微博にも「期待第二季」とあるし、予告に使われたカットで本編に登場していないものもあるので、既に撮影済の第二季があるのだと思うけど、いつ配信されるのか…。

主人公が有している特殊能力が何処からきているのか、とか主人公の出自、とか、伝説の高手の話とか24集で積み残された謎は山ほどある。オープニングの空飛ぶ兵士とか黄金の仮面とかも出てきてない(泣)

刘宇宁が直播で「撮影初日にいきなり3mの高さの崖に連れていかれて、ワイヤーつけられて『飛んで』って言われた」と話していたけど、大哥が高いところから降りてくるカットなんてなかったような。

 

…上集も3年も掛かってるしなあ。まさかあそこで終わらないよね?

-------------------------

題名:紫川·光明三杰 紫川·光明三傑 Eternal Brotherhood 24集

原作:老豬 著「紫川」

編劇:田良良「三体」「終極筆記」

導演:張萌 衛立洲

出演:杨旭文 William Yang Xu Wen 刘宇宁 Liu Yuning 张铭恩

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

 

記憶の中の香港映画7:笑傲江湖(日本語題名「スウォーズマン 剣士列伝」)

日本語のタイトルからは気づきにくいけれど、金庸原作の「笑傲江湖」だ。

香港では1990年代、華やかなワイヤーワークを使った古装片の大ブームが到来するが、その先駆けとなった一作で、「笑傲江湖」「笑傲江湖II」「東方不敗 風雲再起」とシリーズで製作された。

 

このシリーズ、とにかく楽しい。大好きなので三本とも紹介したい。

笑傲江湖」豆瓣より 渋いポスター

-----------------------------

シリーズ通して監製:徐克、導演:程小東なのだけれど、1本目だけは導演は武侠映画の巨匠胡金銓(キン・フー)だ。但し途中で胡金銓が監督を降板、残りを徐克と程小東で仕上げた、という噂がまことしやかに流れた。本当かどうかはわからない。ただ、HKMDBのデータでは6人の名前が導演として表記されている。(許鞍華の名前まである。本当?)何かトラブルがあってみんなで何とか完成させました、って感じだ。

 

監督を降りたという噂を信じたくなるほどストーリーは改変されている。単行本5冊もある物語を1時間半にまとめようというのだから無理もない。秘術の巻物の争奪戦、という骨子だけは残っているが、重要人物の一人林平之は冒頭でナレ死だし、武林各派の争いも描かれず、この作品の最も有名なヴィラン東方不敗も登場しない。主なヴィランは宦官たちだ。

 

それでもこの映画はとても「笑傲江湖」らしい。

映画の冒頭近くにある1シーンが、この映画を「笑傲江湖」たらしめているのだと思う。

 

曲洋(林正英 飾)劉正風(午馬 飾)が船上で合奏する。ただそれだけのシーンだ。彼らはこの場面以外登場しない、本筋とは関係のない人物だ。とても楽しそうなのだけれど、この二人実は正派と邪派、対立している武門に所属しているので本来なら交友関係を持ってはいけないのだ。ただ、二人は江湖のどこかで知り合い、知己となった。そして今日は劉正風が江湖から引退する日。二人は晴れて大っぴらに一緒に奏で、酒を飲むことができるようになった。

 

主役の令狐沖(許冠傑 飾)と妹弟子(葉童 飾/男の子みたいで可愛い)が成り行きで船に同乗することになり、奏でるのが「滄海一聲笑」(黃霑 James Wong 作詞作曲)。映画と共に大ヒットし、以降の「笑傲江湖」のドラマにも使われた名曲だ。

 

ところが、歌い終わった直後、船は正派の一団に急襲される。正派の掌門たちは、邪派との交流を許さなかった。この武打シーンは如何にも胡金銓らしいカット割りで、重めのアクションが展開する。

 

邪派である日月神教教祖の娘、ヒロイン任盈盈(張敏 飾)と令狐沖との恋もそうなのだが、「正派は本当に正義で、邪派は本当に悪なのか?」というのが原作のテーマだ。このシーンはそのテーマを端的に表していて、印象深い。

 

ストーリーとしては、二人の遺品の楽譜を受け取った令狐沖が「葵花宝典」を狙う宦官の一団に付け狙われ(両方とも巻物だ)、日月神教も巻き込みながら最後は宦官たちと大立ち回りとなる。師父ももちろん宝典を狙っているが、そういえばこれを会得するには…って下りがなかったような気も。東方不敗はこの映画には登場しないので、割愛しても影響はないんだけれど。林平之に成りすまして令狐沖に近づく宦官を張學友が演じている。

 

映画は全体的にライティングも暗めで、空を飛ぶような派手なワイヤーワークはあまり用いられておらず、何というか、人の身体の重みを感じるようなアクションが主体。やっぱり程小東の演出というよりは胡金銓のテイストだ。だから他の2作に比べ、もっさりしている感じもするし、爽快さにはいささか欠ける部分もある。

 

それでも冒頭のあのシーンは今でも時々見たくなる。特に今、歴史的な対立を引きずって争っている世界を見ると、曲洋と劉正風のように、属する派閥ではなく相手を人として見られれば、もっと平和になるんじゃないかと思わずにいられない。

 

笑傲江湖II」については書きたいことがいろいろあるので、稿を改めます。

 

原題:笑傲江湖 Swordsman 日本語題名「スウォーズマン 剣士列伝」 1990年

原作:金庸笑傲江湖

導演:胡金銓・程小東・徐克・許鞍華・金揚樺・李惠民

編劇:黃鷹・梁耀明・戴富浩・林紀陶・劉大木・關文亮

武術指導:程小東・劉志豪・元華

監製:徐克

出演:許冠傑Samuel Hui Koon-Kit・葉童Cecilia Yip Tung

   張學友Jacky Cheung Hok-Yau・張敏Sharla Cheung Man

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

違和感が拭えない「大唐狄公案」(~最終集)

狄仁杰ものってこんな感じだったっけ?という疑問は砂漠の街に舞台が移ってから更に大きくなることに。…最後まで観るには観たんだけど。

今回は辛口でだいぶネタバレしています。ご注意ください。

----------------------------------------

「大唐狄公案」微博より 曹娘子が狄公より大きい(笑)

■「黒焔」とは何だったのか…

狄仁杰(周一围 飾)は辺境の砂漠の街・蘭坊に県令として赴任。村を襲う匪賊とか、街で幅を利かせるやくざ者とかが沢山いる処で起こる事件を解決しながら、律令を守らせ秩序を打ち立てようとする。

 

蘭坊の街の影の支配者が「黄金案」(黄金を載せた船の事件)で登場した「黒焔」だ。てっきり黒焔という名前の頭領が束ねる盗賊団だと思っていたけど違っていたようで、ドラマの中の台詞を総合すると、少年兵なども有する「テロ集団」みたいだ。個々の事件を繋ぐ大きな事件として、この黒焔との対決が描かれる…のだけど、お話が矛盾だらけ。

 

「沙漠追凶」に黒焔の一人として登場する刁小官(张若昀 飾)。確かに登場の仕方もカッコよく、狄仁杰との対話シーンも悪くない。

彼の語る「律令は100年しか歴史がないけど、恨みや報復の感情は人の歴史と同じくらい長い(だから律令なんかで抑えようがない)」(意訳)というのには一理あると思うが、その後やったこと(少年をけしかけて復讐相手を殺害させようとする)で台無しだ。人が人を殺すのを観て楽しむ快楽殺人者にしか見えない。…最後に自殺するに至っては、この人物が何を考えているのかさっぱり分からない。

 

黒焔本人(首領ってことなのか、地域のボスなのかも良く分からない)が登場する「雲雀案」は、事件をより残虐にしただけで刁小官の物語とほぼ同じような展開を辿る。しかも性格もそっくり。何で二人の人物に分けたのかよく分からない。犯人の属性については…悪い意味で予想外。そういえばお父さんの自死の話、どこ行っちゃったんだろ?

 

狄仁杰の方も矛盾だらけ。律令は厳格に守られなければならない、と言って辺境の砦の殉死した兵士たちの叛乱を報告するけど、蓬莱では自分の部下の軍からの脱走をなかったことにしてなかったっけ?そうかと思えば黒焔のメンバーの名簿を燃やしちゃったり、行動に一貫性がなさすぎる。

民衆に向かって「法律は大事です!守りましょう!」的なアジ演説をぶっている狄仁杰は何だか選挙中の政治家みたいだ。

 

■名探偵・曹娘子

狄仁杰の妻となる曹娘子(王丽坤 飾)、どうやら「雨師伝説」の原案の一話のみに登場するキャラクターのようだけれど、蘭坊が舞台になると、オリジナルキャラクターとしていきなり活躍し始める。観察力と推理力を発揮しはじめ、狄仁杰が何処から戻ってきたかを衣服の汚れから言い当てたり(ホームズがよくやるやつだ)狄仁杰の話から正解を導き出したり(ワトソン役が狄仁杰だ)。

 

パスティーシュを創作する時にオリジナルキャラクターはよくよく気をつけないと、原作の風味を損なってしまう。今作では部下の喬泰や馬栄が割を食うことに。

黒焔の正体は狄仁杰より早く見破り一人で説得に行っちゃうし(でも捕まる)、最終話に至っては「曹娘子の事件簿」に改名した方がいいんじゃないかと思うくらい、主役。狄仁杰、倒れちゃって活躍しないし、二人の部下は置いていかれて殆ど登場しない。代わりに遺体の検分まで曹娘子が大活躍。

…二話続けて捕まるに至っては、脚本の整合性をスタッフが誰も考えてなかったんじゃないかと疑いたくなる。

 

このドラマ、どうやら二季も既に撮り終わっているみたいだ。

昨今の話数制限で二季に分けたのかもしれないし、最終話は次の舞台(恐らくは都に戻る)に移るまでの閑話休題のつもりだったのかもしれないけれど、この話は「狄公案」とは呼べないんじゃ…。

 

豆瓣の評価は5.7…豆瓣の評価は正しいとは限らないとはいえ、視聴者が観たいものと制作者の見せたいものが大きくずれていることがよく分かる数字だ。

-------------------------

原題:大唐狄公案 Judge Dee‘s Mystery

原著:高罗佩(ロバート・ファン・ヒューリック)著「大唐狄公案

導演:李云亮 編劇:京榆 32集 2024年

出演: 周一围 Zhou Yi Wei 王丽坤 Claudia Wang Li Kun 张若昀 Zhang Ruo Yun

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

2024年2月視聴作品短評

「馭鮫記之與君初相識·恰似故人歸」(日本語題名:「馭鮫記」)~後編8集まで

「馭鮫記」豆瓣より 黒基調の迪丽热巴のこの衣装が好き

奇幻古装ロマンスもの。地仙を教化・訓練する御霊師と鮫族の青年との恋物語

中国ドラマで「鮫族」と言えば人魚のことで、ドラマを観る前はてっきり人魚の方が女性なのだと思い込んでいた。男性の鮫族って人魚の姿で描かれることがあまりないので、少しだけでも男主が人魚姿になるのは新鮮だ。

ドラマ内では人魚や鳥、猫と言った精霊は「地仙」で、基本奴婢のような扱いだ。「天仙」である御霊師も天仙の中では下っ端扱いで、その上に天仙を統括する仙府と天界があるという設定。大企業と下請けみたい。

御霊師の住んでいるのは谷なので、この手のドラマでありがちな「真っ白なセットに真っ白な衣装と照明」ではなく、自然に溢れ衣装も黒基調で目に優しい。

 

口八丁で人魚を手懐けようとする女主(迪丽热巴 飾)と疑うことを知らない人魚の男主(任嘉伦 飾)という組み合わせは新鮮だし、女主に厳しいのに仙府の使いとしてやってくる傍若無人な順德仙姬に頭の上がらない谷主や、女主のことを好きなのに立場上競わざるを得ない小谷主(肖顺尧 飾)を女主が出し抜く様は見ていて気持ちがいい。

天界も、いつもの偉そうな天帝ではなく、天帝になったばかりの心優しい少年、なのでストレスフリー。

ロマンスものとして観た場合、甘い要素が足りないと思う人は多いかもしれないけれど、個人的にはこれくらいで十分。

 

ただ、前編の後半から後編は、女主が捕らえられたり、死にかけていたりで動きがなくなる。おまけに舞台もキタキツネさんたちの居住地になっちゃって、セットが真っ白。…だんだん予算がなくなったんじゃないか、と疑心暗鬼になってしまう。

 

女主を守ろうとして閉じ込めてしまう男主の心情には正直全く寄り添えないので、早く状況が変わってほしいのだけど、後編に入ってサブカップルも増えた分話の進行がスローになりがちで、見続けるのがちょっと辛くなってきた。恋愛メインのドラマだからといって、登場人物全員に恋愛を絡ませなくてもいいんじゃないかと思うんだけど、どうなんだろう。

 

「玉骨遥」(日本語題名同じ)~16集まで

「玉骨遥」豆瓣より 肖战は文句なく綺麗

肖战主演の、こちらも奇幻古装ロマンスもの。

こちらは鳥や鮫族も人型だし、仙術が出てくるくらいで、架空歴史の古装ものと大差はない。幼い頃命を狙われた空桑の世子。仙人の修行地で密かに生き延び、修行を重ねて大きな力を得た彼と、幼い頃一度会っただけの世子を蘇らせたいと願い彼に弟子入りした郡主の愛の物語。

 

豪華なスタッフとキャスティングで、原作は「聽雪樓(聴雪楼 愛と復讐の剣客)」シリーズの滄月、監督は「倚天屠龍記」「燕雲台」の蒋家骏。女主は「清平楽(孤城閉 仁宗その愛と大義)」の公主・任敏、脇を固めるのは同じく「清平楽」の寵姫・王楚然、「雲之羽」でのあざといぶりっ子が印象的だった卢昱晓、「御賜小仵作(宮廷恋仕官 ただいま殿下と捜査中)」の公子・王子奇、「一念関山」でブレイクした方逸伦、と旬な若手が揃う。

 

ただ、どうも彼らを十分活かしきれていない気が。

そもそも師弟の恋愛は武侠ものでは禁忌だし、女主が男主を殺す、という予言もあるみたいで、悲恋を乗り越えられるかどうか、がお話のポイントなのでは、と思われる。…でも今のところ綺麗な師匠に弟子入りした女子の「ウキウキ弟子ライフ」って感じだ。

 

白い衣装の肖战は上品で美しい。でも復讐をするつもりもないし、野心もないのでとても淡々としている。女主は紅族の郡主だけど性格は普通の女の子、という設定のようだ。「清平楽」の時は公主という立場に生まれてしまった普通の女の子、というのは物語上重要な意味があったけれど、今回はあんまり意味がないような。

カップル感の薄さをカバーするかのように、二人のシーンは長い。これに加えてサブキャラの恋愛模様も割と丹念に描かれる一方、陰謀を企てる側の動きは鈍い。16集まで来て、ようやく男主の正体がバレたくらいだもん。

 

主人公カップルが気に入らなくても、サブのカップルが気にいれば見続けていられるけど、今回はそれもない。どれも見たことがあるような展開だし。

 

こちらはまだ先が長そうだけど、延々と続く起伏のない話に何処までついていけるか心配。そもそも週に2本だけ放送(しかもオンデマンドはないんだよね)っていうのは、ドラマを作る側は想定していないだろうし、本来なら毎日続けて観るものを無理やり引き延ばしている感じになってしまうのは致し方ない部分もある。

…これから面白くなるといいけど。

-----------------------------

1月から継続して観ていた「19層」は結局、意外な展開などは存在せず、思った通りの終わり方。2月は他に「大唐狄公案」と「愛情而巳」くらいしか観たいものがなくて困っていたら、月末になって「大理寺少卿游」「紫川」「唐人街探案」が降ってきて、いきなり忙しい。

うーん、どれから見よう。

 

原題:馭鮫記之與君初相識·恰似故人歸 驭鲛记之与君初相识·恰似故人归

   The Blue Whisper 2022年 22集+20集

原作:九鹭非香「馭鮫記」

編劇:李晶凌

導演:朱锐斌

出演:迪丽热巴Dilreba Dilmurat 任嘉伦Allen Ren Jia Lun 肖顺尧

 

原題:玉骨遥The Longest Promise 40集 2023年

原作:滄月「朱顏」 

編劇:吴迎盈

導演:蒋家骏 

出演:肖战 Xiāo Zhàn 任敏Ren Min 王楚然 王子奇 方逸伦Alen Fang Yi Lun

 

lienhua.hatenadiary.com

lienhua.hatenadiary.com

[blog:g:6653458415127307072:banner]

 

 

 

狄仁傑絡みの二つのドラマ「大唐狄公案」(~15集)&「唐朝詭事録」

官吏であり名探偵である狄仁傑を主役にした「大唐狄公案」。原作はロバート・ファン・ヒューリックの同名小説。狄仁傑のシリーズは今までに何度も映画・ドラマ化されてきたけれど、今度のドラマの狄仁傑は今までのイメージとだいぶ違う。

探案ものですのでネタバレはないと思いますが、ストーリーに触れています。

ご注意ください。

--------------------------

「大唐狄公案」微博より 周一围は文句なくカッコいい

実在した狄仁傑はどんな人?

狄仁傑は実在の人物(630-704)で、唐の武則天の時代の宰相だ。実際若い頃には大理寺少卿、刺史等を務め、1年に1万7千人の罪人を処理し、しかも冤罪を訴える者はいなかったという逸話を持つ。あの怖い武則天を度々諫め、朝廷で説き伏せることも度々あったという。武則天からは「国老」と呼ばれ、彼の死には涙を流して悲しんだらしい。

 

「狄仁傑」のイメージっていうと…

その人物をモデルにした推理小説が「狄公案」シリーズで、日本でも翻訳が出ているしいくつかは読んだのだけれど、割と普通の名探偵というか、小説の狄仁傑にはあまり際立った印象がない。ただ、中国の「名探偵」と言えば最初に名前が挙がる人物でもあり、沢山の映像作品が作られている。

 

映画や網路電影から受ける印象をまとめると

・卓越した観察力と推理力で、一見人の仕業と思えない不可思議な事件を解決

・武力の方はあんまりなかったり、まあまあだったり。代わりに大抵ワトソン役を

 兼ねる武力担当がいる

・事件には朝廷内の争いが影響していることが多い。武則天は最大の後援者であると

 同時に最大の敵

と、こんな感じだ。

 

「大唐狄公案」の狄仁傑

このドラマからは既存の狄仁傑のイメージを変えよう、という意思が感じられる。

 

物語は狄仁傑の仕官前から始まるのだけれど、初っ端から武力高めで大立ち回りもこなす。何せ周一围なので、立ち居振舞いがかっこいい。何やら仕官を渋っているようだけど、どうやら父親が自死した事件と関係があるらしい。皇后(名前は出ないけれど武則天だ)も登場し、その油断ならなさそうな言動も楽しい。

 

最初の事件は巻き込まれ型で、友人と酒を飲んでいたらその酒楼が火事になり、友人は焼け死んでしまう。この事件に皇后(鍾楚熙 飾)の印が盗まれた一件が絡み、真相は複雑な様相を呈してなかなか面白い。

 

ただその後、蓬莱に赴任(5話以降)すると雰囲気が変わる。市井での話は従者の二人が担当するので、狄仁傑は事件現場を検証する以外は屋敷に籠っているか、妓楼で琵琶聴きながらお酒飲んでいるかになってしまう。蓬莱は雨が降りしきる街なので、暗い雰囲気に拍車がかかる。

 

事件はいろいろ起こるのだが、怪奇要素、というか不可思議さは控えめ。妻を殺したと自首してくる男の話や、二つの刃物で殺された遺体の謎を解く話など、奇妙さよりむしろ人間ドラマに重きを置いているように見える。船が嵐に遭って云々…のようなスペクタクル要素もないわけではないけど、狄仁傑ものでやらなくても、という気もする。

 

残念なのはゲストが豪華で、「火サス」みたいな感じで簡単に犯人のめどが立ってしまう点。従者の喬泰(姬他 飾)と馬榮(凌孜 飾)、管家の洪亮(尤勇智 飾)はあんまりワトソン役になってくれないので、謎解きが犯人を前に語るパターンばかりになってしまい、爽快感が少ないのも悲しい。

 

…それと、皇后の影があんまりない。武則天との緊張関係や朝廷のいざこざが事件の影に透けて見えるところが狄仁傑もの醍醐味の一つと思えるだけに、都から離れるとこれがなくて淋しい。

今までの狄仁傑ものとは違い、彼の内面を描こう、という気概は感じられる。ただ、恋愛話以外の彼の内面がよく分からない…気がする。このドラマ、セリフの中国語が結構難しいので私に分からないだけなのかもしれないけど。

「唐朝詭事録」微博より 事件ごとに違うポスターが作られていてどれも素敵

 

「唐朝詭事録」の蘇無名

最近日本に上陸した「唐朝詭事録」は、正確には狄仁傑ものではなく、彼の最後の弟子・蘇無名が活躍するのだけど、こちらの方がずっと「狄仁傑もの」っぽい。

 

ドラマは朝廷の公主(武則天の娘)の引きで都にやってきた官吏・蘇無名(杨志刚 飾)と、名家の息子で金吾衛の盧凌風(杨旭文 飾)による古装探案もの。

事件は麻薬のような紅茶が街に出回るとか、宿泊者が次々失踪するとか、一見不可思議な事件ばかりだし、蘇無名は推理職は傑出しているものの、武力の方はてんでダメ。

武力はワトソン役でもある盧凌風が担っていて、二人の掛け合いやだんだん集まって来る仲間たちとのやり取りも楽しい。

事件の裏には朝廷での後継者争いがあって、そのとばっちりで二人とも地方に飛ばされたり、職を解かれたり復職したり。舞台も長安→地方→洛陽→長安と多彩。

 

狄仁傑もののDNAを素直に引き継ぎつつ、バディものの要素や旅ものの要素を上手く取り入れているし、幻想的で不可思議な事件の真相を二人が解き明かしていく過程はスピーディでテンポがいい。武打シーンもなかなかで爽快感も味わえ、観ていてとても楽しかった。

 

こちらは既に第二季の撮影が終了しているらしいので、配信が楽しみだ。

-------------------

狄仁傑は名探偵であると同時にヒーローでもあるので、扱いの匙加減が難しい。今までと同じだと飽きられるし、余りにイメージと違っても「これじゃない」と思われる。

既存のイメージをうまく生かしつつ新しい風を入れるっていうのは難しいものなんだなあ、と二つのドラマを観ていると思う。

 

「大唐狄公案」の方はまあ、まだ半分だし、ここからは砂漠の街に舞台が移って、张若昀演じる癖のあるヴィランが登場するみたいだから、それを観ればまた評価が変わるかも。

-----------------------

原題:大唐狄公案 Judge Dee‘s Mystery

原著:高罗佩(ロバート・ファン・ヒューリック)著「大唐狄公案

導演:李云亮 編劇:京榆 32集 2024年

出演: 周一围 Zhou Yi Wei 王丽坤 Claudia Wang Li Kun 张若昀

 

原題:唐朝詭事録(日本語題名同じ) 

           唐朝诡事录HORROR STORIES OF TANG DYNASTY

導演:柏杉 編劇:魏风华 36集 2023年

出演:杨志刚 Zhigang Yang 杨旭文 William Yan 郜思雯 

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com

 

 

記憶の中の香港映画6: 「最底辺の悲惨な生活」ではなく彼らの「家」を描いた秀作「籠民」

「阿麦従軍」の記事を書いた時に張之亮の名前を久々に見たので、今回はこの監督の代表作「籠民」について。

 

香港の最下層の宿「籠屋」。大きな部屋に所狭しと三段ベッドが並べられ、一つずつ鉄網で覆われている。一つのベッドが「一部屋」だ。そこに暮らす人々のことを「籠民(ろうみん)」と呼ぶ。

籠屋のビジュアルが余りにも強烈なのと「社会派映画」という言葉で誤解されがちだけど、この映画は籠屋の是非を問おうというのではない。この作品は「家」とは何か、を描いた映画だ。

ここから先ストーリーに関するネタバレが含まれます。ご注意ください。

-----------------------------

豆瓣より「籠民」ポスター このビジュアルはインパクト大

籠屋暮らしは案外楽し気?

確かに籠民の生活環境は悲惨だ。

大部屋の中にベッド以外の設備はない。掃除もされず、冷暖房は勿論ない不衛生な環境。トイレは尿壺だし、洗面台もないので中庭の水道をみんなで使う。私物はコンビニ袋に入れて、網にぶら下げられている。朝起きたら下の籠の住民が死体になってた…なんてことも珍しくないらしい。

 

ただこの人たち、割と楽しそうなのだ。

籠の中は狭いので、昼間は中庭で囲碁や将棋を打ったりして時間を潰す。籠を二段ぶち抜きにして、雑貨屋を営む者もいる。(「セブンイレブン」て名前だ(笑))

京劇の歌を歌っている人がいたり、お葬式では(イベントなので皆楽しそうだ)道士(と本人が名乗っている)が儀式を取り仕切り、元ミュージシャンらしき人がジャズを演奏したりする。フランス語の曲も流れてくるから、南ベトナムから逃れて人もいるのかもしれない。

99歳のお年寄りの誕生日には、Happy Birthdayを歌ったり、ちょっとした贈り物をあげたり。お互い名前も知らないのに、誕生日は知っている。彼らの緩やかな繋がり方は心地良さそうで、ちょっと羨ましくなる。

 

籠民の多くは不法移民として香港にやってきた人々で、稼ぐこともできなくなった老人が殆どだ。この映画では、一人ひとりがどんな人生を送ってきたか、細かいことは語られない。新しい住人が来ても訊かれるのは「広東語分かる?」だけ。それで何となく受け入れられてしまう。懐が深いのだ。

そうした住人たちを香港のベテラン俳優たちが演じている。管理人役の喬宏、谷峰、泰迪羅賓、劉洵。ここに転がり込んでくる刑務所を出たばかりのチンピラ・毛仔はBeyondの黃家駒だ。

 

ドキュメンタリーの手法を取り入れた映像

映画はニュース映像やドキュメンタリーのようなタッチで籠屋の人々を描いていく。この映画が作られたのは1992年、九龍城が解体されたのが93-94年にかけてだから、こうした光景は実際にも繰り広げられただろう。住人の古いTVに映る映像は実写も混じっていそうだけど区別がつかない。

 

台詞も当時の香港映画としては珍しい現場同録。字幕に反映されていないのでよく分からないが下品な台詞も多くて、香港での公開当時、三級片(ポルノ映画と同じカテゴリ)として公開されたのだそうだ。それでもこの映画はその年の香港電影金像獎(香港で最も権威ある映画賞)の最佳電影、最佳導演、最佳編劇と賞を総なめした。

豆瓣より「籠民」ポスター 如何にも悲惨げだけどこれは警察突入時の表情

「籠屋」は人生最後の「家」

最底辺だがそれなりに暮らしていた籠屋の住人。再開発の話が持ち上がり、選挙の争点になったことで議員やらTV局やらが押し掛けるようになり、その悲惨な暮らしぶりを喧伝する。

唯一の若者である毛仔は議員から甘い話を持ち掛けられ、退去書類に判を押させる手伝いをするようになる。

強制立ち退きの前日は中秋節。中華圏では家族で過ごすお祭りだ。住民たちは中庭で賑やかにパーティを繰り広げ、大騒ぎ。身寄りも頼れる人もいない彼らにとって、互いが家族であり、ここが家なのだ。

 

パーティが終わるとそれぞれの籠に戻って、彼らは立て籠る。籠の内側から鍵をかけ、自らの体に鎖を巻いて。警察が突入し、籠に入ったままの彼らを引きずり出す様は、何とも辛い。

 

この映画を観たのはずいぶん前のことですっかり忘れていたけど、物語には続きがあって、そこには小さな希望がある。ちょっと青臭い気もするけど(撮影当時張之亮は30代前半だ)、いいエンドだ。

--------------------------------------

原題:籠民 Cageman (日本語題名:籠民(ろうみん))  1992年

導演・監製:張之亮Jacob Cheung Chi-Leung

編劇:黃仁逵 錢耀恆 吳滄洲 張之亮

出演:李名煬 喬宏 谷峰 泰迪羅賓 胡楓 黃家駒 Wong Ka-Kui

 

lienhua.hatenadiary.com

lienhua.hatenadiary.com

…いろいろ惜しい気がする「阿麦従軍」

「阿麦従軍」観終わった…ぶつぶつ言いながら。

男装して従軍する女性、と聞くと「ムーラン」を思い出すけれど、雰囲気はだいぶ違う。全体にラブロマンス要素多め、戦闘少な目なので、戦場での活躍や爽快なアクションを期待すると肩透かしを食らう。登場人物の行動が???になりがちで、その理由は最終35話36話を観ないと分からない。

…しかも観たからといって、あまり納得のいくものではなかったり。

ここから先、最終話及びそれまでのストーリーに関するネタバレが含まれ、しかもだいぶ辛口です。構わないという方のみどうそ。

------------------------------

「阿麦従軍」微博より 女主が凛々しくて期待したんだけど…

阿麦の造形は悪くないけど…

視聴を途中で投げ出さなかったのは阿麦の従軍の理由でもある両親殺害の真相が最後まで明かされなかったからだ。

 

主人公の阿麦は凛々しく漢前で好感が持てた。主役の阿麦を演じるのは张天爱、「雪中悍刀行」でクールビューティな白衣の剣客を演じていた女優さんだ。あの時も凛々しかったけれど、今回はもっと泥臭い男装。男性の衣装さえ着ていれば「男装」とみなされることの多い中国ドラマの中ではかなり本格的。多くの場面で鎧姿なのだけれど、身体に合っていて違和感がない。

 

幼い頃、元々軍の高官だった両親を惨殺された阿麦は、男のふりをして一人で生きてきた。口八丁で世間を渡りながら仇である許婚約者の陳起の行方を捜しており、彼が北漠の将軍となっていることを知り従軍する。

 

彼女を取り巻く男性は全部で四人。先の太子(現南夏帝の兄)の遺児、商易之。同じ軍の騎馬隊で兄貴分の唐紹義(高戈 飾)、敵軍の将だけど阿麦の復讐に力を貸そうとする常钰青(王瑞昌 飾)、阿麦の両親を殺して出奔、北漠の将軍になっている陳起(孙绍龙 飾)。

原作では彼らに対する阿麦の思いは揺れ動き、必ずしも一人に決めることはないようだけれど、ドラマでは商易之と両想いだ。

 

阿麦が従軍するのは10集を過ぎてから。全員分の出会いを描いたり、商易之とのロマンスを描いたりするのに忙しく、戦場での戦術や、戦闘状況の描写は少ない。結果、阿麦がどのくらい優秀な軍人なのか分からず、ただ自分勝手に動いているのに出世したように見える。

 

軍隊での活躍は想像していたより遥かに少なく、23集辺りからは戦場を離れ都が舞台。

北漠との戦いで大功を上げた商易之と阿麦を待っていたのは次期皇帝の座を巡っての太子と二皇子の争い。阿麦は両親が実は自国内の陰謀で殺害されたことを知り、犯人探しに乗り出す。…悲しいことに、この後阿麦が戦場に戻る場面は、ラスト近くになるまでない。

いろいろあって(後継者争いの描写も冗長)、太子と二皇子は亡くなり、皇帝も商易之に後を託して自害(でいいんだよね?病気?どっち?)。商易之が南夏帝の座に。商易之は朝廷の力関係の強化の為やむなく朝廷を牛耳る林相の娘を娶るが、阿麦を諦められず貴妃として娶り、後宮に閉じ込めようとするが失敗。そこに再び北漠軍が攻めてきて、阿麦は元帥職に復帰。

 

ラストとなる北漠との戦闘(35集・36集)で、商易之が陳起と手を結んでおり、阿麦と近しい唐紹義と常钰青の殺害を企み、南夏軍の敗北で戦いを手打ちにする予定だったことが発覚。唐紹義は戦死、陳起は阿麦の手にかかって死亡。同時に阿麦の両親の死は「北漠との10年の和平」の代価だったことも判明。阿麦は商易之と訣別する。

 

問題点はてんこ盛り

観ていて感じたのは以下の通り。

ラブロマンスの描写に多くの時間を取り過ぎて戦場の描写や、そもそもこの国(南夏)を巡る周辺国の状況などが描かれない。主人公も、元帥にまで出世するほどの活躍をしたように感じられない。

②舞台が都に移って以降、主人公・阿麦が活躍しないどころか隅に追いやられて存在感すら希薄。男主が主人公、というより宮廷内の陰謀話が中心だが、冗長。

③主な人物の心理描写、或いは心境の変化を象徴するようなカット・シーンがないので、何を考えているのか視聴者に伝わらず、特に男主はただの能天気な人に見える。

 

商易之の変化を描ききれていない

表面は善良なボンボンのまま、平気で人を駒として扱うようになる、というのを描きたかったのかもしれないけど、唯のボンボンにしか見えない。何だかぼおっとしているうちに軍の総司令官になり、政略結婚は嫌だと駄々をこねているうちに皇帝になって政略結婚し、ちょっと身勝手なまま阿麦を後宮に閉じ込めようとする、そんな感じ。

本来なら、第七隊を城下に入れない辺りで最初の変化があり(兵士を駒として扱い見捨てるようになる)、阿麦の両親の死の真相を知った時にも変化がある(無駄な戦闘をさせつつ裏で敵国と交渉、民や軍人の命で和平期間を買うことを是とする)はずだけど、ドラマを観ている限りは変化したように見えない。

 

皇帝になって以降、仮病の朝臣に死を申し付ける辺りでようやく「変わった」ことが分かるけれど、あまり印象に残らない。…もっとベタでもいいから阿麦以外の人に対する変化が描かれていれば印象も違ったかも。ラストでは粗相した太監をすぐに斬首しちゃうくらい残酷になっているらしいけれど、セリフでしか分からない。

 

確かににこにこしながら、前帝と同じことをするようになったら怖いけれど、そもそも何をしているかが35話になるまで伏せられているから、視聴者に伝わらないし、凄味も感じない。ロマンスものとしてこの物語を描くのなら、もう少し立体感のある人間像にしてあげないと、観ている方も同情しづらい。ラストの別れもただ愛想をつかされたみたいに見えてしまう。

 

割を食った陳起

この人も阿麦を取り巻く男性の一人なんだけど登場シーンも少なく、しかも幼い頃の阿麦との幸せな想い出を何度も回想するだけで、心情描写も全然ない。戦場では戦闘を「もう少し待て」と言って止めているだけの印象なので、正直無能に見える。

だけど最終2話に出てくる前帝の話を聞くと、この人が北漠と南夏の和平の為に果たした役割は少なくない気がする。

 

暗黙の裡に10年の不可侵条約を結ぶために阿麦の両親を殺害する必要があった時、実行犯としてこの人に白羽の矢が立ったのは彼が北漠人だったからで、恐らくは韓将軍の首をもって北漠に戻る→その功績で北漠軍で出世、10年の間に北漠軍の動向を決められる地位に→10年が過ぎて以降、北漠との暗黙のやりとり(ちょっと勝たせて矛を収めさせるとか)を担う、というのが与えられた役割だったのではないだろうか。

だから、次の南夏帝である商易之とも手を結ぶし、戦闘において率先しては動かない。

 

恐らくは阿麦が戦功をあげた豫洲での戦いも、豫洲城を北漠軍に与えて手締めの予定だったんだろう。ただ、ここで阿麦たちが大勝してしまったために石将軍を人身御供にして北漠軍に矛を収めてもらうことになったのではないだろうか。

陳起としては全ては阿麦の命と彼女の暮らす南夏を守る為で、そう考えると何度も同じ回想を繰り返すのではなく、彼の複雑な胸中を思わせる心理描写か、象徴的なカットくらい入れてあげてもよかったんじゃないだろうか。

 

唐绍義と常钰青

上の二人の描き方が上手くいっていれば、彼らと対照的な、唐紹義と常钰青のキャラクターももっと映えたと思う。原作は唐紹義は死んだかどうかはっきりせず、阿麦は常钰青の許へ行ったのか、唐紹義を捜すための旅に出たのかはっきりしないマルチエンドらしい。

 

ドラマの唐紹義はいい大哥ではあるけど阿麦に恋愛感情を持っているように見えない。常钰青はアナザーエンドで結ばれる展開もあったようだけど、敵国の将軍なんだし、彼が軍を辞めたいと思っている話でも入れないと結ばれるのは難しそう。

 

映画版が見たい

作品について調べているうち、同じ原作で映画も作られていることが分かった。主人公・阿麦はドラマと同じ张天爱。男性陣は黄晓明(恐らく商易之役)、陈晓(陳起役)だそうで、配役も豪華。監督は香港の名匠・张之亮(「墨攻」)。

配役の感じからすると陳起の役割が大きくなっているのかも。正直、ドラマ版よりこちらを見てみたい。でも撮影終了が2019年でドラマ版より2年も早く、しかも今まで公開されていない処を見ると、何らかの出来事で映画が没→阿麦役の张天爱が良かったので、彼女続投でドラマとして作り直した…のかも。

----------------------------

ドラマ版は総じて、役者さんが悪いと言うより演出と構成の技量不足、という感じがする。セットや衣装の様子から、予算もそんなになかったものと思われるけど、戦場シーン以外の部分はライティングと撮影の美しさで予算不足をカバーしている。(戦場シーンだけは論外。いくらお金がなくてももっとやりようはあったはず)

要らない話をあちこちカットして、その分必要な描写を入れてあげたら、ロマンス中心になるにしろ、もう少し面白くなったのになあ。

 

原題:阿麦従軍 阿麦从军 Fighting for Love

原作:鲜橙「阿麦从军」 導演:田少波 编劇:刘成龙、杨宏伟 2024年 36集

出演:张天爱 Crystal Zhang Tian'ai 张昊唯Zhang Haowei 王瑞昌Wang Ruichang

高戈 Gao Ge

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com