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中国ドラマと香港映画について書いています 記事についてはINDEXをご参照ください

「顕微鏡下的大明」(「天地に問う~Under the Microscope~」) 分かりにくい?ところを整理してみた

「顕微鏡下的大明」がちゃんとした日本語字幕で見られる。とても嬉しい。

というのもこのドラマ、そもそも税金の話でとっつきにくい上に、表面的な「人頭絹布税」の不公平という話の裏にあるもっと大きな問題、登場するお役人たちそれぞれの立場や考え、最後は数学の問題にまで話が及び、複雑だ。

ドラマ自体は地味な題材にも関わらずスリリングで面白いのに、関係者の地位や、何が問題なのかをちゃんと把握しておかないと後々混乱する。

 

一周目でよく分からなくて見直したり調べたりしたことをピックアップしてみた。

豆瓣より ちょっと楽し気なポスター

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そもそも帥家默(张若昀 飾)は何を訴えたのか?

中国語字幕で観ていた時、意外に分かりづらかったのが、これ。(私だけ?)税の名前が長い上、きちんと語られるのが第三話だけだし(最終盤にもう一度語られるけど)

 

要は「本来金安府全体で払うべき『人頭絹布税』(中国語字幕では「人丁丝绢税」)年3530両を仁華県が他の7つの県の分まで負担している。これは不公正である」ということ。

この3530両はそもそも成化9年に倭寇との戦のための臨時増税として設けられ、そのまま定着してしまったらしいが、肝心の成化12年~15年の帳簿が紛失していて、何故定着してしまったのか、何故それを仁華県だけが負うことになったのか、が分からない。

 

ドラマは、この疑問をはっきりさせる、ただそれだけの物語だとも言えるけれど、なかなか大変だ。この不公平を是正すると何が大変なのかは、ドラマの後半ではっきりしてくる。

 

時代背景

今、何年なの?というのがドラマでははっきり分からない。ただ第三話で訟師・程仁清(王阳 飾)が「帥家默の父親の死亡したのが嘉靖38年で、事件は20年前」と言っているので、ドラマの時期が万歴8年(1580年)辺りであることが分かる。

 

万歴年間の皇帝は明の14代・神宗。9歳で即位。明はそもそも汚職や不正がはびこり財政もガタガタだった時代だけど、即位直後は有能な宰相・張居正の手腕で財政はだいぶ持ち直したらしい。不要な官職の廃止、全国的な検地、無用な公共事業の廃止などで大きな成果を上げた、とのこと。皇帝と宰相の仲は相当悪かったらしく(宰相は前帝の時代からの高官で、力関係も宰相の方が上だった)宰相は死後に死罪扱いとなり一族は流刑、財産没収の憂き目にあうことに。

 

ただしドラマの舞台である金安府では、100年以上前の税がそのまま残されていることを見ると、まだ改革は行われていないようだ。

 

場所はどこ?

仁華府は架空の地名らしい。ネットの情報ではモデルは歙县、現在の安徽省辺りとのこと。

 

登場人物の肩書とか中央との距離とか

ドラマを観ていて登場する官吏たちの肩書・立ち位置が分かりづらい、とも思った。

テロップ短いんだもん。覚えられん。

 

生員:

主人公・帥家默の親友、豐寶玉(费启鸣 飾)と訟師・程仁清は生員(郷士の受験資格を持つ人)だ。生員は結構沢山いたらしい。郷士に合格すれば地方官僚への路が開かれるので、生員は官僚試験に挑戦中、もしくは官僚になり損ねた人、ということでもある。ちなみに訟師は弁護士みたいな役割だけど、地位はあまり高くないようだ。

知県:

県の長官。第三話に登場した知県は三人。

同陽知県・劉景(张帆 飾)はかつて神童と呼ばれ、自身も数学に強い。工部にいたこともあるということは、地方に飛ばされた中央官僚、ってことだ。

攬溪知県・毛攀鳳(翟小兴 飾)は知力より武力、ってタイプだ。攬溪県は訟師・程仁清や鄉紳・范淵(吴刚 飾)の住んでいるところで、毛知県は彼らとも近しい。

立ち居振舞から見ると、ずっと地元にいる感じの地方官僚。

仁華県の方懋珍(侯岩松 飾)は、地方のたたき上げの役人で日和見主義者。波風立てないのが一番だと思っている。仁華県には金安府もあるので(場所はすぐ隣)知府にも他の知県にも良い顔をしないといけなくて、大変そう。

主簿:

万成県からは主簿・任意(钱漪 飾)がやってきていた。万成県は貧しすぎて知県のなり手がいないので、代わりってことらしい。主簿は帳簿を司るので経理・財務・庶務の担当者。清廉潔白な地方のたたき上げの役人。

知府:

府は、県より上位の区割で、金安府には7つの県が含まれている。当然、知県より

知府の方が偉い、はず。ただ黃知府(高亚麟 飾)は、中央から派遣されてきたばかり。知県たちより年齢も若い。何で地方に赴任することになったのかは分からないけど、本人は功績を積んで早く中央に戻りたいだろう。

通判:

府の財政を司る。金安府の宋通判(房子斌 飾)、税金の話はこの人の担当。

鄉紳:

地方の名士。程仁清の雇い主の鄉紳・范淵は朝廷で御史(監察官?)を務めていた。

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第三話で登場した官吏たちはこの後も話の中心になる。このドラマでは主人公はあくまで狂言回しで、むしろ「正道」を貫こうとする者が現れた時の周りの人々の反応が物語の核だ。

 

知県たちは主人公に一様に反対しているように見えるけれど、実はそれぞれの立場によって微妙に主人公に対する態度が違う。同じようにことなかれ主義でも、その理由は様々だ。

味方に思える知府にしても本当に唯不正を正したいのか、他の思惑があるのかは分からない。

 

彼らの反応、というか振る舞いは今の役人にも通ずるものが…というよりお役人って、国と時代が違っても考えることってあんまり変わらないんだなあ。誰が味方で誰が敵なのか、簡単に割り切れない辺りも、凄くリアルだ。

 

上手な役者さんが揃っているので、二周目ともなると細かな視線や仕草にも意味があったのだと気づかされる。一周目でよく分からなかった部分も実はあるので、楽しみにしたい。

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原題:显微镜下的大明之丝绢案 Under The Microscope 2023年

導演:潘安子「重启之极海听雷」

原作:马伯庸「风起陇西」「长安十二时辰」

編劇:马伯庸・周荣扬

主演:张若昀 王阳 费启鸣 吴刚

 

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「春晩」ほか 春節特別番組を真面目に見てみた

旧正月の大晦日・元日は中国の各局とも特番で編成される。大晦日は日本でいえば「紅白」にあたるCCTVの「春晩」、元日の夜は衛星放送各局の特番が放送される。歌手にとっては特に忙しい季節と言っていい。

今年は時間に余裕があったので、視聴可能なものをなるべくたくさん観てみることにした。

「東方衛視」微博より 春節晩会のセット…キラッキラ



年末の特番はコンサート形式だけど、春節は「小品」と呼ばれるコント、「相声」という漫才のようなもの、ダンスなどが含まれる総合バラエティだ。家族揃って食事したりおしゃべりしながら見る、というのが定番なのだろう。会場も大抵屋内、手前のテーブルには招待客が座っている。番組の形式は「春晩」も各局の番組もあまり変わらない印象だ。

 

①2024湖南衛視 芒果TV 春節聰歓晩会 

フライング、というか春節休暇前の2月3日に放送された春節特番。番組構成は「歌」の合間にコントや漫才が挟まるスタンダードな作り。出演者は张艺兴、华晨宇、张杰、时代少年团、周深…と若い人向けなキャスティングだ。でも途中のコントや漫才が長くて、若い人が最後まで観てくれたかどうかは疑問。ステージは旧正月「紅」というより局のイメージカラーのオレンジで覆われている。

 

②2024 中国網路視聴年度盛典

①と同じく2月3日に放送。中国の動画配信プラットフォームが共同で作る年越し番組。

趣旨は「僕たち、健全な青少年育成に寄与する番組を配信してます」ということらしく、お笑い要素は薄目。歌の間には、亡くなった兵士の魂が実家に戻ってきて…等、シリアスな内容のお芝居が挟まれたりして、お客さんも涙していた。

番組は各プラットフォーム毎に区割りされている。勝訊、優酷、愛奇芸といったメインに加え抖音やBiliBiliなんかも参加。

歌は「出演俳優が自分のドラマの主題歌を歌う」というのがコンセプトのようで、冒頭
で挨拶しラストを締めた肖战をはじめ、白宇、白鹿、成毅、雷佳音、周深、吴京、秦昊等豪華。

セットも新年らしからぬ落ち着いた色合いで、配信に関わるスタッフのクオリティの高さが感じられて面白かった。

 

③春晩 CCTV 春節総歓晩会2024

旧正月の大晦日、4時間半以上にわたって全国放送される大型番組。物凄く力の入った番組でこれに出場することは歌手にとっても夢、らしい。事前に5回も歌手本人を呼んでのリハーサルがあるらしいし、選定基準も単に人気だけではなさそうで、いろいろ厳しそう。OAから数日過ぎても誰の出番が少なかったとか、誰が目立ちすぎとかの話題で微博が盛り上がっているのを見ると、この番組に出演するための競争は熾烈なんだろうと想像される。

 

会場は基本赤と金。椅子まで赤だし、出演者も多くが赤い衣装を着ているので全体的に真っ赤。客電も煌々と照っているし、バックダンサーも大量なので舞台の隅々まで明るい。…目が痛い。

 

なるべくたくさんの歌手を出演させようという意図からか、デュエットやグループでの歌唱が多い。歌手それぞれ、ダンサー、背景、観客をそれぞれ映さねばならないのでカメラ割がやたら細かく、各カット2秒ないうちに切り替わる目まぐるしさ。

特に地方に設けられたサテライトステージでは、ステージが1つではなくてタワーの上と下に分かれていたりして、目まぐるしさが倍増。空にはドローンが飛び、再会する親子(観客を装っているけど多分役者さん)の模様等もインサートされる。コーナーそのものがドラマ仕立て、というかストーリーがあるのだ。ただ詰め込み過ぎで正直、何が何やらわからない。

一方、漫才や手品といった出し物はやたら冗長で、勿論こちらが中国語が分からないせいもあるけれど、正直言うと退屈。

 

出演者は豪華絢爛だけど、ピンで歌っていたのは周深と毛不易くらいかも。

舞踊系は妙な演出が少ないので、一番見応えがあった。特に「詠春」。功夫の所作を舞踏にしていて、シンプルかつ美しかった。

最後は毎度出演歌手全員で「難忘今宵」を歌うのがお約束。

 

CCTV 第二届 中国電視劇年度盛典

ここからは元旦の番組だ。CCTVはLiveでなく、ドラマ関連の授賞式をやっていた。ドラマといっても恐らくは地上波(多分CCTVのみ)で放送されたものに限っているみたいで、知っているドラマが少ない。知っているのは「繁花」と「三体」「慢長的季節」「狂飆」くらいか。

授賞式なので別に面白くはないのだけど、「三体」で音楽賞をもらった陳雪燃のパフォーマンスがあってちょっと得した気分。それと「繁花」で爺叔を演じた游本昌のスピーチがなかなか感動的だった。…ここにも肖战の姿が。

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以下、皆時間が重なっているので、いろいろザッピングしながらの視聴。「春晩」の小型版みたいな番組も多いけれど、雑技団だけ、漫才だけ等の特番を組む局もあった。

ただ「春晩」と違って、生放送ではないのかもしれない。出演者が被っている番組もあるし。

 

⑤東方衛視 春節晩会

上海の局なので、出演者はそれなりに豪華。かなり長い時間やっていた。

番組としてはコントが長いなあ、という印象。出演者で印象に残ったのは任賢齊と周深くらい。あと虞书欣が可愛くて色っぽい衣装で出演していた。

 

⑥北京衛視 春節総歓晩会

一番出演者が豪華だった気がする。こちらにも肖战、周深、虞书欣が出てた。地域が違うから、被ったことにならない、のかな?セットは昨日の「春晩」をそのまま使っている(わけではないだろうが)かのような赤一色。

 

⑦2024 陜西衛視 丝路嘉年华暨丝路春晚

陜西衛視は西安辺りの放送局らしい。だからなのか、民族音楽よりのバンドや歌手ばかりを集めたコンサート形式の特番で、これが一番聴き応えがあった。曲調が好みというのもあるけど、セット全体がアースカラーで目に優しい(笑)。

 

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それにしても、どうして中国の放送局は演目表を直前にしか出さないのだろう。今回はほぼ全部当日になってからだった。それまで出演者も(大抵の番組は)発表しないのが不思議。(更に不思議なのはカウントダウンはすることだ。)さっさと発表して煽った方が視聴率、上がると思うんだけど。

 

春節特番の全体の印象は、若い人はあんまり見ないだろうな…、というもの。お爺ちゃんが見ているから、仕方なく付き合っている孫の姿が目に浮かぶ。歌手にしても「明るい歌」「おめでたい歌」を歌うことになるので、年末のような本気のパフォーマンスではなく、番組の雰囲気に合わせた観がある。観衆含めマスゲームっぽい側面もあり、面白さから言えば当然年末の方が面白い。

 

ただこういう番組は別の意義がある。

年末に「紅白歌合戦」を見ながら残業していて「一体何やってるんだろ…早く実家に帰りたい」としみじみ思ったことがあった。普段はそんなこと考えもしないのに。

番組は風物詩というか正月そのものの一部で、TVから流れてくるだけでその雰囲気を運んでくる。「春晩」もそうしたものなんだろう。

 

何にせよ、旧正月前後はテレビ局の人も出演者も大変そうだ。お疲れ様でした。

 

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香港への挽歌「燈火闌珊」(「ネオンは消えず」)

香港のネオンの9割が消えたそうだ。

冒頭で流れるナレーションとすっかり暗くなった香港の街並みを見るだけで、心が痛んだ。

 

街が変わっていくことは仕方がない。

ただ、あのちょっとけばけばしい、過剰なほどキラキラした明かりが好きだった。老舗の高級店でも、その雰囲気に似つかわしくないデカいネオンを飾っていたりして、一つ一つ眺めながら、夜になっても一向に暗くならない香港の通りを歩くのは楽しかった。

ここから先はストーリーに触れています。ご注意ください。

「豆瓣」より 香港版正式ポスター 消えてしまったチューブネオンが美しい

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映画は亡くなったネオン職人の妻が、夫が残した仕事を弟子と共にやり遂げようとする物語だ。法律が変わり、大きなネオン看板は規制の対象になった。夫の作品も、既に殆どが撤去されてしまっている。その中で二人は、夫のやり残した「仕事」を捜しだし復元しようとする。

張艾嘉、任達華という二人の名優が好演しているにも関わらず、語り口は少々拙い。あんなに夫を愛していたのに、弟子がいたことや、工房がかなりの借金を背負っていたことを知らないとか、娘との関係も分かったようで分からない等、説明不足の部分も感じられる。

 

それでもネオンに関することはよく分かるようにできている。材料がガラスチューブなこと(近年ではグラスファイバー製も多かったらしい)。ガラスと言えば大きな窯で加工して、と思いがちだけれど、香港のネオンチューブは、割と小さなバーナーで焼いて、チューブを曲げていく。一つ一つ、思う角度に曲げたら次を…という具合であの複雑な漢字を描くのだ。ネオンに字体があって(考えてみれば当たり前だけど)、専門の書家がいることも初めて知った。

 

作業がどのくらい難しいのか、一人前になることがどの程度大変なのかはよく分からないけれど、とても専門的な技術が必要な仕事なのだ。そう思ってポスターに使われているネオンを改めて見ると、細かな細工の一つ一つが貴重なのだと思い至る。

 

映画の中に登場するネオンは、どれもとても美しく撮影されている。だからそれだけでもこの映画を観る価値があると思う。欲を言えばもっとたくさんの、失われたネオンたちを見せてほしかった。それと公式HPにも書かれている通り、エンドロールまで観てほしい。

そこに、少しの慰めと希望が込められている。

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原題:燈火闌珊 A Light Never Goes Out 2022年

日本語タイトル:ネオンは消えず

監督:曾憲寧 Anastasia Tsang Hing Ning 編劇:曾憲寧・蔡素文

出演:張艾嘉 Sylvia Chang Ai-Chia 任達華 Simon Yam Tat-Wah

 

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ケレン味が楽しい「雲之羽」

ストーリー及びラストに触れています。ご注意ください。

「雲之羽」微博より 雪重子、可愛い上によく動く

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いつか分からない時代、山奥で対立する二つの門派。一つの門派の郷は毒霧に包まれ秘術を隠し持ち、郷の裏には更に後山が。もう一つの門派は秘術を狙って女ばかりの暗殺者集団を養成、郷に送り込もうと画策する…。

 

舞台設定だけでもケレン味たっぷり。最初からナイトシーンが多く、霧と相まって陰惨で重苦しい雰囲気で始まるドラマだけれど、テンポは速く、謎が謎を呼ぶ展開に目が離せない。

 

執刃(一門の長)の次男坊、宮子羽(張凌赫 飾)は武芸の腕も大したことない遊び人だけれど、父と兄が惨殺されたことにより、一気に執刃候補に。もう一人の執刃候補・宮尚角(丞磊 飾)としのぎを削ることに。

一方、秘術を狙う敵門派から花嫁候補に紛れて忍び込んだ暗殺者は雲為衫(虞書欣 飾)と上官淺(盧昱曉 飾)。

 

正派と邪派、隠れ里、秘術、秘伝の奥義(技を繰り出すとででーんと名前が出る。ダサい演出なんだけど、好き)、暗殺者と裏切り者。こういう話につきもののアイテムは全部揃っていて楽しい。

 

二転三転する物語

「雲之羽」はそもそも暗殺をもくろむ側と防ぐ側の物語なので、話の最後で騙す側と騙される側がまるっと入れ替わるような展開が続く。

同じ側だからと言って仲が良いわけでは決してなく、互いを騙したり、陥れたり。でも手を組まないといけない場面もそれぞれあって、立場が激しく入れ変わる。それに加え、かつて郷に送り込まれた暗殺者や、毒使いの宮尚角の弟、長老たちの思惑が絡む。

 

監督で原作者の郭敬明(いろいろあった後の復帰なのでテロップは顾晓声名義)、この人自体は好き嫌いが分かれそうだとは思う。私も「幻城」は奇妙な西洋っぽさと白のベタ明かりが辛くて、何度トライしてもラストまでたどり着けない。でもあの時より、演出は格段に上手になっていると思うし、何より全体が短いのでダレない。

ストーリーも1つ一つのエピソードは正直どこかで見た気がするものも多い。ただ、組み合わせ方が上手いんだと思う。

主人公はどこか「くノ一」を思わせる雰囲気と装束で、それも好みだった。ちなみに黒地に金の主人公の衣装は映画「晴雅集」(「陰陽師 とこしえの夢」)の公主の衣装にそっくりだと思う。

 

つい次の話まで観たくなる「クリフハンガー」の巧さ

クリフハンガー」は主人公が危機的状況に陥って、視聴者の次回視聴意欲をそそる構成の手法だけれど、中国ドラマはえげつないくらいにこの手法を使う。

日本のドラマももちろんクリフハンガーは使うのだけれど、最終盤に新しい情報が追加され「あれ、まだ何かあるの?」と思わせるようなフックであることが殆ど。一週間の間に考察する材料を与えて、視聴のモチベを保たせるために使われ、中国ドラマの最後にまるまる状況がひっくり返ったりするのとは少し異なる。中国の場合は配信で2話一度に、とか毎日帯で放送、ということになるので、純粋に面白さを継続するようなクリフハンガーであることが多い。

中国ドラマの金字塔「瑯琊榜」では必ず最終盤に何等かの事件が起こり、どうなるか気になりすぎて止め時が分からなかった(笑)。

 

「雲之羽」の基本は女暗殺者の潜入ストーリーなのだけれど、彼女たちの台詞、特に身の上話は何処までが本当で何処からが嘘なのか分からない。ずっと前に潜入し、行方不明のままだった暗殺者も誰なのか、主人公の敵なのか味方なのか分からない。謎は解決したと思ったら次の謎が提示され、真相が見えてこない。ストーリーの進行が速いのと、一話が60分越えの長尺なので、視聴者が翻弄されるのには十分だと思う。ま、メインの男たちが割と簡単な色仕掛けに引っかかっちゃうのは、ここが孤立した山里だから仕方ない…。

 

虞書欣を見直した

もう一つこのドラマの魅力を挙げるとすれば、主人公雲為衫を演じた虞書欣の頑張りだろう。所謂「ぶりっ子」的な芝居が上手な虞书欣だけれど、今回はにこりともせず、睨んだ時の三白眼が怖い。それでいて男主の宮子羽の言葉に心動かされた時には微妙に表情が和らぐのだ。正直彼女のことをこんな演技ができる役者さんだと思っていなかったので、ホントごめんなさい、という感じ。アクションも気迫に満ちていて、大変かっこ良かった。

周りを固める俳優さんたちは若い人(綺麗なお兄さんたち)が多い。

皆しっかり芝居もアクションもこなしていて感心する。特に雪重子!子どもなのにすごくアクション頑張っていたし、何より可愛い。

サブカップルの物語も既視感はあるもののよく出来ていて、宮子羽の侍衛・金繁(孫晨竣 飾)と大小姐(金靖 飾)のカップルは重たい物語の中での癒しだった。案外いい人なんだ、大小姐

 

ラストは笑って許してあげたいかも

余りに「第2シーズンやりたいです」という制作側の意図が強すぎて視聴者の不評を買ったみたいだけれど、アメリカのドラマでも割とよくある、こういうの。で、第2シーズンが打ち切りだったりして「あれれ?」となる。ただ、回収されていない伏線や謎も多いことだし、できれば次のシーズンも作ってもらいたい。映画の「晴雅集」は続編(ポスターも作られてたし、予告編もあった。恐らく撮影まで終わっていたと思う)の予定があったにもかかわらず、一本目が公開中止になったために日の目を見なかった。…観たかったけれど、諸般の事情で無理だろう。

それを考えると、あの終わり方は「絶対に続編作るんだ!」という硬い意志の表れ?に見えないこともない…かも。

あ、あと曾舜晞は最後の最後になるまで登場しない。これも出る出る詐欺、だ。…こういうところさえなければなあ。

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原題:云之羽 My Journey to You 60分×24集 2022年

導演:顾晓声「晴雅集」 落落(联合导演) 

编剧:顾晓声(总编剧)、吴亮、吴骊珠、黎琼、刘麦加

虞书欣 Esther Yu Shuxin 张凌赫 zhāng líng hè 丞磊Ryan chéng lěi 卢昱晓 Yuxiao Lu

 

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記憶の中の香港映画5 全盛期の周潤發を是非!「賭神」(「ゴッド・ギャンブラー」)

「亜州影帝」と呼ばれた周潤發の魅力を堪能できる作品。とにかくカッコいい。

何も考えないで、90分を楽しく過ごせる、きわめて香港近映画らしい映画を作る王晶が脚本・監督も務め、周潤發の魅力を最大限引き出した。

以下、ストーリーに触れています。

豆瓣より「賭神」正式ポスター

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日本でも「英雄本色」(「男たちの挽歌」)で一躍有名になった周潤發は、苦労人だ。香港の離島に育ち、家が貧しく中学卒業後から働き始め、様々な職を転々とした。18歳で香港のテレビ局TVBの養成コースに合格し、芸能界入り。6年後、連続ドラマ「上海灘」のヒットで映画界に進出するも、主演映画は興行成績に結びつかなかった。「英雄本色」が爆発的なヒットを記録し、一躍大スターになったのはそこから更に6年後の1986年だ。

 

だからなのか、黒社会ものはもとより、シリアスな社会派ドラマからはっちゃけたコメディまで、種類を問わず様々な映画に出演している。「大丈夫日記」の時は頭に花を挿して太鼓叩きながら歌ってた気が…。

まあ、どんな時でも周潤發は周潤發なのだけれど。

 

王晶は、受けると思えば何でもあり、な映画を作る印象が強い人だが、自身が監督するとなると案外手堅い。

映画冒頭は「かっこいい」周潤發。日本での麻雀とツボ振り勝負(ツボを振るのはボディビル界の“百恵ちゃん”西脇美智子だ)で、賭神としての神業を見せる。

友人がイカサマポーカーに引っかかっているところを助けるパートは緊張感溢れる心理戦。劉徳華と王祖賢が登場すると映画はコメディ調で「可愛い」周潤發が登場。

緊迫感漂う終盤から爽快なラストまで、アクションあり、笑いあり、ちょっとほろっとさせるところまである。一つの映画の中にあらゆる要素を用意する、ワンプレートディナーみたいな映画だ。

 

劉徳華が仕掛けた落とし穴で、賭神は頭を打って記憶喪失になり、行動も10歳児並みに。(香港の街中でネズミの風船を持って、アイスキャンデー食べている周潤發は実に可愛い。)

ギャンブラーとしての才能はそのままだったため、劉徳華たちは彼を「賭神」に仕立てて金儲けをもくろむ、が失敗。賭神を狙うギャングと金貸しに追いかけられることになる。

 

この映画でのアクション担当は、劉徳華と向華強。向華強はプロデューサーとして名前を見かけることが多い人だが、アクションもキレッキレ。劉徳華が見せてくれるのはビルの建設現場での、竹の足場を使った小気味いいアクション。…それにしても、どうして香港ではどんな高いビルも、竹で足場を組むんだろう?危なくないのかな?

 

ラストの決戦時に登場する周潤發は、黒のタキシードに黒いコート。こういう格好が似あう東洋人は、そう多くない。廬冠廷のケレン味たっぷりの音楽と相まって、素晴らしく男前だ。

 

この映画のヒットで、香港映画に一時期「ギャンブラー」ブームが訪れた。続編も作られたし、周星馳もパロディ映画を作っていた。

 

特に凝った映像があるわけでも、ひねったプロットがあるわけでもないけれど、ひたすら楽しく、爽快感を味わえる。「賭神」はとても香港映画らしい映画だ。

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原題:賭神 God of Gamblers   導演・編劇:王晶 Barry Wong Jing 1989年

武術指導:王坤 Paul Wong Kwan 音楽:廬冠廷 Lowell Lo

出演:周潤發 Chow Yun-Fat 劉徳華 Andy Lau Tak-Wah 王祖賢Joey Wong Cho-Yin

   向華強 Charles Heung Wah-Keung

 

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2024年1月視聴作品短評

「慢長的季節」(日本題名「ロング・シーズン 長く遠い殺人」)

豆瓣で高評価を得たドラマ。事件が起きた10数年前の過去とそれを解決しようとする現在が交互に描かれる。複雑な事件ではないので、ミステリというより、事件関係者の10数年に渡る人生を眺めると言う方が正しいかもしれない。

「慢長的季節」豆瓣より この人たちの山あり谷ありの人生が綴られる



中国の近現代史は、50年分を10年くらいで駆け抜けているような印象がある。その中で生きるのは誰にとっても大変だっただろう。主人公のタクシードライバー、王响(范伟 飾)の現代編での一人きりでの食事シーン、染み入るような孤独が印象的。

事件は最終的には解決するし、主人公たちの心残りも解消されるけれど必ずしも「人生万事塞翁が馬」という風にいかないのは、監督が「隐秘的角落」(バッド・キッズ 隐秘の罪)の人だからか。

義弟の龔彪を演じているのは秦昊だけれど、最初観た時はマジ気が付かなかった。

それと、エンドロールの選曲はセンスが良くて素敵。

 

原題:漫長的季節 漫长的季节 The Long Season 12集(47~107分 長い回も!)

監督:辛爽 原作:于小千「凛冬之刃」 編劇:于小千 潘依然 陈骥  2023年

出演:范伟 秦昊 陈明昊

 

「19層」(~20集まで)

年末年始に「一念関山」「繁花」と大物を観ていたせいで、何か軽いものが観たい…と思って観始めた。以下、展開についてネタバレしているのと、評価も厳し目ですのでご注意ください。

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「19層」微博より この雰囲気は期待するよね…

バス事故に巻き込まれた人々が、目が覚めると大学の廃校舎と思しき場所に閉じ込められ、影絵(から抜け出してきた影)に襲われる…「開端」みたいなタイムループもの?ホラーもの?それとも サバイバルもの?と期待したけれど、割と普通のバーチャルゲームの話だった。

 

最初の影絵こそ面白かったけれど、明かりをつけると…とどこかのゲームで観たような展開。その後もセーラー服&日本刀少女や(「Blood」だ)ゲーム世界に取り込まれて目覚めない人や(「.Hack」か?)や、懐かしいゲームのような展開だらけ。…どうやら陰謀そのものもゲーム会社のお偉いさんが仕掛けているらしいという割とありがちな展開。

ちなみに「19層」というタイトルだからといって、19階ある塔を一つずつ攻略していく…というわけでもない。最初の廃校舎は雰囲気があってよかったのに、ゲームの舞台も次々変わって、だんだん既視感溢れるものに…。

 

主人公の大学生とそのルームメイトたち、秘密を知っていそうな先輩、ゲームおたく、近隣の工場に勤めるチンピラ風の三人組、学食のおじさん…登場人物は決して悪くないのでそれなりには観られるのだけど、どうやら原作とはかけ離れた展開になっているようで、原作ファンからも評判がよろしくない。

 

今のところ毎晩眠ると取り込まれてしまうゲーム世界で、ゲームに取り込まれ昏睡状態になった友人たちを救うべく、ゲームをクリアし続けている。謎のメール(先輩あてに届く)もなんかあんまり役に立ってるように見えないし…。

このまま低空飛行なのか、大逆転の展開があるのか?うーん。

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題名:19層 19层 The 19th Floor

原作:蔡骏「地狱的第19层」

導演:蔡聪 李智恒  編劇:蒋渝  出品公司:芒果TV 芒果超媒 量子泛娱 30 集

出演:孙千Qian Sun 魏哲鸣 Miles Wei 白澍Shu Bai 王若珊

 

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「終極筆記」② エンド後に知らせておきたいあれこれ

「終極筆記」を最後までご覧になった皆さん、お疲れさまでした。

…怒ってませんか?あきれてませんか?

 

怒るのも当然だと思う。私も最初観た時唖然とした。何でここで終わるかなー。

…どうしても先が知りたかったので、いろいろ調べた。というのも、この先は「盗墓筆記」シリーズの最終巻、全ての謎が明かされる部分に直接繋がっているから。

今回はその他の「盗墓筆記」シリーズをご紹介しながら、エンド後彼らがどうなったのか、等観た方の疑問に少しでも応えたい。

できれば、シリーズの他の作品も見てほしい(切望)。

 

ここから先はエンドや「盗墓筆記」のネタバレが含まれます。ご注意ください。

「盗墓筆記 秦岭神樹」豆瓣より 成毅の軍服姿。これだけでも見る価値が…

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何故、お話があそこまでなの!?

小哥と胖子は行方不明。呉邪は三叔の仮面を被って三叔に成りすますことにする…で終わりなんて酷い!

でも今回は、それまでの歓瑞世纪製作の同シリーズとは違い、原作準拠の終わり方。

このまま話は最終巻「大結局」へと繋がる仕組み。

「大結局」では小哥を捜しに本丸の張家古楼を探険することになる。

ただこの「大結局」、呉邪は三叔に成りすましたままだし、小哥、胖子もいないので、映像化する旨味が少ない。なので今までドラマにもなっていないし、これからも期待薄。ここまで映像化したなら、謎は解いてほしいんだけどなあ。

 

小哥、胖子はどうなった?

大丈夫、生きてます。

ただ「大結局」の終わりで小哥は天頂雲宮の青銅門に籠ってしまい、10年間離れ離れになる。胖子ともばらばらになり、鉄三角はそれぞれの路を行くことに。その間呉邪が何をしていたかを知りたい人には「沙海」がおすすめ。

 

・沙海(主演:吴磊・秦昊 2018年 52集)

「盗墓筆記少年編沙海」が原作。主人公は次世代の少年たちだが、吴邪が重要な役回りとして登場。小哥がいなくてすっかりやさぐれた呉邪は呉邪は三叔そっくり。小哥は呉邪の想い出話にしか登場しないけれど「終極筆記」と同じ肖宇梁。(そもそも製作年度はこちらの方が先で、この時の小哥役が好評だった為同じキャスティングになったらしい)胖子や黒眼鏡も登場する。冒険先が砂漠なので、風景がとても綺麗。

 

呉邪の台詞「小哥が戻ってきた時俺たちのこと忘れてたら、また一から同じ場所を旅して思い出させてやるんだ…」(意訳)には泣かされた。「終極筆記」を観た後なら、呉邪と同じ気分に浸れるはず。

 

三叔は行方不明のまま?

行方不明のまま。でも、呉邪は三叔を捜すのを諦めたわけではない。

年表的には「沙海」の次にあたるのが「重启之极海听雷」。呉邪が末期がんであることが判明して、心残りである「三叔の行方」をもう一度捜そうとする物語。

 

・「重启之极海听雷」(主演:朱一龍 2020年 第一季32集 第二季30集)

正直、シリーズの中でこれが一番面白いと思う。小哥も山から下りてきて鉄三角再結成だし、二叔(胡軍 飾)、黒眼鏡(陳楚河 飾)も活躍するし、小哥の信奉者で超絶耳の良い劉喪(劉暢 飾)もいいキャラ。出演者も豪華だし、謎を解く過程もスリリング。三叔がいたと思しき部屋から見つかる、大量の雷鳴だけを録音したテープは何を意味するのか?

小哥役は黃俊捷。今回の小哥は自分の記憶を取り戻そうとしているわけではないので、普通に頼りになる兄貴分。

 

「盗墓筆記」その他のシリーズは?

「終極筆記」以前の冒険については、一応全てドラマ化されている。いずれも歓瑞世纪の製作。歓瑞世纪が作ったものは、どれもラストがぶん投げ!って感じなのが、人に薦めづらい理由。

 

・盗墓筆記 (主演:李易峰 2015年12集 原作:「七星魯王宮」)

オリジナルキャラが加わりオリジナル展開も多いので、鉄三角感は薄め。ただ、小哥役がブレイク前の楊洋だ。一応「七星魯王宮」の逸話等は展開する。

正直これを観るくらいなら原作者南派三叔が自ら製作した映画「盗墓筆記」(主演:鹿晗 2016年)を観た方がいいかも。短いし(笑)からくり人形屋敷は不気味。

映画版の小哥は井柏然で、阿寧は馬思純だ。個人的に馬思純の阿寧(逞しくて強い)が一番キャラとしてしっくりくる感じ。小哥については、原作者はこんなイメージなのか、とちょっと吃驚。

 

・盗墓筆記 怒海潜沙&秦岭神樹(主演:侯明昊 2019年40集)

原作はタイトル通りの2つと何故か「雲頂天宮」の途中まで。呉邪に侯明昊、小哥は成毅、という組み合わせで、小花は劉学義、と綺麗どころが揃う。…迷宮探検パートは面白いのだけど、地上パートが冗漫でいろいろ残念。特にラストは「終極筆記」より更に酷いぶん投げ方だ。

それでも西沙考古隊がどうなったのか、を探る「怒海潜沙」パート(12集まで)は面白い。シリーズ通して続く謎も提示されるし(解決されるわけではない)。

「秦岭神樹」(13~35集)は「盗墓筆記」シリーズの本筋と余り関係のない話。ただ地下に生える大樹とか、大量の鈴とか、楽しい仕掛けはいくつも登場。

 

「秦岭神樹」の中でも32集~35集の「迷霧村古墓」パートだけは観てほしい。このパートは他の部分とほぼ独立して進行する民国時代の物語。小哥とよく似た張不遜(成毅二役)が革命熱に浮かされ張高原(張天陽 飾)の私軍に参加するが、肝心の張高原は不老不死の伝説に取りつかれ…という話で、とても面白い。成毅は素朴な学生から憂愁を湛えた軍人までをやっていて、その演技力を堪能できる。

発掘され運び出された張不遜の遺体については続く「雲頂天宮」で言及される。

 

・盗墓筆記 雲頂天宮(主演:白澍 2021年 24集)

シリーズ中一番評判の良くない一作。歓瑞世纪と原作者が揉めた挙句、版権引き上げになるリミットぎりぎりで作った、という曰くつき。

前作で長白山に行ったはず…なのに、その部分はまるっとなかったことにされて、その前からお話が開始。…呉邪の性格が余りに天真すぎるのと、セットやCGがいろいろチープ。

小哥が10年もの間番をすることになる「青銅の扉」が登場するのと、かつての探検隊の謎も提示されるんだけど「大結局」が映像されないことにはあんまり意味がない…かも。

 

その他、呉邪たちの祖父の時代、最初の「九門」を描いたドラマ「老九門」も製作されている。主人公は「終極筆記」でも言及されていた張大仏爺こと張啟山(陳偉霆 飾)。

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ドラマシリーズの他に単発の網路電影も幾つか作られている。

「盗墓筆記」シリーズは(例え出来が多少アレでも)民間伝承や怪異が織り交ぜられていて、他の冒険ものにない独特のおどろおどろしさ、というかお化け屋敷を除くようなわくわく感がある。小哥は誰が演じてもかっこいいし。

気になったら他の作品も是非覗いてみてください。

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原題:終極筆記 终极笔记 Ultimate Note

原作:南派三叔「盗墓笔记」小说シリーズ(「蛇沼鬼城」「谜海归巢」「阴山古楼」「邛笼石影」)

導演:鄒曦、馬小剛、衛立洲 編劇:田良良、張鳶盎 37集

出演:曾舜晞 Joseph Zeng Shunxi, 肖宇梁 Xiao Yu Liang, 成方旭, 劉宇寧 Liu Yuning

 

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江湖再見!「繁花」③~ラストまで

最後まで十分楽しんで観たのだけれど、何だか感想が書き辛い。

というのも終わりに近づくにつれ、本来の主人公阿宝(胡歌 飾)に感情移入しにくくなってしまったからだ。

彼の最後の闘いの前に描かれる、株に狂奔する人々の物語と汪小姐(唐嫣 飾)の物語で感情を揺さぶられ、お腹一杯になってしまったせいかもしれない。或いは阿宝と李李のラブストーリーにさほど心惹かれなかったせいかもしれない。李李役の辛芷蕾は十分素晴らしかったのだけれど。

ここから先はエンドのネタバレを含みます。ご注意ください。

「繁花」微博より「江湖再見!」 今回の唐嫣は素晴らしかった

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1994年を迎える頃から上海の景気は後退し、株で一儲けしようとした人々は悲劇に見舞われる。汪小姐の立ち上げた会社も上手くゆかない。阿宝と汪小姐は服飾事業を巡って対立関係となっていて、爺叔(游本昌 飾)も彼女の敵に回っている。

 

彼女が深圳に赴く下りは十分スリリングで、絶対に阿宝の力を借りないところには彼女の矜持を感じるし、成功するかどうか、ハラハラさせられる。なんだかんだ世話を焼いて心配してくれる范総(董勇 飾)、いい人だ。

 

彼女が范総と別れる際の言葉「江湖再見!」は心に残る。

私はこの一連の流れで満足してしまい、その後の阿宝の最後の闘いにはあまり身が入らなかった。どう考えても流れは阿宝に不利なのだし、この手の話は他の展開は考えにくい。

 

結局阿宝の行きつく先は「株式市場」という「虚」ではなく土地、農業という「実」だ。かつての熱に浮かされたような日々は、彼にとっては最早想い出。物語としては破綻なく綺麗に終わっているけれど、何となく物足りない…気がする。

その他の人々のエピソードが比較的綺麗に、観ている側も納得するように終わっているのに比べ、ラストの阿宝に「やりきった」という感慨をあんまり感じられなかったせいかもしれない。

 

■物語中の唯一の破綻、雪芝(杜鵑 飾)

脚本家をつけたお陰か、王家衛の映画独特の「何で今、この人?」という意図的な破綻はドラマの中に殆どみられない。(例えば「阿飛正傳」(日本題名「欲望の翼」)のラストの梁朝偉とか、「一代宗師」(日本題名「グランド・マスター」)の張震とか、ね)

 

唯一唐突に挿入されるのが阿宝の初恋、雪芝とのエピソード。ある日唐突に阿宝の前から消え、香港に行ってしまった彼女。再会した時彼女は香港での成功を阿宝に見せつけるけれど、その後香港で偶然に再会した時、それが全て噓だったことが明らかになる。彼らは97年に再会を約束して別れるが、その前に彼女は亡くなってしまう。

 

彼女との出会いの想い出はラスト近くで唐突に繰り返される。

彼女が阿宝の「金を稼ぎたい!」という動機の一つだったのだろうとは思う。ただそれ以上のこと、彼女が「上海から香港に渡った人たち」を象徴する何かなのかは、正直よくわからない。

 

上海語は意外にエネルギッシュ

このドラマは全編上海語で撮影され、北京語バージョンは後から俳優本人たちの吹き替えだそうだ。行ったこともないので上海ってもっとスタイリッシュな街なのか、と勝手に思っていたけれど、上海語は意外にリズミカルでエネルギッシュで、時にうるさい。上海語の賑やかなやり取りを観ていて、上海に対するイメージも少し変わったような気がする。中国ではローカルな言葉の見直しの機運も起きているそうな。

 

全編上海語といっても、ナレーションや李李・范総の台詞は北京語で、「上海人」「外地から来た人」とはっきり区別され、これが「上海人」たちの物語なのだということが浮き彫りになる。

王家衛監督自身、5歳の時(文革の始まる直前)に上海から香港に移り住み、香港の上海人コミュニティの中で育ったのだそうだ。この映画で描かれる1993~4年当時って、丁度王家衛監督が香港映画の新たな旗手として注目を浴びた頃だ。自分の不在であった頃の上海を描くことを通じて、監督自身の「上海人」としてのアイデンティティの確認、のような意味もあったのかもしれない。

そういえば「阿飛正傳」も一人の男を巡る人々の物語で「繁花」と構造が似ている。あの映画も、主人公阿飛は狂言回し、というか、その行動を描いているのに彼の心情はさっぱり分からなかったな…。

うーん、王家衛の考えていること、結局私にはよくわからないのかも。

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原題:繁花 Blossoms Shanhai 2023年

監督:王家衛 原作:金宇澄「繁花」 編劇:秦雯(「赘婿」等)

出演:胡歌 馬伊俐 唐嫣 辛芷蕾

 

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記憶の中の香港映画(今回は台湾だけど)4:「返校」の前日譚でもある「悲情城市」

「香港映画」と銘打っているけれど、これは台湾映画だ。この映画を観返そうと思ったのは単純で、台湾旅行で九份に行ったから。

 

この映画の舞台が九份だったことは、長いこと知らなかった。思い当たらなかった理由は簡単で、今私たちが写真で見る「九份」と、この映画に登場する九份が全く違うから。この映画が撮影された当時の九份は金鉱の町で、赤い提灯の連なる観光名所ではなかった。

俯瞰で眺めた時の湾の形と細い坂道の様子でようやく同じ場所だと分かるくらい、イメージが違う。

九份台北から1時間半くらいの場所にある。封切り当時観た時は首都からものすごく離れた場所なのだろうと思って観ていたから、案外近い場所だったことも驚きだ。

映画の中で、台北で起こっていた政治的な出来事が殆ど人々の暮らしに伝わっていない感じだったからそう思ったのだけれど、よく考えたらテレビもないし、新聞も統制されているのだから人々はその場所にいない限り、知りようがなかったのだ。。

 

この映画は台湾の名匠・侯孝賢監督の代表作であり、台湾で初めて「二二八事件」「白色テロの時代」を描いた映画として有名だ。侯孝賢監督の代表作を一本だけ上げるならこれ、という作品でもある。

ここから先はストーリーについてのネタバレを含みます。

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悲情城市」豆瓣より 台湾版ポスター

ゲーム・映画・ドラマで展開された「返校」、あの作品で初めて「白色テロの時代」、台湾が長きに渡り戒厳令下にあり、厳しい言論統制が敷かれていたことを知った方も多いと思う。そのきっかけとなったのが大陸からやってきた外省人及び国民党政府と、もともと台湾に住んでいた内省人との激しい対立が「二二八事件」。日本の占領から解放されてから二二八事件で戒厳令が敷かれるまでの時期を描いたのがこの映画だ。

 

とはいえ、この映画を観たからといって「二二八事件」そのものや、内省人外省人の対立がどうして起きたかを理解することはできない。この映画は、あくまで九份に住む台湾人の一家族の眼からみた「その時代」を切り取った形なので、事件そのものは誰かの伝聞であったり、人々の噂話から類推するしかない。

 

だから1990年の日本公開当時この映画を観て、中で起きている事件が何なのか、正直全く分からなかった。その当時、私は「二二八事件」も台湾が40年近くも戒厳令を敷いていたことも知らなかった。映画が終わって慌ててパンフレットを読んでようやく何が描かれていたのかが朧気にわかり、その頃はインターネットもなかったので本屋に走った。

 

今、この映画を観ると静かに、怖い。

梁朝偉演じる主人公、林文清は聴覚障碍者で写真館を経営している。林家は男ばかりの4人兄弟で長男は船問屋と飲み屋を経営している。次男は戦争に軍医として徴用されてから戻ってきていない。三男は、上海から戻ってきた時の精神錯乱の状態からようやく回復したところ。

 

カメラはほぼ遠景或いはミドルサイズで殆ど動かない。画面の中に、人々の暮らしが淡々と描かれていく。上海マフィアとの喧嘩があっても、カメラは寄るどころか、ドーンと引いてしまう。あくまで一般人の見た光景だからだ。普通の人は、やばそうな人たちが包丁を振りかざしているところにわざわざ近づいたりしない。

 

クローズアップとなるのは、上海マフィアとの諍いの原因となる荷物と、留置場から引き出された人が射殺される際にも(射殺シーンはない)銃声が聞こえず、ただ空を見つめる主人公の顔だけだ。

 

ごく普通に過ぎていく日々の中で徐々に家族が欠けていく。

三男は上海マフィアに利用された挙句、漢奸の疑いで逮捕され、釈放された時には廃人と化していた。主人公の親友は二二八事件で追われる身となり、結局射殺される。

家に送られてきた次男の遺品には「父親無罪」という遺書が隠されていて、彼がやはり対日協力者として処刑されたのだと分かる。家を支えていた長男も上海マフィアとの抗争で殺されてしまう。

残された主人公も官憲から狙われ、最後に撮影するのが台湾版のポスターともなっている家族写真だ。

その後主人公の妻の独白が入り、彼も行方不明になったことが語られ、台湾全土に戒厳令が敷かれたことがテロップで表示され、映画は幕を閉じる。

 

出来事は余りにフラットに、日常生活の延長上として描かれるので、悲劇であることすら気づきにくい。おまけに登場人物はそれらの悲劇についての感慨を一切語らない。

映画が作られたのは台湾が戒厳令を解いてからわずか2年後で、こういう形でなければ描けなかったのかもしれないとも思う。

 

だから今この映画を観ると、少々退屈を覚えるかも。

でも社会全体が歪んでいく時って、案外こんな風に外見は静かなまま、普通の人たちにはよく分からないまま、物事が進んでしまうのかもしれないとも思う。だとしたらやっぱり恐ろしい。

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原題:悲情城市 A City of Sadness 日本語題名:悲情城市 

製作年:1989年 台湾

監督:侯孝賢Hou Hsiao-Hsien 

脚本:呉念真 朱天文

出演:梁朝偉 Tony Leung Chiu-Wai 高捷 Jack Kao 陳松勇 Chen Song-Yong

 

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「繁花」②「あの時代」に引き戻すOST(~24集まで)

「繁花」、周囲の女性2人との話がメインになり、少々視聴意欲が下がり気味に。正直株式相場の一瞬先は闇、な展開の方が興味深いし、割と喧々ものを言う女性たちなので、喧嘩状態ともなると阿宝でなくても「煩いなあ」と思ってしまう。

それでも彼女たちが自分の路を歩いていくようになると、あんまり煩く思わない不思議。

ここから先はストーリーのネタバレを含みます。

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「繫花」微博より これ全部セット、だよね…

■記憶のトリガーとなるOST

主人公、阿宝(胡歌 飾)を取り巻く二人の女性、一人は「夜東京」の共同経営者、玲子(馬伊琍 飾)。もう一人は27号外資公司の汪明珠(唐嫣 飾)。阿宝が自国ブランドTシャツの件で成功を収めた後、彼女たちの間に変化が現れ、結局二人とも阿宝の許を離れることになる。

 

個人的には恋人(だろうと思う。かつての、ってことなのかもしれないけど)の阿宝と別れ自分の路を歩む玲子より、同僚に陥れられ公司を辞めざるを得なくなる汪明珠の方が印象に残る。阿宝と彼女の関係がドラマの中で明言されることはないけれど、男女の仲という印象は受けないし、むしろ妹のように可愛がっていたように見える。

 

結局阿宝は外資公司を辞めた汪明珠と組もうとはしない。情はあっても仕事は別、ということなんだろうけど、やっぱり冷たい、気がする。(…でも情がないわけではなかったことが、25集以降で分かりました。阿宝、ごめんなさい)

 

一方、彼女の師父である金科長(吳越が好演)は、不正を許してはくれないけれど、夫との思い出の品である切手帳をくれる。結局彼女は切手帳をお金に換えてしまうけれど、師父は彼女を責めはしないだろう。…中国ドラマの師父は本当に優しく、懐が深い。

 

阿宝や外資公司という後ろ盾を失った汪明珠は、自分が何者でもないことを黄河路で思い知らされる。それでも工場で必死に働き、自分の会社を立ち上げ、自分自身の価値を見つけようとする。その時バックに流れる曲がBeyondの「光輝歳月」だ。

 

…音楽というのは記憶と深く結びついている。観ているこちらも当時の記憶と感情が一気に蘇ってきて、やるせない気分になった。この曲を聴いていた頃の自分はちょうど会社を辞めようかどうしようか、とか考えていた時期で、汪明珠の心情に重なるものがあったのだ。

 

このドラマには1990年代初頭、流行っていた曲がふんだんに盛り込まれている。張学友の「偸心」王菲の「執迷不悔」陳百強「一生何求」、趙傳「我是一隻小小鳥」そして「再回首」…。

1990年代に入り、香港の音楽市場は中国を視野に入れるようになった。広東語の歌の北京語版CDを出すことが流行り、北京語の発音が美しいと言われた張学友は広東語のアルバムとは全く別の曲で構成された北京語版CDを出したりしていた。北京語の曲も流行するようになり、王菲はその代表だった。

上海、というか中国側の状況はよく知らないけれど、返還が近づき香港との敷居が低くなり、そうした音楽が一気に流れ込んできたのではないだろうか。このドラマのOSTに広東語曲も多く含まれるのは、王家衛が香港で活躍する人だから、というわけではなく、実際に上海で聞かれていた曲、という括りなのだと思う。

 

その当時の上海を知る人は、これらの曲のいずれかで当時を思い出し、登場人物の誰かに自分を重ねることになるだろう。

原作は群像劇だというから、ある意味正しい映像化の手法なのだともいえる。

 

ただ、当時を全然知らない年代、流れてくる歌に思い入れのない世代にとってはどうなんだろう?とも思う。

株が一獲千金の夢を見せてくれる当時の上海の熱に浮かされたような様は、バブル期の東京の盛り場に共通するものがあって、その奇妙で危うい熱気を知る人間にとっては想像に難くない。でも、それを全く知らない人に説明するのは難しい。

 

…その辺りがドラマに対する評価の分かれ目になるのかも。

 

■バブルは長く続かない。どうする阿宝?

物語の方はそろそろ大きな転換期。これまで派手な成功を収めてきた阿宝の周りからは一人、また一人と人が離れていっているし、阿宝の服飾公司への挑戦には、誰もがやめろと言ってくる。阿宝のファムファタール・李李(辛芷蕾 飾)の正体もだんだんわかり始めてきた。

このところ、あんまり黄河路が出てこなかったので、あの煌びやかな世界がこの先どうなるのか、楽しみなような不安なような。

 

ちなみに阿宝と李李が逢引きを重ねている裏通りの店の料理は涮羊肉(シュワンヤンロウ)というらしい。羊肉を使った、しゃぶしゃぶの元祖のような料理なのだそうだ。美味しそうなのに実際に食しているシーンはない。

 

…そうなのだ。このドラマ、ものすごく料理の話が多いのだけれど、あんまり料理をきちんと見せてくれない。何食べているのか知りたいのに、カメラがすぐ明後日の方向に行っちゃう…。飯テロになってもいいから、もう少し見せて、お願い。

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原題:繁花 Blossoms Shanhai 2023年

監督:王家衛 原作:金宇澄「繁花」 編劇:秦雯(「赘婿」等)

出演:胡歌 馬伊俐 唐嫣 辛芷蕾

 

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