「天行健」がいきなり配信開始になった。予告編だと動乱の時代、朝廷の官吏と江湖の高手が…という内容しか分からなかったけれど、武侠と革命の合わせ技は案外面白い。
清朝末期、とは聞いていたけれど、思っていたより歴史背景をしっかり理解していないと置いていかれそうな気がしたので、ちょっと勉強してみることに。
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「天行健」の意味
最初驚いたのが「天行健」で引くと、故事成語が出てきたこと。易経の言葉だそうで
天行健 君子以自彊不息(天行健なり 君子は以て自ら彊めて息まず)
天の運行が健やかであるように 君子たるもの自らを努め励み 怠ってはならない
という意味だとか。文字通り君主のあるべき姿を表す言葉なので、このドラマの時代を考えると皮肉に満ちている。これが唯の皮肉なのか、それともドラマの中で理想的なリーダーの姿が描かれるのかは、タイトルだけでは分からない。
戊戌変法って?
ドラマの冒頭では光緒帝(尹正 飾)による「戊戌変法」の模様とその失敗、光緒帝の死が語られる。「戊戌変法」はネットで調べた限りこんな内容だ。
「戊戌变法」(1898)
1895年の日清戦争敗戦後に光緒帝によって行われた改革運動。今までの清朝体制をそのままに西洋の技術を取り入れるだけでは限界があるとし、西洋の立憲君主制、日本の明治維新に習った政治体制の改革・近代化を行おうとした。具体的には科挙の内容の変革、大学堂や各種専門学校の設置と卒業生の登用、官庁の整理等。
この変法は103日しか続かなかった。西太后をはじめとする保守派勢力の抵抗に遭い、逆に光緒帝が軟禁されてしまったのだ。変法を推し進めていた中心メンバーは処刑されたり、日本に亡命することになった。(戊戌政変)
「天行健」の主人公・門三刀(秦俊杰 飾)は光緒帝の御前带刀侍衛であり、この戊戌政变で捕らえられ12年間獄中にいた、という設定だ。門三刀が袁世凱を知っているかと聞かれ凄く嫌な顔をするのは、袁世凱が戊戌政变で光緒帝を裏切ったからだ。
舞台は1911年…辛亥革命の年
宣統3年(1911)3月「龍震離九 争時易乾坤」の文字が刻まれた石碑が倒され、火災の中から同じ言葉の刻まれた陶器が見つかったことから物語は始まる。この文言を読み解くと、44日後の5/11に叛乱を計画している者たちがいる、という意味になるらしい。同時に宮中から南少林寺に隠されているという宝の地図が盗まれた。
今のところのお話は、基本的には南少林寺に隠されているという宝の争奪戦なのだけれど、革命前夜なだけに背景はいろいろ複雑。宝の地図(&情報)を奪い合っている勢力は以下の通り。
そもそも地図に記されている宝を資金にしようとしているのが、孫文率いる同盟会。同盟会は孫文が日本に亡命している時期に日本で結成された、辛亥革命の中心となる団体だ。最初に融天岭に殺害された9人は日本から戻ってきており、同盟会のメンバーだったと思われる。また、宝についての情報を持つ谭先も同盟会に宝を渡すつもりだ。
②融天岭(融天剣派)+淇親王
娘を留学させ、娘婿は軍を統括している淇親王は海外勢力と結んで謀反を企んでおり、宝の地図を融天岭を使って奪おうとしている。天下一の剣豪・卓不凡(刘宇宁 飾)を掌門にもちながら少数民族であるが故に認められない融天岭は、この機会に名実ともに江湖の覇者になることを望んでいる。谭先と落ち合う際に日本人学生の格好をしているのは、同盟会になりすます、ってことだったらしい。(←最初、この関係が良く分からなくて、何で日本人の格好?って思ってました)
③清朝政府(内務府)
淇親王の謀反の動きには最初から気づいているものの、証拠を押さえなければ告発できない、ということで朝廷で最も腕が立ち且つ聡明な門三刀を復職させて派遣。ついでに宝の地図を取り戻し情報も得たい、という思惑だ。ただ、門三刀は「戊戌変法」に関わっていただけに他勢力に寝返らないとも限らない…というのでお目付け役には「不忠の兆しが見えたら殺せ」との命令が。
④謎の日本人
恐らくは軍部から派遣されている日本人の一群(忍者みたいだけど)。淇親王の娘婿と通じ、融天岭の動きを知っており、地図と情報の横取りを度々企てる。男装の麗人はきっと川島芳子がモデルなんだろう。
⑤天津大沽県捕快 王地保
宝の地図のことは何も知らず、一家9人殺人事件の犯人が融天岭であることを突き止め、ひたすら追いかけている捕快。なかなかの腕なのだけれど多勢に無勢なのでいつも最後はぼこぼこにされてる…。
10月に勃発する辛亥革命の前夜、既に世の中は一触即発の雰囲気が漂っている。叛乱が予定されている5月は旧暦だと思われるが、その辺りで革命の前兆ともいえる蜂起が始まるし、宝の地図を取り合っている勢力は辛亥革命に繋がる勢力とほぼ同じ。
…これからどう展開するんだろ?5月までで話が決着するのか、もっと先まで進むのか。
(進むと清朝は崩壊しちゃうけど)
ちなみに宝の地図が隠されていると言われる「南少林寺」も「叛乱」に関係する地らしい。そもそも南少林寺という場所自体あやふやで伝説の域を出ない。その南少林が「反清復明」を掲げる人々の集まる地で、故に清朝政府に焼き討ちされた、というのは清代末期に広がった伝説のようだ。
混乱の時代に人生を狂わされた主人公たち
三人の主人公は、誰もが現状を憂い、より良い世を望みながら、複雑な現実に振り回されている。
主人公の門三刀は国の近代化を目指したものの、旧勢力に阻まれ投獄され、政府の都合で再び朝廷に仕えることになる。
卓不凡ら融天剣派は少数民族(ドラマ内では棱西と言われているけれど、架空の民族みたいだ)であるが故にその強さを認められず、平等の世を夢見る一方で淇親王の甘言に縋るしか方法がない。
王地保は科挙を受けるはずだったが「戊戌変法」以降科挙そのものがなくなってしまったため、国の役人になることができず、補快に甘んじている。
門三刀と卓不凡は当代きっての使い手という設定だし、王地保もかなりの使い手。主演の秦俊杰は武侠ものの主演も多く、身のこなしが上手い。大立ち回りや集団戦も多くて(少々カメラの切り替えが多いものの)なかなか楽しい。
それと、このドラマ、オープニングが複数種ある。中にはカップル同士がミュージカル風にポーズをとる可愛らしいものもあったりする。OPは立ち絵切り貼りが多い中、これもこのドラマの楽しみの一つだ。
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題名:天行健 Heroes 2024 36集
導演:楼健「御赐小仵作(宮廷恋仕官~ただいま殿下と捜査中)」
卫立洲(「紫川」「終級筆記」)
脚本:白一骢(胡军主演の「天龍八部」)
出演:秦俊杰Qin Jun Jie(「飛狐外伝」)刘宇宁 Liu Yuning
庞瀚辰Pang Hanchen(「光·渊」) 黄梦莹Huang Meng Ying(「三生三世十里桃花」)