lienhua’s Dragon Inn 龍門客棧

中国ドラマと香港映画について書いています 記事についてはINDEXをご参照ください

記憶の中の香港映画8 「東方不敗」という大スターを生んだ「笑傲江湖II 東方不敗」 (邦題:スウォーズマン 女神伝説の章)

徐克製作の映画版「笑傲江湖」は3本あるけれど、個人的には二作目が一番面白いと思う。

東方不敗」を初めてヒロインに昇格させた、記念すべき作品だ。なぜ一作目がサブスクにあって二作目がないのか、本当に不思議。

-----------------------------------

東方不敗」豆瓣よりポスター 登場人物名は原作準拠だけどお話はだいぶ違う

ストーリーは一作目から継続・メインキャストは総入れ替え

この映画は「笑傲江湖」(邦題:スウォーズマン 剣士列伝)の終わり、の令狐沖の属していた崋山派は解散、弟弟子たちとも本来のヒロイン・任盈盈とも離れ離れ、というところから始まる。原作からは遠いけれど、一作目からストーリーを引き継いだ正当な続編ではある。

 

キャストは一新され、総じて一作目より華やかになった。

令狐沖にはその前年に黃飛鴻を演じ、華麗に復活した李連杰(Jet Li)。1作目の許冠傑(Samuel Hui)の本業は歌手だが、こちらは専門家。アクションの質は格段に向上した。

 

任盈盈は關之琳(Rosamund Kwan)。黃飛鴻シリーズで十三妹を演じていた瞳の大きな女優さんだ。日月神教の衣装は中国の少数民族・苗族の衣装がベースで、黒地にビタミンカラーの配色が可愛い。…毒蛇使いだけど。

令狐沖の妹弟子・岳靈珊には李嘉欣(Michelle Reis)(原作とは違いずっと令狐沖と一緒に旅している)。元ミス香港で華やかな美貌の持ち主だ。

 

今回は程小東(Ching Siu-Tung)が単独で監督を務め、武術指導も行っている。程小東は「倩女幽魂」(邦題:チャイニーズゴーストストーリー)の監督で、所謂武侠ものの空中技ではなく、女性が幻想的にふわりと空を飛ぶワイヤーワークを発案した人だ。

今作では東方不敗も令狐沖もがんがん空を舞う。

 

女優が扮することで神秘性を増した「東方不敗

この映画で「東方不敗」を演じるのは台湾出身の林青霞(Brigitte Lin)だ。女優をこの役に振り当てたのは調べた限り、この映画が最初。

林青霞はきりりとした目鼻立ちは中性的でもあり、徐克は自身の監督作品「刀馬旦」(邦題:北京オペラブルース)でも軍服を着た男装の麗人役を演じさせている。

白拍子風の衣装を纏い空を舞いながら登場する東方不敗は、何とも妖しく美しく、インパクトは絶大だ。

 

原作の東方不敗は勿論こんなに美しくはない。

前作から奪い合いを続けていた「葵花宝典」に記されている秘技は実は「去勢」しなければ会得できないという代物で、東方不敗は秘儀を習得中という設定だ。香港映画で去勢された男性といえば宦官(第一作の悪役も宦官だ)で大抵醜い老人、という設定になっている。

この「去勢」を「女性化」にまで推し進めてキャラクターを造型した結果が、キャストを女性にする、だった。

 

東方不敗は日本の倭寇と組み、前教主を陥れ日月神教を手に入れ、更に江湖の制覇をもくろんでいる。東方不敗は令狐沖の弟弟子たちを皆殺しにしてしまうのだが、正体を知らない令狐沖は、沐浴する東方不敗に一目惚れしてしまう。東方不敗の方も徐々に令狐沖に惹かれてゆく。

 

冒頭の登場時東方不敗は修行の途中なので、令狐沖の前では女性、日月神教教徒の前では男性だ(なので女性の愛人もいる)。この改変は東方不敗というキャラクターに魅力的で複雑な陰影を与えることになった。一歩間違えばそれこそ唯のトンデモ映画になる設定だが、見事に踏み留まって上質な娯楽作品に仕上がっている。

 

林青霞はこの難しい役を大変上手く演じている。対する相手によって、また修行が進むにつれだんだんと表情や仕草が変わるのだが、どの場面も大層美しい。

刺繍糸と針が武器になるっていうのも綺麗で好きだ。

 

日本人についての描写はいろいろ誤解が…

この映画にも「トンデモ」な要素はある。…特に日本に関するものがいろいろおかしい。

倭寇と組んでいるのだけれどその実態は「忍者」。棒読みの日本語で「回転切りだ」とか言いながら襲ってくる。そうかと思うと日本人の村人と思しき人々が「あんたがたどこさ」を唄いながら踊り狂ってる。多分、盆踊りみたいなことをしたかったんだと思う。

…日本人にちゃんと聞けばよかったのに。

 

この作品以降「東方不敗」はみんな女性に…

笑傲江湖」はそれ以降も何度も映画化・ドラマ化されたけれど、この映画以降東方不敗役は皆女性になってしまった(1996年の香港版は男性)。そうでなくともヒロインが多い「笑傲江湖」なので、女優さんを沢山出したいからというよりは、やはり林青霞の東方不敗が魅力的だったから、というのが理由じゃないかと思う。

 

2018年製作のドラマ「新笑傲江湖」では東方不敗は男性に戻った。但し今度は美青年。これはこれで大変魅力的だった。丁禹兮演じる東方不敗は最後の最後辺りまでみんなのイメージする「東方不敗」にならないのだけれど、変貌した時の姿は「おー♥」という感じだ。

おまけ「東方不敗─風雲再起」(邦題:「スウォーズマン 女神復活の章」)

映画版「笑傲江湖」の三作目がこれ。正直、カテゴリとしては「トンデモ映画」。

もはや原作は影も形もなく、二作目で戦いに敗れ亡くなったはずの東方不敗が復活し「東方不敗」を名乗る偽物の成敗に乗り出すも、偽物はかつての愛人(女性ね)だった…、という物語。「東方不敗」というキャラクターの力だけで押し切ろう、という思惑が丸見え。

まあ、香港映画らしいともいえる弾け方だ。

 

主演は前作から引き続き林青霞、愛人役には王祖賢(Joey Wong)という豪華版。現在でも武侠ドラマで活躍する于榮光(Yu Rong Guang)が東方不敗マニアの青年役で登場する。王祖賢は日本では清純なイメージが強調されたけど、香港映画ではちょっと色っぽい女の子、という役どころが多かった。足、綺麗だし。二人のキスシーンもあったような気がする。

男の子にはこちらの映画の方がインパクトが強かったのか、ガンダムのアニメに登場する東方不敗が乗る機体の名前も「風雲再起」だった。

 

正直この映画のことはすっかり忘れていたのだけれど、2022-23年の江蘇跨年演唱會で劉宇寧が歌っていたのがこの映画の主題歌「笑紅塵」(広東語版のタイトルは「做个真的我」)だった。

ちなみにこの曲は映画の中ほどで東方不敗が、軍について回っている娼婦たちと一緒に焚火を囲みながら歌う。

作曲は李宗盛(Jonathan Lee シンガーソングライター 代表作「山丘」「凡人歌」)、広東語版の作詞は潘偉源(「一生何求」「祝福」)北京語版の作詞は厲曼婷(「太想愛你」「花心」)、歌手はどちらのバージョンも当時台湾のトップ女性歌手の一人・陳淑樺(Sarah Chen)。…力入ってるなあ。実際とても良い曲だ。

 

トンデモ映画、なのにキャストも主題歌も一流。

やはり「東方不敗」という不世出の大スターの魅力なんだろうと思う。

-----------------------------------

笑傲江湖II東方不敗 Swordsman 2 スウォーズマン 女神伝説の章 1992

導演:程小東 編劇:徐克 鄧碧燕 陳天璇

武術指導:程小東 元彬 馬玉成 張耀星

監製:徐克

出演:林青霞 李連杰 關之琳 李嘉欣              

 

東方不敗─風雲再起 The East Is Red スウォーズマン 女神復活の章 1993

導演:李惠民 程小東

編劇:司徒慧焯 張炭 徐克

武術指導:程小東 林迪安 馬玉成

監製:徐克

出演:林青霞 王祖賢 王靜瑩 于榮光

 

lienhua.hatenadiary.com

 

lienhua.hatenadiary.com