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記憶の中の香港映画12:東方三侠(邦題:ワンダーガールズ 東方三侠)(1993)

90年代スーパーヒーローブームにあやかっての作品だ。出演は梅艷芳Anita Mui・張曼玉Maggie Cheung・楊紫瓊Michelle Yeoh、監督は杜琪峯Johnnie To、製作とアクション監督が程小東 Ching Siu-Tungという豪華版。アジア系俳優として初めてオスカーを手にした楊紫瓊の、アクション女優としてのカッコよさを堪能できる一作。

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「東方三侠」豆瓣より 三人そろい踏みのかっこいいポスター

無国籍でクールな世界

梅艷芳扮する冬冬(トントン)は、普段は刑事の妻として静かに暮らしているが実は世界の平和を守る為に厳しい訓練を受けた「ワンダーガール」だ。

街では生まれたばかりの男の赤ん坊が次々攫われるという怪事件が起きていた。冬冬の夫が務める警察署の署長の息子も誘拐されてしまい、所長は賞金稼ぎの陳七(張曼玉 飾)に奪還を依頼する。透明化するマントを使って子供を誘拐していたのは魔教(ってことでいいんだと思う)の殺し屋陳三(楊紫瓊 飾)で、陳七や冬冬のかつての仲間だった…。

 

監督の杜琪峯(「毒戦」「七人楽隊」)が用意した舞台はNYに似た無国籍な街だ。煉瓦の壁と非常階段、薄暗い路地…派手なネオンは見当たらない。チューブネオンのような原色の照明、立ち込める霧がシェード越しのような効果をもたらす。全体的にダークで「バットマン」や「ウォッチメン」みたいな感じを思い浮かべてもらえばいい。

 

一方でファッションや登場する車は、1950年代風でクラシック。梅艷芳や楊紫瓊の美しさが際立つ。あ、張曼玉は何着ていても可愛いです。スーパーヒーローに変身した時は梅艷芳は仮面にマントと正統派、楊紫瓊は赤のボディスーツ、張曼玉はちょっとボンデージ風で、それぞれの個性が際立つ仕組み。

 

ヴィランはやっぱり中華風

無国籍で時代もよく分からないのは地上の話で、ヴィランの側になると「いつもの香港映画」っぽさが満載だ。

悪の組織は「公公」によって率いられ、皇帝の治める国を再興しようとしている(字幕では「太后」となっているけど公公だから宦官だと思う)。演じる任世官 Yen Shi-Kwanは多くの映画で悪の親玉をやっている俳優さん。「黃飛鴻 (邦題:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明)」で黃飛鴻と綱の上で闘っていた大道芸を売る武芸者も印象的だった。今回は白塗りで顔がよく分からないけど。ほかにも、やたら強い門番の男を黃秋生Anthony Wongが怪演している。

 

アクションは本格的

そもそも何故梅艷芳・張曼玉・楊紫瓊という組み合わせでヒーローアクション映画を作ろうと思ったのか、資料もないのでよく分からない。元々アクション女優としてスタートした楊紫瓊(「皇家戦士」「警察故事III」等)はともかく梅艷芳は本業が歌手だ。「胭脂扣」「審死官」等映画への出演も多いけれどアクションものは「英雄本色III夕陽之歌」の癌アクションくらいしか思いつかない。張曼玉は「新龍門客棧」のようなアクションものにも出演していたが、「阮玲玉(1992)」辺りからは演技派女優への道を歩み始めたように見える。

 

アクション監督は「倩女幽魂」で王祖賢Joey Wongを空に飛ばした程小東なので、女性たちの華麗なアクションが堪能できる。この映画のアクションの質の高さは「どんな俳優でもアクションができるように見せる」香港映画のワイヤーワークの真骨頂だ。

作曲・羅大佑、作詞・林夕のノリのいい主題歌(香港電影金像獎最佳電影歌曲賞受賞)に乗って颯爽と登場するシーンは、思わず拍手を送ってしまう。と言っても本格的にアクションをこなせるのは楊紫瓊だけなので、カメラ位置や撮影方法、スタントマンを組合せてということだ。

 

この映画を観たフランス人監督オリヴィエ・アサヤスが自作に張曼玉をキャスティングしたのはアクション女優だと誤解したかららしい。その逸話はそのまま映画「イルマ・ヴェップ」のストーリーに生かされ、アサヤスと張曼玉はこれが縁で結婚することになった(後に離婚)。

 

続編「現代豪俠傳」(邦題:ワンダーガールズ 東方三侠2)1993年

「東方三侠」公開の8か月後に続編も公開された。今回は程小東が監督も兼ねた。

ストーリーはちゃんと前作から続いているのだけれど、何と前作の終わりの後に核戦争が勃発、世界は放射能に汚染されてしまったという「ディストピア」設定。男性陣も金城武劉青雲らが加わり更に豪華になった。

 

核戦争後まともな飲料水は貴重品となり、水源を探しに行く探索隊は放射能汚染で多くが亡くなり、怪しげな新興宗教が率いる反政府運動で世情は更に不安定に。冬冬の妊娠・出産を経て「東方三侠」も解散状態。混乱に乗じて世界征服を企む者に誰が立ち向かうのか…。

 

水探索の連中の雰囲気は「マッドマックス怒りのデス・ロード(2015)」を思わせるけれど、この映画の方がずっと古い。ファッションは70年代風(張曼玉だけかも)なのに、サイケな色調は何処にもなく一作目より更に暗く、全体の雰囲気は一作目より更に陰鬱。しかも登場人物が死屍累々…勿論アクションシーンもあるのだけれど、あんまりすっきりした気分にはなれない。

続編が前作を越えるというのは、やっぱりすごく難しい。

 

その後の主演三人

張曼玉は上記の通りオリヴィエ・アサヤス監督と結婚、銀幕を事実上引退してしまった。

歌手としても絶大な人気を誇り、映画での出演も多かった梅艷芳は2003年、癌でこの世を去った。楊紫瓊は息の長い芸能活動を続けハリウッドに進出。2023年、アジア人俳優初のオスカーを手にした。

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題名:東方三侠 The Heroic Trio ワンダーガールズ 東方三侠 1993

導演:杜琪峯Johnnie To「毒戦」「七人楽隊」 編劇:邵麗瓊「審死官」「新上海灘」

動作導演:程小東 Ching Siu-Tung「笑傲江湖」「誅仙」

出演:梅艷芳Anita Mui 張曼玉Maggie Cheung 楊紫瓊Michelle Yeoh

 

題名:現代豪俠傳 Executioners ワンダーガールズ 東方三侠2 1993

導演・動作導演:程小東 編劇:邵麗瓊

出演:梅艷芳Anita Mui 張曼玉Maggie Cheung 楊紫瓊Michelle Yeoh

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