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成毅のフィルモグラフィを読み解く② 吐血・虐恋からの脱却

最初の事務所を離れ、新たなキャリアのスタートを切った成毅。

欢瑞世纪は成毅を男主役として育てようと考えてらしいことは、その作品や配役からも見て取れる。ただ、順風満帆とはいかなかった。

欢瑞世纪所属以前のフィルモグラフィについては「成毅のフィルモグラフィを読み解く①」をご覧ください。

各作品の内容について若干のネタバレが含まれます。ご注意ください。

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「蓮花楼」微博より 成毅の評価を決定づけた記念碑的作品

心機一転「欢瑞世纪」所属に

成毅がいつから欢瑞世纪所属になったのかははっきりしないけれど、恐らく「山河月明」撮影時には欢瑞世纪所属俳優となっていたと思われる。

 

山河月明 ドラマ

(邦題:「永楽帝〜大明天下の輝き」撮影:2018.3月-8月 配信:2022.4月)

冯绍峰主演の歴史大作。明の第3代皇帝、永楽帝の一代記。45集のうちの最初の10集で成毅は永楽帝の少年期を演じた。製作は欢瑞世纪。主人公の少年期、ということからも欢瑞世纪が成毅を本気で売り出すつもりだったことが伺える。

 

…だけど、このドラマ、長いことお蔵入りだった。4年も音沙汰がなくて22年に突然配信。どうやら内容も大分カットされたようで(当初は70話越えのような記載を見た気が)、成毅のパートも結婚式のエピソードまでしか残っていなかった(番宣写真には赤ん坊を抱いて憮然としている成毅のスチルがある)。

 

盗墓笔记之怒海潜沙&秦岭神树(「盗墓笔记2 / 盗墓笔记第二季」) 網路劇

 (撮影:2018.4月 公開:2019.6月)

原作は南派三叔の人気冒険小説。墓泥棒を生業にする家に生まれた主人公呉邪と親友の胖子、謎の美青年・小哥の三人を主人公に、不可思議な遺跡に潜り、謎を解いていく物語だ。

「第二季」とあるのは以前欢瑞世纪が李易峰(当時欢瑞世纪の一番手だった)主演で「第一季」を作っているからで、これにはブレーク前の楊洋も出演している。

 

主演の呉邪に侯明昊、人気キャラ小哥に成毅を配し、アクションシーンもふんだんにある。特に小哥は驚異的な身体能力を持つキャラクターで、壁を走ったり、高いところに飛び移ったりといったアクロバティックな動作も多く、成毅の華やかなアクションを堪能できる。

 

水中遺跡や洞窟内に生える巨木を探険する物語で個人的には大好きなのだが、途中ダレる箇所も多く、原作から大幅に改変されているため前作と話もキャラクター造形もかみ合わない。おまけに雪山の冒険の途中(雪崩に襲われ生死不明!ピンチ!)でバッサリとエンドを迎えてしまう。

 

欢瑞世纪はすぐに続編を作るつもりだったのかもしれないが、原作者の南派三叔から愛想をつかされドラマ化権を引き上げられてしまった。

 

長安諾 The Promise of Chang'an(邦題:長安 賢后伝)網路劇

(撮影:2018.9月 公開:2020.9月)

クレジットは成毅の方が上に来ているけれど、赵樱子演じる女主の相手役。欢瑞世纪製作。

初恋の相手との結婚を望みながらも兄の皇帝に嫁ぎ、皇帝をその英知で支え、息子を次の帝にし、実質的に国を治める女性の一代記。…なのだが、男主側から見ると報われなさ加減が半端ない。

成毅は女主の初恋の相手で、そもそも自分が次の皇帝になるはずのところを兄に嵌められ皇位も恋人も取られてしまうが、その後も彼女を想い続け、結局は皇位簒奪の野望も諦め、わが身を犠牲にする「虐恋」ものの走りのような作品。

ドラマの中で成毅は16歳くらいから40歳過ぎの壮年までを演じている。付け髭姿の成毅には驚くけれど、細やかな演技のお陰で割と早く慣れる。

 

このドラマも公開が遅れ、結局「琉璃」で成毅の人気に火がついてから配信となった。

 

「琉璃」での成功とその功罪

2018年に3本の作品に出演したものの、評価の定まらないまま2019年を迎えた成毅。この年に出演した「琉璃」でようやく人気俳優としての地位を獲得する。

 

琉璃 Love and Redemption(邦題同じ) 網路劇

(撮影:2019.2月 公開:2020.8月)

既に「聴雪楼」「将夜」等で主役級だった袁冰妍をヒロインに迎えた仙侠劇。当時欢瑞世纪には任嘉伦、杨紫という二枚看板がおり、その次を育てよう、という意図が働いたようなキャスティングだ。

 

女主の中に眠る不思議な力を巡る話なので基本ヒロインが主人公なのだが、最終盤は寧ろ男性が主人公になるちょっと不思議な構造の物語。欢瑞世纪製作。

 

物語は中盤まで武林が舞台なので武侠的なアクション、ワイヤーワークも多い。男主の禹司風は羽を広げ空を飛ぶ、というシーンがあり、この所作が大変美しく仕上がっていて印象的…なのだが、それ以上に吐血シーンが多い。

男主・禹司風(成毅 飾)は初めから女主に惹かれているのだが、女主が五感を失い、恋愛感情も知らないという設定なので、その想いは一方的で報われない「虐恋」だ。感情が戻った後も二人は正邪に分かれて対立することになったりすれ違ったり命の危機に陥ったり、そもそも運命が…と、様々なパターンの悲恋モードが続いていく。

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二人の切ない物語は視聴者に受け、成毅は「八月の恋人」として人気を博することになった。

ただこの時注目されたのは演技やアクションより「虐恋」と「吐血」。この作品に続き「長安諾」「与君歌」が立て続けに公開されたことで、これらが成毅のイメージとして定着してしまった感がある。

 

ブームは長く続かない、が…

「琉璃」での成功で活躍の場が広がるかに思われた成毅だけれど、その後も欢瑞世纪にのみ主演、という状況が続く。「吐血」「虐恋」というキャラ設定も引きずったままだ。

 

迷局破之深潜 Deep Lurk 網路劇(撮影:2019.11月 未公開)

「琉璃」に続いては(多分民国期の)抗日スパイアクション…だったはずなのだが、この作品は今に至るまで公開されていない。最近またポスター等が公開されたりしているので「蓮花楼」人気にあやかって公開されるかもしれないけど。欢瑞世纪製作。

 

与君歌 Stand by Me 網路劇

(撮影:2020.7月 公開:2021.8月)

年若い皇帝とその護衛(女性)が、強大な力を持つ宦官に対抗する歴史ドラマ。欢瑞世纪製作。共演は「琉璃」で女性二番手で出演していた张予曦。古装ラブロマンスかと思いきや、実在の人物をモデルにした謀略劇でもあって、皇帝、その叔父、女主の姉がそれぞれ面従腹背で謀略を巡らし宦官を倒そうとする過程はなかなか面白い。

ただ、张予曦のアクションは余り上手いとは言えず、皇帝は後半病気がちで(吐血したり倒れたり…)活躍するシーンは少ない。全体的には冗長な部分も多く、不明瞭な点も多々。

 

南風知我意 ドラマ(撮影:2020.11月 公開:2023.10月)

「与君歌」と同じ张予曦との共演の現代劇。事務所の女優二番手だった袁冰妍が退所したため、彼女を売り出そう、という事務所の意図があったのかもしれない。

現代劇は欢瑞世纪に移ってからの成毅にとって初めてのジャンルだったが、こちらも3年経ってからの配信(「沉香如屑」のヒット後。配信予告だけはずっと前からされていた)。

現代劇なので編集に時間が掛かったりはしないと思うのだが、タイミングを見ているうちに配信し損ねたような印象だ。

 

製薬会社の御曹司と女医のラブストーリーで、再会した時に男主は足が不自由になっていて…という内容。うーん。ありふれた内容と张予曦が苦手なせいで、途中リタイヤでした。

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欢瑞世纪製作ドラマは徹底した娯楽作品なのだがどこかチープ、どの作品も無理やり本数を増やして後半グダグダ、になりがちだ。

本数の水増しは単純に、枠が決まってからドラマを制作するのではなく、パッケージ売りをするせいだろう。一本の値段×本数で、本数が多い方が高く売れるというシンプルな理由だ。

欢瑞世纪に限らず中国ドラマは上からの本数制限が掛かるまで、どんどん本数が増え続けていた。

チープに見えるのは、ライティングやCG等の技術力の問題と、戦闘が原っぱばかりだったり、後半の脚本が全く練られていなかったりという、製作そのものに「時間とお金がかけられていない」ためかもしれない。

 

欢瑞世纪にしてみれば、ドラマ制作は役者さんの見本市の意味合いが強く、主役にしろ脇役にしろ、そこで認められれば他社からお呼びがかかり「外貨」を稼いでくる俳優に育つから自社制作ドラマには予算も時間もかける必要がない、ということなのかもしれない。

 

欢瑞世纪の「一番手」俳優に

成毅にとって状況が変わったのは、欢瑞世纪の大御所二人、任嘉伦と杨紫が相次いで事務所を退所することになった辺りだと思われる。

事務所としては成毅を男優の一番手に据え、それなりのヒット作を作る必要が生じた。

 

理想照耀中国 ドラマ(撮影:2021.1月 公開:2021.5月)

共産党設立100周年記念オムニバスドラマ。中国ドラマの主役級を全部集めたような豪華なキャスティング。成毅はその中の一本で欢瑞世纪の俳優としては唯一人主役を務めた。

 

沉香如屑・沉香重華 ドラマ (撮影:2021.3月 公開:2022.7月)

「虐恋」路線の集大成、ともいえるドラマ。女主はなかなか決まらなかったという噂もあったが、結局事務所を退所した杨紫が務めることになった。

仙侠もの、というよりファンタジーロマンスといった趣の方が強いドラマで、天界→人間界→天界と舞台を移しながら、天帝の甥である帝君と蓮花の精、上古の九鳍族、三人の運命の恋が展開する。

 

恋愛禁止の天界での身分違いの恋、目の見えなくなる男主、命の半分を削り瀕死になりながら男主を救う女主…これでもか、というくらいの「虐恋」シチュエーションを縦糸に、天界と魔界の争いや古装探案の要素、三角関係のあれこれなど内容は盛りだくさん。成毅は主人公の父親役を含む三役を努めるなど演技力の高さも披露した。

 

前宣伝もかなり派手に行われ、成毅にとっては「琉璃」以来のヒットドラマとなった。

 

欢瑞世纪以外の作品への出演

欢瑞世纪で年2~3本の作品に出演、というルーティンを繰り返してきた成毅だけれど、ようやく外部製作のドラマに出演するように。演技者としての実力も認められるようになった。

 

底线 ドラマ(撮影:2022.2月 公開:2022.9月)

欢瑞世纪に移って以来、初めての外部製作の連続ドラマ。製作に人民法院が入っていて、所謂国策ドラマなんだろうけれど、実際の事件を基にしていることもあり、それなりに面白い。

 

主演は靳東。地方裁判所家庭裁判所を合わせたような、地区の「人民法院」(民事訴訟や離婚裁判を扱う)の裁判官だ。成毅は彼の弟子の一人で同じ裁判所の裁判官役。靳東、成毅、もう一人の弟子で高裁にあたる裁判所(こちらは殺人事件等の重罪を扱う)の女性裁判官、の三人が担当する事件が、平行して描かれていく。

 

判事が検事役も兼ねるらしいなど、裁判制度が余りに違うので時々理解が追い付かないし、成毅の造型は実際の裁判官の制服に準じているので、正直ダサい。それでも成毅らしい、繊細な芝居は胸を打つ。

この作品は人民日報や文匯報等一般紙でも好評を得、成毅の演技も高評価を得た。

 

蓮花楼 ドラマ(撮影:2022.6月 公開:2023.7月)

成毅、初めての武侠片。欢瑞世纪製作。監督は「沉香如屑」と同じ郭虎・任海涛。あちらはアクションシーンが殆どなかったので心配したけれど、蓋を開けてみれば成毅の華麗な武侠アクションが炸裂していた。

 

今まで常に成毅を恋愛ドラマの主役に据えてきた欢瑞世纪だが、このドラマに恋愛要素は殆どない。武侠片らしく男三人の友情の物語だ。主人公・李蓮花はまだ些か「吐血」のイメージを引きずっていて、毒に侵され余命いくばくもなく且つての武功もないという状態だが、ここぞという時には華麗な剣さばきを見せてくれる。

 

どうして欢瑞世纪が急に「新武侠」ジャンルの作品を作ろうしたのかは分からないが、随所に現れる武侠ものの「お約束」や「殺陣の形」を見ていると、製作者サイドも武侠ものがやりたかったんだろうなあ、と思う。そのせいか演出も恋愛劇より上手になった気が…。

 

この作品は成毅の本来の長所である「演技の上手さ」と「アクションができる」ことを改めて証明してくれた。本編の流れるようなアクションだけでなく、ほぼ本編と同じ速度(アクションシーンの多くは撮影後スピードを速めたり、逆にスローモーションにすることが多い)で途切れなくアクションを繰り出すメイキングも注目された。

 

成毅の待播・次回作等

「蓮花楼」以降撮影、或いは撮影予定の作品は楽しみなものばかり。改めて成毅の俳優としての実力が対外的にも充分認められたことが分かる。アクションシーンが多そうなのも嬉しい。

 

英雄志 ドラマ(撮影2023.1月 2024年公開予定?)

半年近く撮影していた武侠片。共演は李一桐・郑业成。途中怪我で車いす姿だったり、トラブルの噂が聞こえてきたりで些か心配な本作。撮影は昨年中に終了し、一応今年公開予定。

 

狐妖小红娘·王権篇(撮影2024.1月 2025年公開予定?)

「狐妖小红娘」三部作の三作目。既に公開された一作目が余り高評価を得られなかったので、二作目、三作目はどうなるか、ちょっと心配。大変にカッコいいアクションシーンが含まれた予告編は公開済。

 

赴山海(撮影:2024.5月 未公開)

原作は「四大名補」等減殺武侠小説の第一人者、温瑞安の「神州奇侠」。「武侠小説を熱愛する主人公が、小説内の主人公の視点から武林を遊歴する物語」というのが百度百科の説明だけれど、今一つピンとこない。…でも大変すばらしいワイヤーアクションシーンが公開になっているので、期待大。撮影中。

 

長安二十四計

出演が決まった、と伝えられている作品。馬伯庸原作の「長安十二時辰(邦題:長安二十四時)」の続編、ということなのだけれど、詳細不明。ポスターのみ公開。

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…ここまで読んでくださった方、お付き合いいただいてありがとうございました。

競争の激しい中国芸能界では、成毅に限らず役者さんの人生は山あり谷ありで大変そうだ。

成毅のファンとしてはこれしかできないけれど、これからも陰ながら応援していきたい、と思います。

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題名:琉璃 Love and Redemption 2020年

原作:十四郎「琉璃美人煞」

編劇:刘芳 李蕙敏 程妤 王威

導演:尹涛 麦贯之

出演:成毅 袁冰妍 刘学义

 

題名:沉香如屑・沉香重華 沉香如屑·沉香重华 Immortal Samsara 2022年

 

原作:苏寞「沉香如屑」

編劇:张鸢盎

導演:郭虎 任海涛

出演:    杨紫 成毅 张睿

 

題名:蓮花楼 莲花楼 Mysterious Lotus Casebook 2023年

原作:藤萍「吉祥纹莲花楼」

編劇:    刘芳(总)李惠敏 程妤 王威

導演:郭虎 任海涛

出演:成毅 曾舜晞 肖顺尧

 

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