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中国ではどうやって歌手になるのか⑤周深

「音楽縁計画第二季」で周深が18歳の张峻豪に対して「18歳でアルバム出すなんてすごいねえ」と言っていたのを見て、意外だった。周深って何となく“神童”みたいなイメージだったからだ。2019年の「我們的歌第一季」でも周深と肖战は若手の中でも“別格”扱いだったし、中国ドラマを観始めた頃OSTには必ずと言っていいほど周深の歌声が流れていた。

プロフィールを調べてみたら、平坦ではなかったその道のりが少し見えてきた。

出典は百度百科と中文版Wiki、及びそこに掲載されている資料からです。

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「音楽縁計画」微博より 周深のコンサートには親子専用席が設けられたこともあるそう。
ファンの年齢層も広そうだ。

3つの歌で周深のプロフィールを読み解く

沢山の曲をリリースしているし、歌番組やイベントに引っ張りだこだし、賞もモリモリもらってる周深。うーん、どう整理をつけたらいい?

プロフィールを眺めているうちに、目立つ曲が3つあるのに気づいた。「大魚(2016)」「花開忘憂(2022)」「小美満(2024)」。

「大魚」は周深自身が「きっかけになった曲」と語っていた(「歌手・当打之年(邦題:歌手2020)」)し「花開忘憂」「小美満」は未だに勝訊のヒットチャートに入っている(11/10付で20位と21位/166週と92週連続)。勝訊のチャートは一曲が長いことチャートインしていることが多いし動きが鈍い気もするけど、こんなに長く入っている曲は他に見当たらない。

多少強引ではあるけれど、3つの曲を節目ってことにしてプロフィールを整理してみよう。少しは分かりやすくなるかもしれない。

 

「大魚」まで

1992年湖南省邵陽市の小さな山村生まれ。邵陽市が何処かというと湖南衛視(芒果TV)の本拠地長沙市から西南に100kmくらい、成毅の出身地・懐化市のお隣だ。小学低学年で両親が働く貴陽市(こちらは邵陽市から更に200kmくらい東で重慶の南)に移住。この頃から歌が上手く、先生から合唱団に推薦されたりしている。

中学になっても声変わりしなかった周深は、揶揄われるのが嫌で級友の前で一切歌わなかった(青春期健康·家庭版2021.05.01)。だが17歳の頃から蘇打緑(Sodagreen)の歌を聴いて覆面でYYに歌を投稿し始める。Sodagreenは台湾のバンドで、メインボーカルの男性はやはりソプラニスタだ。

 

記事によるとその先も紆余曲折あったようだ。YYでは顔出しした途端ファンから「騙された!」という非難が巻き起こる一方で、高校で歌った自作の歌は校長から称賛される。老舗のオーディション番組「中国好声音」の演出家の目に留まり声を掛けられるが、YYの時のような非難が起こるのが怖くてオファーを2度とも断った。

高考に失敗した周深はやむなく両親がお膳立てしたウクライナの医学大学へと進学する。医学の勉強が受け付けられず音楽を学びたいと両親に告げるが理解されず、仕送りを止められてしまう。アルバイト生活と声楽の勉強で喉を壊し帰国。再びウクライナに渡り中国人は弟子に取らない声楽の先生を説得し、ついに音楽学校にも入学を果たす。

 

…大変だったんだな、というのが正直な感想だ。天性の歌声を持っており努力もしていて、その才能を見出す人までいるのに、周囲の無理解と偏見が成功を阻む。

 

「大魚」

2014年21歳の時「中国好声音」の演出家から第三季の出演をオファーされる(これで三度目だ)。周深はまだウクライナで勉強中だったがとうとうオファーを受け出場、台湾の女性歌手・齐豫の「歓顔」を歌った。

…登場したのは正直小柄で痩せっぽちの垢抜けない少年だ。ところが歌い始めると審査員の表情が変わった。

 

女性のようでいて女性の声にはない独特の風味を持つ周深の声は多くの音楽関係者を魅了した。当時音楽配信大手Alibaba Musicの会長であった高晓松は、自身が10年間温めていた楽曲「玫瑰与小鹿」を周深に提供。これが周深の初めてのシングルとなる。

 

「玫瑰与小鹿」の作詞家・尹约は作曲家の钱雷とアニメ映画「大鱼海棠」の主題曲を書いていた。「大鱼海棠」は少女が自分の為に亡くなった少年を蘇らせようと、彼の魂である大魚を育てる(映画を見たことないのでよく分からないけど、百度百科の説明はそんな感じ)ファンタジーだ。歌詞は少女の視点で離れがたいが手放さなければならない大魚への想いが綴られる。

誰が誰に周深を紹介したのかは各記事の記述が食い違っていて定かではないけれど、ともかく周深にこの曲のデモを歌わせよう、という話になったようだ。有名な歌手に歌ってもらうべく作ったそのデモを聴いて、監督はそのまま周深を起用することに決めたのだとか(百度百科「大魚」)。

 

ともあれ「大魚」は大ヒットした。亜洲新歌榜、東方風雲榜等で数々の賞を受賞、東方風雲榜では1185週もの間チャートイン。音楽番組やイベントの出演も一気に増加。周深は一躍有名歌手の仲間入りをした、と言っていいだろう。

 

「花開忘憂」

2017年にはアルバム「深的深」も発表(このアルバムのプロデュースは「大魚」「玫瑰与小鹿」を手掛けた高晓松・尹约・钱雷の三人)翌年には初めてコンサート(6場)も行った。音楽番組にも頻繁に出演し、ドラマのOSTの依頼も増えた。2020年から現在まで、OSTだけでも毎年30曲~40曲歌っている。ちなみに私が初めて周深の歌を耳にしたのは「如懿伝」のエンド曲「梅香如故」(2018)辺り。昔見かけた記事(何処だったか…)には「OSTの王様」と紹介されていた。

 

2021年周深は初めて「春晩(中央広播電視総台春節聯歓晩会)」に出演する。春晩は日本で言えば紅白みたいなもので、春節前日から年越しまで放送される。ここに出演する歌手や俳優は全国的に認められた人、と言っていいみたいだ。但し毎年出演できるとは限らないし、一部の大物歌手・俳優以外はデュエットだったりグループ歌唱だったりするのが常。とりあえず人数出そうとしている…とは考えないようにしよう(笑)。この時の周深はソプラノ歌手の张也と共に「灯火里的中国」を歌った。周深のプロフィールには必ず春晩とこの歌のことが書かれている処を見ると、既に破格の扱いだったのかもしれない。

 

2年後、2023年の春晩の舞台で周深は「花開忘憂」を単独で歌うことになる。

「花開忘憂」は2022年9月に発表された歌だ。この歌も「大魚」同様ある物語が語られていくのだけれど、ファンタジーではなくあるカップル(MVでは老夫婦)の何気ない日々だ。想い人は何処かへ去り、主人公は一人美しい想い出に浸っている…。

歌詞を辿りながら(聴いて分かる程中国語ができるわけではないので)聴いていると、光景がまざまざと浮かんでくるようだ。

 

この曲の作曲者は「大魚」と同じ钱雷だ。レコーディングの際、钱雷と周深は情緒が足りないと感じ「心残りに思うこと」を思い浮かべることにしたのだそう。周深の心残りはウクライナで指導してくれた恩師が亡くなった際、自分は海外公演で最後に会うことがかなわなかったことだった。レコーディングの際エンジニアの耳には、周深のすすり泣く声が聞こえてきたそうだ。(百度百科「花開忘憂」)

 

「小美満」

私が中国の春晩やその他のイベントを観始めたのは2023年頃からだけれど、その頃になると周深はすっかりトリ(もしくはトリに近い位置)が定位置だったような気がする。イベントの一番の目玉というわけだ。

 

周深の経歴を見ていて驚いたことがある。あれだけ人気があるのに、アルバムは3枚だけ。しかもデビューアルバムから(ミニアルバムを1つ挟んでいるものの)2024年までアルバムを出していない。

新型コロナの影響もあるんだろう。そもそも都市封鎖が行われていて音楽系の活動は著しく制限されていただろうし、コンサートも行えない。歌手の活動というより音楽業界自体が厳しい局面に立たされていた頃だ。

もう一つの理由は百度百科に書かれていた。周深は2~3年かけてアルバムを準備し数百ものデモを歌い一部はレコーディングまでしたものの納得がいかず、一からやり直したというのだ。

ようやく24年になって周深は満を持して2枚目のアルバム「反深代詞」を発表する。とても力の入ったアルバムで周深の多彩な面が詰め込まれている印象だ。発売後5分以内に全てのプラットフォームで30万枚以上、一日で80万枚を売り上げ、2025年9月まででダブルミリオン越えの237万枚、日本円で15億円以上を売り上げた(百度百科「反深代詞」)。この頃、勝訊チャートでトップ10に周深の曲がずらりと並んでいたのを見た覚えがある。

アルバム発売に伴い行われたツアーは30場に及び64万人近くを動員した。

 

だがこの年、周深の曲の中で最もヒットしたのはアルバム収録曲ではなく「小美満」。映画「热辣滚烫(邦題:YOLO 百元の恋)」の主題曲だ。映画は24年の春節に公開され大ヒットし、日本円で750億以上を売り上げた。

「小美満」は変身前の主人公が通りを行くシーンで流れる。日々の中の小さな幸せを歌い、(本当はいろいろ辛い)主人公にそっと寄り添いその存在を肯定してくれる、そんな歌だ。

勝訊のチャートでは29週(一年は52週なので半年以上!)も首位に立ち続け、プラチナディスクになり、その年の賞を総なめにした(百度百科「小美満」)。

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こうしてみると正に国民的歌手、という言葉がぴったりくる気がする。「音楽縁計画」等では気さくな人柄でそんな風に見えないけれど(でも案外シビアな発言も多い)。

周深が出演している番組は「歌手·当打之年」「我們的歌」と「音楽縁計画」くらいしか見ていないのだけれど、それらの番組を観る限り周深は自分のヒット曲とは毛色の違う歌、違うジャンルの歌を敢えて歌おうとしているように見える。

ちなみに個人的には「歌手·当打之年」で歌った「自己按门铃自己听」や「音楽縁計画II」で歌った「造物」みたいなちょっと毒を含んだ周深の歌が妖しい感じがして好きだ。

「音楽縁計画II」を観ていると何だかより一層歌が上手くなった気もするし…。

この人は一体どこまで進化するのだろう。すごいなあ。

 

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