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記憶の中の香港映画10: 映画版「玫瑰的故事」(邦題:ストーリー・ローズ 恋を追いかけて)

記憶の中の…とはいうものの、この映画の内容を殆ど覚えていなかった。覚えていたのはタイトルだけ(でもDVDは持っている)。原作は現在配信中の「玫瑰的故事」と同じ亦舒の同名小説だ。

…本当はドラマ版「玫瑰的故事」の予習になれば、と思って観始めたんだけれど、結論から言うと全然予習にならなかった。…お話が全く違う。

ここから先は映画「玫瑰的故事」の結末と小説のストーリーに関するネタバレが含まれます。役名が同じなのでドラマ版のネタバレにもなってしまうかもしれません。ご注意ください。

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「玫瑰的故事」豆瓣より 如何にも文芸大作っぽい雰囲気

キャストは豪華、でも…

映画版「玫瑰的故事」のキャストは豪華だ。主役の黃玫瑰に、張曼玉Maggie Cheung Man-Yuk、兄・黃振華と運命の恋人、傅家明の二役を演じるのは周潤發Chow Yun-Fat

この二人の顔合わせは珍しく、調べた限りこの映画だけだと思う。

この映画で周潤發は上流階級のインテリ男性を演じている。「英雄本色(邦題:男たちの挽歌 1986)」で香港ノワールのアイコンとなる少し前の頃で、とにかく美しい。

張曼玉はデビューからほぼ主役街道を歩んできた女優さんだ。この映画の時点でデビュー三年目だけれど、既に「警察故事(邦題:ポリスストーリー)」のヒロイン役で不動の人気を得ていた。

 

導演・編劇・撮影は楊凡。作品数はそれほど多くはないし、正直余り知らない人だ。ただこの人の「新同居時代」(1994・三話のオムニバス)の第一話だけはすごく好きで何度も繰り返し観た。台湾のアイドルグループ小虎隊の吳奇隆Nicky Wu Chi-Lungと張艾嘉Sylvia Chang Ai-Chiaの恋物語で、香港映画デビュー2作目の吳奇隆の新鮮さと、張艾嘉の繊細な演技が印象的だ。

二話と三話の記憶が全然ないのは問題だけど、第一話は不思議な魅力がある。

 

「玫瑰的故事」はそもそも人気小説の映画化で話題性もあり、公開当時は大ヒットしたらしく「香港の文芸映画の興行記録を破った」と中文Wikiにはある。

 

なんでこんなストーリーに?

キャスティングを見てまずおかしいな、と思うのは周潤發が兄と恋人の二役を演じていること。そう、この映画では黃玫瑰ことローズが恋しているのは実の兄だったりするのだ。

…まあこの時期の周潤發は細身で大変ハンサムだから、妹がブラコンになっても仕方ない気もするけど。

 

兄妹が住むのはコスモポリタンな香港。派手なネオンやごちゃついた裏通りはこの映画には登場しない。二人の家は真っ白な二階建ての一戸建てだし、兄も妹も働く必要のない身分のようだ。亦舒の作品は都会的でファッショナブル、というのが特色のようなので(私は読んだことがないのでこちらも中文Wikiからの受け売り)、そうした雰囲気の再現を目指したのかも。

 

ローズは若い頃から男性に非常にモテていて、同年代の男友達や家に出入りする妻帯者まで本気にさせてしまう魅力の持ち主だ。婚約者のいる遊び人との破局を経て兄への自分の気持ちに気づいてしまったローズは、パリへの留学を決意する。

 

ローズが改装に苦労するパリのアパルトマンもお洒落。パリの生活はローズにとって貧しくて辛いという描写が入るけど、正直この程度の苦労は苦労のうちに入らない、と思うのはこちらが庶民だから(笑)?

呼び寄せた兄とセーヌ川を下ったりしているので、ちゃんと海外ロケを敢行した模様。でもパリの映像は少ない…。

 

結局兄も同じ気持ちだけれどお互い想いを封じ込めることにし、ローズはパリで知り合った留学生と結婚、一児をもうける。そんな時兄から自分が不治の病であること、愛していない男との結婚はやめるように、という手紙が届く。

 

兄の死後、離婚して一人香港に戻ったローズ。建築家の溥家敏と知り合うが、その兄溥家明と恋に落ちる。いろいろあった挙句二人は結婚することにするが、家明は結婚式の当日、子どもを救おうとして事故死。一人残されたローズは唯二人の大切な人との思い出に浸る…。

 

…うーん、記憶に残らないのも無理はない。張曼玉はこの時22歳で、後半の様々な人生経験を経て成長したローズを演じるのには無理がある。ローズの設定も、仕事をするわけでもなく生活感も皆無なので、様々な男性との恋愛を経て成長した、という実感も沸かない。

周潤發とのやりとりも甘い、という感じはあんまりなくて肩透かし。

 

やっぱり兄と恋人の二役を周潤發一人に演じさせようとしたのが敗因じゃないのかなあ。設定上も実の兄なので、抑えた感情表現以外できないし、二人のシーンは何だか暗くなりがちだ。まさかこれ、原作通りってわけじゃないよね?

 

原作からは大きく改変

原作を一気に読める程の語学力はないので、とりあえず百度に掲載されているあらすじを読んでみる。

ローズの最初の恋人は映画でもちょっと登場した婚約者のいる男性で、その後アメリカ(映画ではパリ)に留学して、とりあえずの結婚をして子供をもうけて別れるのはほぼ同じ。建築家の兄弟と知り合い、兄の方と恋に落ちるのは同じだけれど、彼は病死してしまう。…小説ではこの後もいろいろあるらしい。

 

男主を兄と恋人の二役に設定した理由は何となくわかった。小説は基本的にローズの成長譚なので、彼女の人生に関わる男性は入れ替わっていく。彼女の半生を通しての相手を設定しないと、周潤發が映画の最初から登場できない。そうかといって最初の恋人と最後に結ばれたりしたら、小説の妙味を全く失ってしまう。だから二役。そして兄の方に「病死」というアイテムを使ってしまったので、やむなく後半の恋人には「事故死」を用意した…と。

 

そういう意味でストーリー改編には苦心の跡が見えるのだけれど、肝心の小説のテーマをどこかで取りこぼしてしまったようだ。

小説の方は(あらすじを読んだだけだけど)幾つもの恋愛や別れの中で、ローズが自分で自分の人生を選択していくようになる(んだと思う)。映画のローズは最後まで主体性がないままだ。二人の男性を失い、呆然とする彼女がラストカットだなんて、哀しすぎる。

 

ちなみに小説で最後に人生の伴侶に選んだ男性は、映画のラストに名前だけ登場する。映画ではその男性からかかってきた電話に、ローズは出ないのだけれど。

 

配信中のドラマ版を予告だけ見てみた

ドラマ版の主演は刘亦菲Liu Yifeiだ。予告編を見る限り、張曼玉よりあらすじを読んで感じた主人公像に近い。この小説の主人公が最初から自立した主人公なのか、それとも数々の経験を経てそうなっていくのかはよく分からないけれど、美しく魅力的な主人公だと思う。

舞台は香港ではなく上海に移されているようだけど、今の上海なら十分にコスモポリタンだろう。

 

映画のラストは時代性、ということもあるのだろう。80年代は世の中は今よりずっと保守的だった。日本だって「クリスマスケーキ」(25歳になると売れ残り、の意)なんて言葉がまかり通っていた時代だ。…でももう少ししっかりした女性像を描いてほしかったな。

 

それにしてもなぜ邦題が「ストーリー・ローズ」なんだろう?「オブ」入れないと英語としては正しくない気が…。ずっと気になってるんだけど、何故?

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題名:玫瑰的故事 Rose ストーリー・ローズ~恋を追いかけて  1986年

原作:亦舒「玫瑰的故事」

撮影・編劇・導演:楊凡

出演:張曼玉Maggie Cheung Man-Yuk 周潤發Chow Yun-Fat

 

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